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怖くないけど怖いのは嫌いです

 電車に乗ってバスに揺られ、着いたのは夏休みに先輩たちと遊びに来た遊園地だった。

 この寒いのに遊園地なんてと思ったけど、意外にたくさんの人たちでにぎわっている。

 

「さーて。久しぶりに来たなー。何乗ろうかなー」


 案内図を広げて楽しそうな桃坂先輩。

 夏の時みたいに絶叫コースターばっかり乗ってたら、凍えちゃいますからね。


「じゃあまずあれ行こっか」


 桃坂先輩が指さしたのは、秋に出来たばかりの新作絶叫コースターだった。

 顔、凍らないかな。





 最初こそ絶叫モノに走った桃坂先輩だったけど、夏のように連続で乗ることはなかった。

 どちらかというと室内もののアトラクションメインに、着々と制覇していく。

 

「あとはこれだけかー」


 ほとんどの室内アトラクションを制覇した桃坂先輩が、案内図を見て顔をしかめた。


「どうしよっかなー。佐倉、怖いの平気?」

「怖いのは平気ですけど」


 去年散々絶叫モノに私を乗せたじゃないですか。


「そっかー。じゃあ折角だから行ってみるか」


 あっちあっち、と歩きだす桃坂先輩の後ろを付いていく。

 ちょっと待って。

 怖いのって、そっちの怖いの!?




「えー。大丈夫って言ったじゃん」

「いやいやだって、恐怖の方だとは思わなかったし」

「もう俺すっかり入る気になっちゃってるんだよねー」


 私たちが立っているのはホラーハウスの前。

 そう。

 桃坂先輩の言う『怖い』は、私の想像していた『怖い』とは全然ちがってた。

 こういう驚かし系は、ほんと苦手なんですけど。


「大丈夫だよ。ほら、ちっちゃい子も出てきたし」

「……泣いてますよね?」

「俺が一緒にいるんだよ? 全然平気だって」

「いやでも」

「ほら行くぞ」

「ちょ」

「はいどーぞお入りくださーい」

「先輩っ」


 ああもうこういう時って桃坂先輩は問答無用なんだよね。

 やだって言ってるのに聞いてくれない。

 ぐいぐい腕を引かれてとうとうホラーハウスの中に入っちゃったよ。

 


 別にお化けが怖い訳じゃない。

 一人暮らししてるんだよ?

 そんなものが怖くて一人で夜が過ごせるかっていう。

 大体お化けなんている訳ないし。

 じゃあなんでホラーハウスがダメなのかと言うと。


「ちょっと佐倉。遅いよ。もっと早く進めないの?」

「そんなこと言ったって」


 元々私はそんなに視力がいい方ではない。

 特に暗いところでは、がたっと視力が下がる。

 ホラーハウスって、ただでさえ暗くて見えにくいところに、確実に自分を驚かせようとしている存在が潜んでいるのが分かっているんだから、足が前に進まないのは当然だよ。


「佐倉ってそんな怖がりだっけ」

「一人暮らししてるんですよ。怖い訳ないじゃないですか」


 見えないのが怖いだけであって、決してお化けに怯えている訳では……。

 そう言った時、何もなかったはずの空間に、おどろおどろしい照明が当たり。


「うぎゃっ」


 何かが飛び出してきたよっ。

 なんだあれ。

 よく見えないけどなんか気持ち悪いものが突然壁から飛び出してきた。

 驚いて一瞬飛び上がった拍子に、桃坂先輩に体当たりをかましてしまいました。

 いやごめんなさいでもよく見えないからほんとごめんなさいー。


「それのどこが怖がりじゃないって言うの?」

「いやいやこれは怖いんじゃなくてびっくりしただけですから」

「なんか佐倉ってほんと面白いよねー」


 からかうような口調に、思わずかちんときた。

 私ちゃんと嫌だって言ったもん。

 進まなきゃいけないのは分かってる。

 だけど足が進まないんだから仕方ないじゃん。


「だから私は嫌だって言ったじゃないですか。無理矢理入った桃坂先輩のせいですからね」

「えー。俺のせいなの?」

「そうです。桃坂先輩のせいなんだからちゃんと責任とってくださいよ」

「はいはい」


 へ?

 はいはい?


 素直な返事に戸惑っていると、ふわりと右手が浮いた。

 

「ほら。行くよ」


 そう言って桃坂先輩は私の手を引いて歩きだした。

 

 

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