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ねこカフェ店員です

「っはよー。あれ? どうした? なんかテンション低くない?」


 教室に着くと、待ち構えていたかのような里香ちゃんにいきなりそう言われてしまった。

 あら。いつの間にか気分が落ちてたみたいだ。

 だめだな、私。

 今日はお祭りなんだから、気持ちを切り替えていかないと。


「そんなことないよー。黄色ねこが嫌だとか思ってないからねー」


 わざと棒読みで答えると、里香ちゃんが楽しそうに笑ってくれた。


「そっかそっか。黄色ねこになるのが、そんなに楽しみなのか。じゃあ早速お着替えしちゃおっかー」


 その手にはしっかりヘアアイロンとメイクセットが握られていた。





 予定通りわがクラスのねこカフェ、九時に開店です。


「黄色ねこさーん。一番テーブルご指名でーす」


 ご指名って、夜のお店じゃないんだから。

 このねこカフェ、席に案内するのも注文を取るのも、男子のお仕事。

 あ、ちなみにこのお店はパンケーキセットしか扱っておりません。

 飲み物はコーヒー紅茶オレンジジュースから選べます。

 私たちカラーねこのお仕事は、注文されたパンケーキを運ぶのと同時に、パンケーキに生クリームを絞りながらそれぞれの色にちなんだおまじないの文句を口にすることだ。

 ピンクは恋愛成就、水色は学業成就、白は健康祈願、黒は厄除け、黄色が幸福祈願となっている。


「はーい。お待たせしましたー。美奈子先輩に幸せが訪れますようにー」


 はい、名前を呼んでほしいという方にはサービスしますよー。

 ちょっと棒読みになっちゃうけど、そこは大目に見てくださいねー。

 

 一緒にウエイトレスをする他の四人が、クラスでも可愛いランキング上位の子たちだったから、黄色ねこの需要は少ないだろうと勝手に思ってたんだけど、意外に幸運を願う人は多いらしい。

 来客は途切れることなく、そして黄色ねこだけが暇になることもなく、私はパンケーキに生クリームを絞り続けた。




「お名前は呼びますかー?」


 ほぼほぼ惰性で、男子二人連れのお客にそう尋ねる。


「うん。譲で」


 ユズル。それ下の名前だよね。

 こういう人、いるんだよねー。

 私はちらりと教室の後ろに立っているひと際ガタイのいいクラスメイトの顔を確認する。

 彼の名前は八尾くん。

 一年生でありながら柔道部のエースという頼りがいのある人物だ。

 要注意人物だよー、と目で合図すると、彼はうんと一つ頷いた。


「はい。じゃあ譲先輩に幸せが訪れますようにー」


 ひと際棒読みだったのは仕方ないよね。

 だって、この先輩、人の顔を見てにやにやしてるし、なんか感じ悪いんだもん。


「ねーねー。君可愛いね。名前なんていうの?」


 ほら来た。

 こういう人がいるんだよねー。

 文化祭でテンション上がってるのかもしれないけど、私にまでこんなこと言うなんて、ほんと浮かれ過ぎだよ。


「お客様。申し訳ありませんが、店員に個人的なお願い事をするのは、禁止されておりますので」


 私の合図で彼らの背後に近付いていた警備係の八尾くんが、先輩の耳元で思いっきり低ーい声で囁くと、彼らは顔を引きつらせて冗談冗談と笑った。

 うんうん。柔道部のエースは、やっぱり頼りになるよね。

 

「ではごゆっくりー」


 そう棒読みで言ってくるりと向きを変えると、ちょうど席に案内される理子先輩たちの姿が目に入った。

 やっぱり来てくれたんですねー。

 四人で……。

 理子先輩の隣には、優しく微笑む佐藤先輩。

 そして桃坂先輩の隣には、小柄で可愛らしい女の子が座っていた。

 うわ。この人、合唱部の部長じゃん。

 思わず顔が引きつる私に、理子先輩が片手を顔の前に上げ「ごめん」のポーズをした。

   

 

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