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封戦機構《リミット・アリーナ》  作者: Y.M
第1シーズン

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21/25

「始まる前」

《第0観測前領域:再起動》


 その表示が見えた瞬間、佐倉 恒一は“視界”を失った。


 暗闇でも白でもない。

 何もないのではなく、「見る」という行為そのものが成立していない。


(……どこだ、ここ)


 思考だけが浮いている。


 次に戻ってきたのは感覚だった。


 足場も重力もないはずなのに、“立っている”という認識だけがある。


 そして隣に、少年の気配がある。


「ここは……まずいな」


 少年の声は、珍しく低い。


「どこだよ」


 佐倉が問うと、少年は少し間を置いて答える。


「始まる前だ」


「は?」


「世界が“まだ決まってない状態”じゃない」


「“決まる前にすらなってない状態”」


 佐倉の思考が一瞬止まる。


(それって……存在してないのと同じじゃないか)


 その瞬間だった。


 空間に“ノイズ”が走る。


 それは音でも光でもない。


 ただ、“何かが定義されようとして失敗する揺れ”。


《観測前存在:再接続試行》


 少年が舌打ちする。


「やっぱり来てる」


 空間の奥に、“圧”が生まれる。


 それは今までのどれとも違う。


 観測体でも、設計体でも、拒絶体でもない。


 ただ一つの働き。


 “発生させる側”。


《生成プロセス:起動準備》


 佐倉は理解する前に理解してしまう。


(これが……最初のやつか)


(観測する前に、世界を“出してる側”)


 少年が言う。


「ここはな、全部の始点だ」


「観測も、設計も、拒絶も、その前に“生成”がある」


「俺たちは……そこに来ちまった」


 空間がわずかに揺れる。


 何もないはずの場所に、“輪郭になりかけの世界”が浮かび始める。


《生成候補:未定義空間》


《試験生成開始》


 佐倉の足元に、地面が生まれかけては消える。


 空に、光が生まれかけては消える。


(まだ完成してない)


(いや、“完成”という概念すらない)


 少年が続ける。


「ここでは“存在したものが本物になる”んじゃない」


「“本物になる前のものしか存在できない”」


 その瞬間、佐倉の中に嫌な違和感が走る。


(じゃあ俺は何だ)


(ここにいる時点でおかしいだろ)


 その問いに答えるように、空間が反応する。


《例外生成検知》


《未定義連続存在》


 少年が佐倉を見る。


「やっぱりな」


「お前、ここでも“ズレてる側”だ」


 佐倉は拳を握る。


「もういい、説明しろ」


「俺は何なんだよ」


 その瞬間だった。


 空間の奥で、“生成そのもの”が一瞬だけ止まる。


《生成プロセス:干渉》


《未定義存在による逆流》


 空間がざわつく。


 まだ何にもなっていないはずの場所に、“反応”が生まれる。


 少年が小さく呟く。


「……見つかったな」


「誰に」


 佐倉の問いに、少年は答えない。


 代わりに空を見上げる。


 そこには“始まる前のさらに前”がある。


 まだ誰も名付けていない領域。


《上位生成核:応答》


 空間が静止する。


 佐倉 恒一はその中心で、はっきりと感じる。


(これは終わりじゃない)


(ここから全部が始まる)


 そして声が落ちてくる。


《未定義存在:確認》


《生成前干渉体:登録》


 少年が低く言う。


「……やっと本体が気づいた」

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