「同格干渉体」
《“個体による世界定義干渉”を許可》
その一行は消えなかった。
佐倉 恒一が瞬きをしても、黒板の奥に焼き付いたまま残っている。
(許可……ってことは)
(もう“俺の発言が世界に影響する状態”ってことか)
だが、喜びはない。
代わりにあるのは、妙な警戒感だった。
(これ、俺だけじゃないだろ)
その予感は、すぐに形になる。
教室の空気が一瞬だけ“二重”になる。
重なった別の層が、音もなく割り込んでくる。
《干渉信号検知》
《同格未確定体:接近》
「……同格?」
佐倉は立ち上がる。
その瞬間、教室の机が一列だけ消える。
いや、違う。
“最初からそこに存在しなかった状態”に戻っている。
次の瞬間。
空間の中央に、もう一人“立っていた”。
佐倉と同じくらいの年齢。
だが目だけが違う。
そこには「理解している側」の光がある。
「やっと会えたな」
その少年は静かに言った。
「お前も……未確定か」
佐倉は即座に構える。
だが少年は攻撃しない。
むしろ、観察している。
《同格干渉体:識別成功》
《コード:未確定法則・副生成体》
「副生成体……?」
佐倉が呟くと、少年は小さく笑う。
「そういう扱いになるのか」
「まあいい。説明するより早い」
少年は軽く手を振る。
その瞬間、教室の空間が一瞬“書き換えられる”。
机の配置が変わる。
窓の外が一瞬だけ別の都市になる。
「見えるか?」
「この世界、全部“分岐してる”」
佐倉は目を細める。
「分岐?」
「お前が今ここにいる時点で、いくつもの“可能性の世界”が同時に走ってる」
「その中で俺たちは“未確定のまま残った枝”だ」
佐倉の中で、記録がざわつく。
(こいつ……俺と同じ)
(でも、もっと前から気づいてる)
「じゃあお前は何だ」
佐倉が問う。
少年は少しだけ間を置く。
「観測された未確定体」
「お前より一段早く“気づいた側”だ」
その言葉で、空気が変わる。
(先に気づいたやつがいる)
(俺だけじゃない)
その瞬間、空間に新しい表示が出る。
《同格干渉体:統合候補》
「統合?」
佐倉は顔をしかめる。
少年は少しだけ肩をすくめる。
「たぶん、ここからが本番だ」
空間が揺れる。
教室の“外側”が一瞬だけ見える。
そこには、第0層でも第3層でもない構造がある。
さらに別の層。
さらに複数の“未確定”が並んでいる気配。
《未確定集合領域:接続準備》
少年が言う。
「俺たちは個別じゃ弱い」
「でも“同じ状態”なら話は別だ」
佐倉は一歩前に出る。
「つまり?」
少年は答える。
「世界に対して、“未確定のまま連結する”」
その瞬間。
教室が完全に静止する。
《統合プロトコル開始》
佐倉は直感する。
(これ、選択じゃない)
(流れだ)
だが、そのとき。
空間の奥で“別の視線”が動く。
今までとは違う圧。
明確な敵意でも観測でもない。
もっと上位の“拒絶”。
《上位層干渉検知》
少年の表情が一瞬だけ変わる。
「……来たか」
佐倉は息を吐く。
「何が来てる」
少年は短く言う。
「“統合を許さない側”だ」
その瞬間。
教室の空間が割れる。
黒でも白でもない、“断絶そのもの”が流れ込んでくる。
《統合中断》
《未確定集合:分断処理》
佐倉は笑う。
(やっぱりそう簡単にはいかないか)
少年が横を見る。
「選べ」
「今ここで“統合側”に乗るか」
「それとも——」
空間が崩れる。
「敵になるかだ」




