文化祭が始まります
やってきました、文化祭。
秋晴れの中、初めてのM高祭です。
文化祭プログラムによれば、校内では朝九時から三時まで一二年各クラスが出店、体育館では午後から三年生のクラス対抗合唱コンテスト、各文化部の発表が行われる。
最後に後夜祭として体育館でベストパートナーコンテストが開かれる。
朝から二時間、黄色ねこになるのは憂鬱だけど、考えようによっては、朝から二時間だけ我慢したらあとは自由ってことなんだから、とりあえず頑張ろう。
ああ、そういえばベスパコンもあるんだっけ。
考えると憂鬱になるから、考えないようにしよう。
そんなことを思いながら、いつもの時間にマンションの前で桃坂先輩を待っていると。
「おっはよー」
いつになくテンションの高い桃坂先輩の登場です。
なんだかきらきら輝いているように見えるのは気のせいでしょうか。
「どうしたんですか? 今日は元気ですね。(無駄に)」
私が尋ねると、桃坂先輩が満面の笑みで答えた。
「折角の祭りじゃん。テンション上げてかないとなー」
ベスパコンはとうとう諦めたということか。
そうだよね。
これだけ付き合ってるって言われ続けてたら、ベスパコンなんてどうでもよくなってくるよね。
人の噂も七十五日っていうし、文化祭が終わって、別行動が多くなれば、そのうち噂も消えるだろう。
そういえば、理子先輩と佐藤先輩はどうなったんだろう。
ここ数日、理子先輩は合唱部の発表に向けて忙しいようで、顔も見ていない。
どの文化部でも同じだけど、夏休み明けに三年生が引退して新体制になる。
文化祭はそのお披露目の場でもあるから、今度副部長という立場になった理子先輩は大変だと思う。
合唱って、結局は人の力だけだから。
ひとりひとりの士気を高めて、それぞれが干渉しあって、高いところを目指していく。
みんなの気持ちをひとつにって、言葉にしてしまえば簡単だけど、なかなかこれが難しいのだ。
反対にこれがひとつになったときには、言葉に出来ないほど気持ちいいんだけどね。
今年合唱部の部長になった人は、実力とカリスマ性はあるんだけど、一筋縄じゃいかないタイプの人だ。
理子先輩つながりで何度も合唱部に勧誘されてるから知ってるけど、まあ人の言うことを聞いてくれない。
何回断っても諦めずに誘ってくるそのしつこさは、桃坂先輩以上かも。
そういう人を副部長としてサポートしていく理子先輩は、きっと苦労してるんじゃないかな。
「そういえば理子先輩と佐藤先輩はどうなりました?」
きっと桃坂先輩なら知ってるんだろうから聞いてみる。
「まあ、大幅な前進もない代わりに後退もないって状況かな。結局、俺ともう一人、一之瀬の友達も一緒だけど、文化祭は一緒に行動することになったし」
理子先輩の友達ということは、女の子だよね。
そっか。男女四人で行動するんだ。
ちくりと胸が痛んだのは、きっと気のせいだ。
一緒に回る? という理子先輩のお誘いを、喫茶の当番があるからと断ったのは私なんだから。
強引に誘われなかったことに、落胆なんかするのはおかしい。
今まで自分がいた理子先輩の隣に、私じゃない人が立っている。
それがちょっとだけ淋しいだけ。
「あ、それからベスパコンは俺とじゃなくて、一之瀬と出てくれる?」
「へ?」
ベスパコン?
「真鍋が一回エントリーしたものは取り消せないの一点張りでさ。じゃあ同性のカップルはどうなんだって言ってやったら、渋々だけどオッケーが出たんだ。佐倉と一緒なら一之瀬も問題ないだろうし」
そりゃそうだけど。
一回エントリーしたら取り消せないなら、桃坂先輩は誰と出るんだろう。
もしかしたら、一緒に行動するという女の子なんだろうか。
ふと思い浮かんだ考えに、なんだか胸がもやもやする。
「桃坂先輩は、どうするんですか?」
「ん? 俺? 気になる?」
思わず聞いてしまった私の問いかけに、にやりと笑う桃坂先輩。
その顔に、もやもやしていた気持ちが一気にイライラに変化した。
「桃坂先輩が誰と出てもいいですけど。じゃあ私急ぐので先に行きますねー」
つんと顎を反らして足を速める。
と言っても学校に行くから同じ道だし、私がいくら早足になっても、桃坂先輩との距離は開かない。
くすくす笑う桃坂先輩の声を背後に聞きながら、見上げた空は驚くほど高かった。




