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帰路につく前に

朝日を浴びて僕は目覚める。

夜中テンション、怖いね。外で素材の誘惑に負けたらダメだ。


「サム、メシまで寝て。できたら起こす」


岩の隙間から水が湧いているところがあるので、鍋を持って行く。一番水量のあるところに鍋を設置する。

水がたまるのを待つ間に、鍋とは別の湧き水で顔を洗う。


水の入った鍋を持って帰り、火にかける。火の番をガナンに頼み、僕とアルシェイドは海に向かう。


さて、何かとれているだろうか。


一つ目。怖い顔の長い魚、アルシェイドに頭落としてもらう。素材というより食材。魔石とって、焼こう。


二つ目。海藻がからまっていた。何に使えるか不明だが、水を切って回収しておく。


三つ目。魔具の中に塩ができていた。塩は塩商人しか取り扱ってはいけないし、密売は重犯罪。朝食に使って証拠隠滅しよう。残ったら個人でこっそり使えばいい。


四つ目。甲殻類だ。触角もある。素材によさそう。身は食べる。生で食べられると本にはあったが、不安なので焼く。


五つ目。ついに二枚貝に会えた。魔石とって、身は食用。貝殻は素材として持ち帰る。見かけから想像するより魔石の純度がいい。


「海藻は魔具によるものか、ただ引っかかっただけか?」


魚が取れる仕掛けを作ったはずだが、失敗かな?

考察は学院に帰ってからにしよう。




魔力の回復には睡眠と食事。魔力を使うとよく食べる。

肉食材は全部焼く。みんな夜中に魔力使っているからあるだけ食べるだろう。


朝から大変ジューシーな食事になりました。

ほぼ肉のみの焼肉で食材を食べつくし、香草でお茶にする。

話をするなら人心地ついた今だろう。


「帰る前に、夜のことどうするか決めよう」

「どう、とは?」


レオナがわからないって顔をした。


「学院、国、職能ギルドへ報告する?」

「ルキノくんは報告したくないのか?」


ガナンが目を細めて問う。


「先輩やサムにギルドでの立場があるのはわかっていますよ。ただ、何をどう伝えるかは意思統一しておきませんか?」

「オレはルキノが何を警戒しているがわからない」


アルシェイドの言葉にサムイルとレオナがうなずいた。


「あれだけ強いのが最初から森にいたなら、僕、絶対森に入ってないよ。それから、昼にここへ来たときにいたのはアルシェイドが相手したのだけだった」

「先輩とオレが仕留めたヤツ、三つ目がルキノが気にしてたのと違ってた」


食材にはよかたったけどね。


「ルキノの感知能力が高いのは理解したつもりだ。だが、生物の多い森で絶対いなかったと断言できるのか?」

「小動物ならともかく、あれだけ物騒ならわかりますよ。だいたいここに来るまでにあんな生物がいる痕跡ありましたか? 魔物が複数同時にいて争わないのもおかしいし、ここを狙った様に襲撃してきたのも異常です」


魔物が一体だけなら偶然かもしれない。けど、昨夜のは狙われたとしか思えなかった。


「魔物を使役できるのは魔人しかいませんわ。ルキノくんはわたしたちが魔人に襲われたっていうの?」

「僕は魔人がどんなモノか知らない。だからそうだとはいえないけど、アルはわかる? 僕にはアルが何を相手にしたか見えなかった」


アルシェイドは困った様に笑う。迷って口を開いた。


「オレ、ファーゼルス王国出身でね。魔人がどんなモノか知っている」


魔人によって滅んだ国、ファーゼルス。大陸の南にある小国で、国がなくなったあとも魔人の被害が止まない地域だ。確か移動制限もかかっていたはず。


アルシェイドは僕を見て、ムリして笑った。


「ルキノ、正解。襲撃前、怯えてたから黙ってたんだが、意味なかったな」


ガナンは頭を抱えた。


「僕、襲撃直後気絶してずっとレオナに守られていたことにしよう。突然すぎて何も見てないし、何も覚えていない。昼も何もなかったってことで、よろしく」

「ルキノくん? どういう意味ですの? 説明して」

「ドラゴン討伐の後の騒ぎは辛かった。僕は魔人討伐とは無関係です」


騒ぎの中心にいたサムイルが笑う。


「そういや、死んだ目をして、彼は子どもころから僕の英雄でした。で、すべての取材にこたえてたな。ルキノは」

「とりあえずよけいな発言をしないでほめとけって師匠に言われたんだよ」


彼はすごい。ただし、具体的な話は一切ナシ。

この子話にならないってあきらめてくれるまで、長くて辛い、地味な攻防だった。


「アルは魔人討伐の英雄だね。母国でのことまで調べられるだろうけど、がんばって。僕はルームメイトとして、彼は親切で優しい人です。って答えよう」


前回は師匠が取材回答を用意してくれたが、今回は自分で対策しておかないといけない。


「僕は気絶してて、まったく状況がわからないけど、彼は優しいから一番危険な相手に挑んだんでしょう。くらい言っとけば、勝手に美談にしてくれそう」

「待て。オレ、祖国のこと触れられたくないよ。そっとしておいて欲しい過去ってあるだろう?」


慌てるアルシェイドに僕は事実を告げよう。


「あー、ムリムリ。ドラゴンスレイヤーと組んでいた相手ってことで、師匠も僕も調べられたから、当事者は逃げられないよ」

「一緒にいただけで調べられるものなんですか? わたし、気絶したルキノくんを保護してて、何も見てません。留学先で良くも悪くも問題起こすなといわれてますし、わたし、無関係です」


思いのほかレオナが必死だ。

助けてもらっているから理由は追求しないであげよう。


「オレさ、全部燃やして消し炭にしたから、魔人がいた証拠はないんだ。種類の違う魔物が三体いたことで魔人の関与を疑われるかもしれんが、魔人はいなかったことにしよう」

「オレは魔物を一体倒しただけだ。それだけなら国にもギルドにも報告の義務はない。どうするかは、二体とどめを刺した先輩に任せますよ」


ガナンは恨みがましい目で一年生四人を見る。

考える時間がいるようだ。


「昼間前にはここを立ちたいから、調理器具以外は片付けよう。先輩は、ここで座って監督してて下さい」

「テントはオレとサムでかたずけるか?」

「待って下さい。テントから荷物出してきます」


僕は素材の整理しよう。

実習課題の管理も僕だし、鞄の残り容量を把握しておかないと、帰り道で採取する魔草が決まらない。


「ねえ、ルキノくん。サムイルくんの背たけくらいあった羽がどうしてリュックに入ってるの?」

「空間拡張してるからね。浮遊魔術も使われているから、重くもないよ」

「ほっとくとルキノは素材に潰されるから、師匠が作ったんだよな」

「かわりに採取はリュックに入る量までって決めらけたけどね」


作ってくれた師匠も素材好きだし、収集癖には寛容で協力的だ。たまに素材とられるけど、かわりに何かはくれる。




食材調達に行く。

スープとパンだけは嫌らしく、ガナン以外はみんな積極的だ。サムイルとレオナで青色岩トカゲを狙う。僕とアルシェイドで森の中で食材及び素材を採取する。

ガナンは昨夜の魔術痕跡を調べるため、森を調査中。食事になったら呼ぶ。


「ルキノ、素材より食材」

「大丈夫、青色岩トカゲは確実に食べれる」


串も渡しているから、サムイルは串焼きの準備もしてくれるはず。野草をいくつかつんで、アルシェイドには木の実や果物を採取してもらう。

腕を伸ばすだけで届くっていいな。

僕の成長期はこれからのはず。




早めの昼食をとる。

ガナンは疲れた顔をしていた。


「アルシェイドの魔術痕跡は消させてもらった。レオナちゃんとルキノの魔術痕跡は結界と調理での痕跡にするから」


悩みに悩んだガナンは魔人関与の疑いあり。と、報告する決断をしたようだ。

過去を探られるのは精神的苦痛とささやくアルシェイドに、騒ぎになったら留学中止なると沈痛な表情を見せるレオナ。ガナンは二人に配慮した。

僕に対して配慮がないのはまあいいとしよう。大事なのは結果だ。


魔物を討伐したのはガナン。サムイルが討伐した場所の魔術痕跡は他の場所の様に激しくなかった。森に通常いる魔獣を討伐で、ごまかせる。

実習拠点に魔物が三体でた。その場で一体、討伐。残り二体をガナンとサムイルが拠点から誘導。僕、アルシェイド、レオナは魔物怖いって結果に閉じこもっていたことにする。

ガナンは一人で一体討伐し、サムイルに合流。三体目を討伐するという筋書きだ。


「手柄独り占めでいいのか?」


善良なガナンは苦悩しているようだ。一人で全部やったことにしといたら、意見の食い違いを出さなくてすむし、手柄がほしいなら、ガナンにおしつけてはいない。


「気にするなら、お金はいったら高い素材買って下さい」

「わたしは素材よりお食事がいいです」

「オレ、武器がいい。魔剣とか妖刀の呪われたヤツ」


幼なじみの病気がでた。

あいつは呪いと対決するのが趣味。武器限定で、精神汚染を力技でねじ伏せるのがいいそうだ。


「サム、呪われたおもちゃは師匠がいるとこで遊べよ」


呪いに負けて魔力暴走をおこしたら災害になる。


「君ら二人を弟子にした師匠にオレはぜひとも教育方針を聞いてみたい」

「人生は常に戦い」

「金と素材は大事」


こたえてあげたのに、アルシェイドは遠い目をした。


「先輩、オレも食事でいいです」




食事が終わると僕らは帰路についた。

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