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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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6/25

「第2層」

 ——見えたはずのものは、一瞬で消えた。


 佐倉 恒一は教室の窓を見つめたまま動けなかった。


(今の……何だ)


 都市の上に重なるような巨大な構造物。

 現実の空ではない“層”。


 だが瞬きした次の瞬間には、もう何もなかった。


 ただの空。

 ただの街。

 いつもの教室。


「……幻覚か?」


 そう言いかけて、否定する。


(違う)


(あれは“見えた”じゃなくて、“許可された”だ)


 その夜。


 再び戦闘は来なかった。


 代わりに、違う“侵入”があった。


《観測接続要求》


「……またか」


 拒否する間もなく、視界が暗転する。


 落下でも転送でもない。


 今度は、“意識だけが引き抜かれる感覚”。


 気づくと、佐倉は空間の中に立っていた。


 白でも黒でもない。


 情報が流れるような、意味のない背景。


 その中心に、観測者がいた。


「第2層へ到達したか」


「……勝手に見せるなよ、あれ」


 佐倉は睨むように言う。


 観測者は少しだけ沈黙した。


「見せたのではない」


「“見える段階に入った”だけだ」


「違いが分かるか?」


 分かるわけがない。


 だが、分かってしまう自分もいる。


「第1層は“戦闘の世界”」


「第2層は“戦闘を観測する世界”」


「そして君は、その境界に触れた」


「……境界?」


 観測者はゆっくりと手を動かす。


 空間に、層の構造が浮かび上がる。


 無数の重なり。


 上へ、下へと続く階層。


「リミット・アリーナは戦場ではない」


「“階層構造の検証装置”だ」


 佐倉は息を呑む。


「検証……?」


「人間がどの条件で最も効率的に変化するか」


「それを観測するためのシステム」


 静寂。


 言葉の意味が、ゆっくりと沈んでいく。


(戦いじゃない)


(進化の観測?)


「じゃあ俺たちは……」


「サンプルだ」


 即答だった。


 観測者は一歩近づく。


「君は特に特殊だ」


「記録保持者は“変化を固定する存在”」


「本来、このシステムでは最も扱いづらい異常」


「だから第2層に上げた」


「……上げた?」


 佐倉は一瞬、嫌な予感がした。


「どういう意味だ」


 観測者は答えない。


 代わりに、空間が歪む。


 そこに“別の戦闘ログ”が映る。


 佐倉ではない誰か。


 同じように戦い、同じように記録される人間。


 しかしその最後の瞬間。


 その存在は——


 “消えている”。


「……消えた?」


「第2層以上に適応できなかった記録体は削除される」


 淡々とした説明。


 佐倉の背中に冷たいものが走る。


「待て、それは……死んだってことか?」


「定義上は“非保持”」


「記録から外れるということだ」


 それは同じだった。


 観測者は続ける。


「第2層は選別層だ」


「戦闘の適応ではなく、“存在の維持能力”を見る」


「君がここにいるということは——」


「まだ“削除対象ではない”ということだ」


 沈黙。


 佐倉は拳を握る。


(ふざけるな)


(戦わせて、壊して、残ったやつだけを選別してるだけじゃないか)


「それで、何の意味がある」


 観測者は少しだけ間を置いた。


「意味はまだ上層にある」


「我々は観測者であって、設計者ではない」


「……じゃあ設計者は誰だよ」


 その問いに、観測者は初めて明確に答えなかった。


 代わりに。


「君はそろそろ気づく」


「戦っている相手は、人間だけではない」


 その言葉と同時に、空間が崩れる。


 意識が引き戻される。


 教室。


 椅子に座ったまま、息が荒い。


 だが頭の中には残っていた。


《第2層》


《選別》


《削除》


(戦ってる相手は人間じゃない?)


 その意味を考えようとして——


 視界の端に、初めて“明確な異常”が出る。


《第2層観測対象:再接触予定》


 そして、その下に。


《対象識別コード:非人間領域》


「……は?」


 その瞬間、窓の外に“ノイズ”が走る。


 街が一瞬だけ、データのように崩れた。


(これ、世界そのものが嘘なのか……?)

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