告げる想い
久しぶりに包まれる桃坂先輩の手の感触に、ドキッとしたのは最初だけだった。
次々と襲いかかってくるドッキリの嵐にぎゃーぎゃー騒いでいたら、いつの間にか手をつないでることなんか頭から吹っ飛んでいた。
やっとの思いでホラーハウスから脱出して正気に戻った時には、桃坂先輩の手はいつも通りポケットの中に戻っていました。
「あー面白かった。佐倉まじサイコー」
そう言って楽しそうに肩を震わせて笑ってるけど、面白かったのは桃坂先輩だけなんだから。
ふくれっ面をしていたら、桃坂先輩のおごりでジュースを買ってくれた。
叫び過ぎて喉が渇いていたから、ちょっとだけ機嫌が直りました。
冬の日暮れは早い。
最後に観覧車に乗ろうという桃坂先輩の提案に、二人して大観覧車に乗りこんだ。
観覧車がゆっくり上昇していくに従って、徐々に景色が開けていく。
一番高い場所に上りきったところで、遥か遠く、小さく見える海に赤い太陽が静かに沈んでいくのが綺麗に見えた。
「綺麗」
こんな高い場所から夕陽が沈むのを見るなんて、そうそうないよね。
赤と青と灰色が混じり合い溶けあい紺色に変化していく空。
窓枠に両手を乗せて、空が次々と色を変えていくのをじっと見入っていたら、空耳が聞こえた。
「俺、やっぱり佐倉のこと好きだわ」
…………。
ゆっくり、ゆっくりと、観覧車の中に視線を戻す。
向かいの席に座る桃坂先輩は景色なんか見ていなかった。
前かがみの姿勢で自分の膝に頬肘をついて、こっちをまっすぐに見ていた。
「俺、佐倉に好きだって自分の気持ちを伝えてないことに気が付いてから、ずっと考えてたんだ。いつから佐倉のことが好きになったんだろうって」
固まったままの私を気にする様子もなく、桃坂先輩は話し始めた。
「遊ぶようになった頃は、一之瀬の後輩だったんだよな。俺の中で『佐藤が好きな女の子がよく一緒にいる後輩の子』が、『佐倉こころ』になったのは、やっぱりここからだったのかなって思う」
ここ。
夏の遊園地。
「覚えてる? 俺めっちゃテンション上がっちゃって、二人でびっしょびしょになって。後で佐藤にすげえ怒られちゃったんだよね。こころちゃんは女の子だよって。その時はなんで佐倉が一緒にいるとこんなに楽しいのか分かんなかったんだけど、今考えると好きだって気持ちがテンション上げてたのかなって思う」
楽しかったあの夏の日のことは、私も絶対忘れないと思う。
いつもバカみたいなことばっかりやって笑ってる桃坂先輩の、いつもとちがう顔を初めて見た日だから。
「けどさ、俺、来年は大学受験だろ? 受かったら県外の大学に行くから、高校で彼女を作るつもりは全くなかったんだ。少なくとも四年は離ればなれになるのに、心を残していかなきゃならないのがわかってるのに、大切なものを作るのが嫌だったから。だから佐倉を好きだって感情を深く考えなかった。付き合ってるでも付き合ってることにしてるでも、どっちでもいい。好きだからそばにいて、一緒に笑えればそれでいい。それ以上の何があるの?って思ってた」
ふうとため息をついて、桃坂先輩は体を起こした。
「でもそれは俺の勝手なんだよね。好きだとも言われてない俺に、彼氏みたいな顔されて、ほんと困らせたと思う。ごめんな」
そう言って桃坂先輩はほんの少し眉を下げた。
そんな可愛い顔ずるいです。
「……どうして、今更そんなこと言うんですか。別に私はこのままで全然構わないのに」
ずるいのは私も同じなのに。
責める権利なんて持ってないのに。
思わず責めるような声が出てしまった。
「気が付いちゃったから。四年会えないくらいでは消えないくらい、佐倉のことすっげえ好きだってことに。絶対に他の誰かに渡したくないって思うくらい好きだから」
さらりとそんなこと言う桃坂先輩に。
ああ。どうしよう。
心臓が止まりそうです。




