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チョコの魔法

「こっころちゃーん。友チョコ交換しましょー」


 お昼休みに上機嫌で現れたのは、真理奈先輩と朧先輩だった。

 私の手作り感溢れるチョコと、お二人の高級チョコを交換する。

 きゃっきゃうふふと嬉しそうな先輩たちだけど、ほんとにそんなのでいいんですか?

 

「そうだ。ねえねえこころちゃん、私これから桃坂にチョコ渡すんだけど」


 真理奈先輩の言葉にざわついていた教室が一瞬でしんと静まり返った。


「いいんだよね? 私が桃坂に本命チョコ渡しても」

「……」

「そのことなんだけどさ、私も渡してみようかなと思うんだけど」

「……!」


 まさかの朧先輩も参戦ですか。 

 驚きで、言葉が出てこなかった。

 ただ自分の心臓の音がうるさいくらいに耳に響く。


「あの真理奈先輩。桃坂先輩は誰からもチョコを受け取ってないって聞きましたけど」


 隣にいたさっちゃんが言葉の出てこない私を見かねたのか、そう言った。


「だーいじょうぶ。実はこのあと二階の渡り廊下で渡す約束もしてるの。でも私たち、こころちゃんのこと大好きだから、私と桃坂が付き合うことになっても、こころちゃんとも仲良くしていきたいんだ。だから確認したいの。私と桃坂が付き合うことになっても、こころちゃん、仲良くしてくれるんだよね?」

「なに言ってるの真理奈。桃坂と付き合うのは私になるかも知れないんだからね。こころちゃん、私が桃坂と付き合っても平気よね?」


 平気? 

 平気なんかじゃない。

 だって今でもどうしていいか分からなくて、頭の中がぐらぐらするのを止められない。

 でもなんで朧先輩まで?

 桃坂先輩に気のある素振りなんか一切なかったはずなのに。


「先輩たち、静流先輩がチョコ受け取るって、本当なんですか?」


 委員長の疑うような視線を笑顔で受け止め、二人は同時に頷く。


「疑うんなら一緒に行きましょうよ。こころちゃんにもちゃんと桃坂がチョコを受け取ってくれるところを確認してほしいわ」

「ええっ!?」

「そうですね。行こう。佐倉さん。ちゃんと確認しなきゃ」

「そうだよこころ。行かなきゃ」


 うそでしょうそでしょ。

 なんでそんなの見に行かなきゃならないの!?

 嫌だと言おうとしたのに、委員長たちは行く気満々で私の背中を押す。

 真理奈先輩と朧先輩に両腕を取られ、委員長とさっちゃんに背中を押され。

 なにこれ連行ですか?

 行きたくないってばー!!




 たどり着いたのは教室棟と教室棟をつなぐ屋外の渡り廊下だ。

 この渡り廊下、来たことある。

 文化祭の少し前。

 私と桃坂先輩がベスパコンに出るってことになった時、桃坂先輩が話があるって私を連行した渡り廊下だよね。

 いやちょっと待ってよ。

 なんでここなの。

 確かここって二階と三階の窓からよく見える場所だったよね。

 あの時もみんなが窓から覗いていて、滅茶苦茶恥ずかしかったんだから。


「あ、ほら。ちゃんと来てる」


 ドアの影からみんなでこっそり覗くと、渡り廊下の真ん中あたりに、桃坂先輩がひとりで柵にもたれていた。 

 うわ。

 怒ってる。

 絶対怒ってるって顔してるよ。

 いつもと全くちがう、甘さの一切削げた厳しい顔で冷たい風に吹かれている桃坂先輩。

 なんでみんな平気な顔してチョコ渡せるんだろう。


「じゃあこころちゃん、ちゃんと桃坂が受け取るか見ててね。桃坂がチョコを受け取ったら、桃坂は私の彼氏になるんだからね」

「だからちがうってば。桃坂は私の彼氏になるんだからね。こころちゃん、ちゃんと見てて」


 二人が先を争うように、渡り廊下に繋がるドアを出ていった。

 怖くないの? 先輩たち。


「こころ、いいの?」


 一緒に付いてきてくれたさっちゃんが、私の手をぎゅっと握りしめた。

 よくない。

 全然よくない。

 だけど。

 桃坂先輩が真理奈先輩たちのチョコを受け取るわけが。


 軽やかな足取りで桃坂先輩に近づいていく二人の先輩。

 一言二言交わしたあと、真理奈先輩が持っていた紙袋からチョコを取り出し、桃坂先輩に差し出した。

 続いて朧先輩も同じように桃坂先輩にチョコを差し出す。


 受け取らないよね?

 だって、桃坂先輩は、私のことが好きだって。

 じっと真理奈先輩の手元を見ていた桃坂先輩の右手が、ゆっくりと動いた。

 え? 嘘でしょ?

 ゆっくりと、でも確かに真理奈先輩のチョコに向かっていく右手。

 

「うそ。受け取るの?」


 信じられないというようなさっちゃんの声がやけに遠くに聞こえる。

 桃坂先輩の前に立つ真理奈先輩が、会心の笑顔で私の方をちらりと見た。


 その瞬間。

 何かが私の中で弾けた。




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