ep0.花の魔女の目覚め
リナリアが生まれてすぐ、母が死んだ。父はリナリアに興味を持たず、ほとんど家に帰って来なかった。
リナリアが赤子から少女に成長するまで、世界はもやがかかったようだった。
時間の感覚は曖昧で、朝と夜の違いも分からない。
リナリアは、感情を示さない。
リナリアは、何者にも興味がない。
使用人たちは、愛を知らないからこうなったと哀れんだ。
そんなリナリアを、使用人の誰かが、生まれたばかりの妹に引き合わせた。
ベビーベッドの上で無邪気に笑う赤子がいた。
まるで吸い寄せられるようにリナリアが手を伸ばす。赤子が小さな手で、その指をギュッと握りしめた。
その時、リナリアの視界が急に広がった。
リナリアの中に、濁流のように“何か“が流れ込んできたのだ。
――ああ、私は魔女なのだ。
心臓の奥が熱くなる。
魔女として目覚めたリナリアの中に、確かな自我が芽生えた。
リナリアの指先を握りしめる温かな赤子の手。
赤子の中には、純白の光が輝いていた。
風が吹けば消えてしまいそうなか弱い火。
――私はこの美しい光を、守らなくては
生まれて初めて、リナリアが微笑んだ。
その姿に使用人たちは涙を流して歓喜する。
これは、リナリアが魔女として目覚めた時の記憶。
リナリアの、最も古く、最も美しい記憶。
人を愛する魔女が、生まれた瞬間だった。




