もしかして理解できないのは私だけなんでしょうか
軽くお化粧した綺麗な色の唇に微笑を浮かべ、綺麗に巻かれた髪の先を指でくるくると弄びながら、真理奈先輩は私の顔をまっすぐ見つめていた。
今、真理奈先輩は、なんて言った?
バレンタインに?
桃坂先輩に告白???
いやでも。
「真理奈先輩、さっき桃坂先輩のこと、自己中とか言ってませんでした?」
私がそう言うと、真理奈先輩はてへっと舌を出した。
「まあ確かにそうなんだけどね。知ってる? 最近桃坂の人気が急上昇してるって」
「……いいえ」
「桃坂は、元々年上とか年下の女の子にはそこそこ人気あったんだけど、同級生からは子供っぽ過ぎるってあんまり人気なかったんだよねー。桃坂自身、男子とつるんでバカ騒ぎするのが大好きで、あんまり女子には絡もうとはしなかったし」
「……」
「でも最近のこころちゃんと別れたって噂が出てからの桃坂って、ちょっと不機嫌でバカ騒ぎもしなくなったじゃない? 笑ってないと桃坂って結構男っぽい顔もするんだよね。そのギャップがいいって二年女子の間では注目浴びてるんだ」
……それはちょっと分かる気がする。
私も桃坂先輩の近くにいるようになって、色んな桃坂先輩の顔を見てきたけど。
笑顔以外の新しい顔を見るたびにドキッとさせられた。
「別に私が桃坂を好きだとかそういうんじゃないんだけど、なんていうかな、流行り? とりあえず新しいものは一番先に手に入れたいっていう女子心理?」
「……え?」
好きじゃないけど、手に入れたい?
真理奈先輩、何言ってるの?
私のきょとんとした顔が面白かったのか、真理奈先輩は肩を揺らしてクスクス笑った。
「好きな相手に好きだって言われて、素直に頷けないこころちゃんには、分からないわよね。でもね、私にとっての付き合うって、そんなものなの。新しい服やアクセサリーや、そんなものと一緒なの」
え、いや、だって。
「こころちゃんの考えが重すぎるのよ。飽きたり、合わないと思ったら、また新しいのを見つければいいだけの話でしょ?」
だって人はモノじゃない……。
「少なくとも、私はそう考えてるの。だから、バレンタインに桃坂にチョコ渡す。いいでしょ?」
まるで美味しいスイーツを、食べないんならもらうね、とでも言うような調子で真理奈先輩は言った。
「可愛い系代表の私と、可愛い系男子の桃坂って、カップルとしては成立すると思うのよね。問題はあの中学男子ノリだけど、今の不機嫌な桃坂だったら隣にいても全然大丈夫だし」
不機嫌な桃坂先輩なら大丈夫?
彼氏が不機嫌で、いいの?
不機嫌って、機嫌がよくない状態だよね?
え? いや。それよく分かんない。
好きな人って、いつも機嫌よく笑っててもらいたいものじゃないの?
「ほらほら。また難しく考えてる。付き合うのなんてノリだよ? 楽しければそれでいいじゃない」
こんな風に深く考えちゃう私が間違ってるんだろうか。
世の中の高校生はみんな、友達とご飯食べに行くような感覚で付き合って、じゃあねって何の痛みも感じずに別れたりするものなんだろうか。
彼氏はアクセサリーと同じだと言い切って楽しそうに笑う真理奈先輩に、私は何一つ言い返すことが出来なかった。




