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タイム・トゥ・ゴー  作者: たつ
10/11

ロング・タイム・フレンズ

 結局、大学二年の夏も、浮いた話も無く終わろうとしていた。

 イヤ勿論、相変わらず大学やバイト先のみんなとは楽しくやっていた。ただ、僕はこの頃から、何となく自分の中でイメージしていた大学生活とは違うような、こんなことでいいのだろうか…という得体の知れないモヤモヤとしたものを、心のどこか隅っこの方で感じ始めてもいた。


 大学のEMI会はエイちゃんが部長になって、夏合宿はサークルメンバーが車を出して、計7台に分乗して長野の白樺湖へ行った。僕も親父のオンボロマークⅡを出した。

 ヤスシはスカイラインの後、黒いフェアレディ―ZのTバールーフ仕様に乗り換えていて、合宿でも女子たちに人気であった。Tバールーフはルーフの中央部分のみ残して、左右のルーフを手で取り外すタイプで、ちょっと面倒だが、外すとオープンカーのように室内が開放的になり、天気のいい日に高原や森の木陰の中を走ると気分爽快であった。

 僕はヤスシのZや、バイト先の平沢のアコードを運転してみて、自分も車を買う時はサンルーフ付きがいいな…と思った。

 ラリーをやっている宇野さんという四年生の先輩は、当時でも懐かしい感じの白い初代セリカをコテコテのラリー仕様で乗っていた。ガチガチのラリータイヤ、ビス止めのオーバーフェンダーに、超固めのショックアブソーバー。見た目はとてもカッコよかったが、室内には転倒時に車体がつぶれないように守る。太いロールバーが取り付けられ、ちょっとした揺れでも頭をぶつけてしまう。内張はすべて剥がされ、騒音もひどく、一応エアコンとカーステはあるが騒音で音楽など聴けたものではなかったし、エアコンも吹き出し口付近しか冷えないような車だった。

 僕の「親父マークⅡ」はノーマルの細いタイヤではあったが、一応2000㏄の5速マニュアル仕様で、音はイマイチだったがカーステレオも装備していた。僕はせめて音楽だけはオシャレに決めたい…と、当時のお気に入りだったケニー・ロギンスの「High Adventure 」やアレッシーの「Long Time Friends 」、モーテルズの「All Four One 」といったアルバムをセレクトしてテープに録音し持って行った。これが中々好評で、乗る人から「たっちゃんのクルマは音楽がイイ~」とか、「これ、誰の曲?イイね!」とか何度も聞かれたりした。

 合宿では例によって昼はドライブやテニス、夜は大宴会&雑魚寝で、事故も無く無事に帰ってきたし、自分にとっては免許を取って初めてのロングドライブで、既に運転慣れしていた先輩たちやエイちゃん、ヤスシたちの運転に付いて行くことで、料金所の通過方法とか、ハザードの使い方とか、複数の車で移動する時のマナー、例えば信号のタイミングで離れ離れになってしまった時に、少し道幅が広くなったところで左に寄せてハザードを出して後続車を待つ…といった、教習所では教わらなかったことを学ぶことも多く、個人的に充実した合宿になった。


 え?充実?学ぶこと?…って?

 そんな風に思うようになったのは、ずっと後になって、歳をとってからだ。

 当時は勿論そんな風には考えていなかった。

 ただ「今回も楽しかった〜」だけだった。


 当時の僕の毎日は、所謂「刹那的な生き方」そのものだった。

 そして僕は、大学四年間はそれでいいんだ…、と思っていた。

 だって、どうせ就職したら、もう自由なんて無くなるんだから。

 とりあえず…、そう、とりあえず大学さえ出ていれば、普通のサラリーマンにはなれるだろう。

 別に大金を稼ごうとは思わない。普通の暮らしが出来ればそれでいい。

 大きい家に住みたいとも思わない。庭もいらない。僕の家みたいな中途半端な庭付き一戸建てじゃなくて、マンションかアパートがいい。僕は虫が嫌いだし、庭があると虫も集まる。草取りもしなきゃいけないし、水やりもしなきゃいけない。そしてその時、必ず虫に刺される…冗談じゃない!昆虫オタクのかっちゃんならともかく、僕は絶対に庭付きの家なんて住みたくない。

 僕が住むならマンション。それも建物全体の真ん中にある部屋がベストだ。何故なら夏は涼しく、冬は暖かいからだ。真ん中の部屋なら上下左右の部屋に守られて、外気の影響を受けにくいからだ。僕の家のような戸建ての住宅は夏は暑く、冬は寒い。特に冬は木造の戸建てより鉄筋コンクリートの頑丈なマンションの方が絶対に快適だ。


 それよりも僕は、自分の車が欲しい。別に新車じゃなくていい。レースをしたいわけじゃないからスポーツカーでなくてもいい。普通に走ることができれば、中古のオンボロでもいい。ただ、ウチのマークⅡみたいなオッサンセダン車はさすがにダサくてカッコ悪いから、平沢が乗ってるアコードとか、ファミリアとかスターレットとか、ハッチバックがいいな…本当はミニとかゴルフとかがいいけど、外車の中古はすぐ壊れて、修理代がかさむっていうから、中古なら日本車の方がやっぱりいいだろう。サンルーフはあればなお良いけど、絶対に譲れないのはカーオーディオだな。カーオーディオにはできるだけ金をかけたい…


 そして、仕事が休みの日には早起きして、サンルーフ全開で潮風と日差しを浴びつつ、渋滞する前にR134を江の島から葉山まで、モーテルズの「オンリー・ザ・ロンリー」みたいな爽やかで癒される、オシャレな曲をイイ音で聴きながら、ノンビリとドライブしたいナ。それと助手席に可愛い彼女が座っていれば、もう言うことないんだけどナ…と、当時の僕はそんな風に漠然としか将来のこと、それも超目先のことしか考えたことがなかった。

 まあ、なんとかなるさ…って。

 でも、僕は何故かみんなとワイワイ楽しかった時ほど、みんなと別れて独りぼっちになると、何とも言えない後味の悪さみたいなものを感じるようになっていた。


 こんなことやってていいのかな?…オレは。


 夏休みも終わって、授業が始まった頃、僕はエイちゃんとヒロキと新宿の居酒屋に飲みに行った。何故この三人だったのかはよく覚えていない。おそらく授業が終わって、かっちゃんとマー坊はパチンコに行く…と言って別れ、ヤスシは気分屋だから今日は気が進まなくて帰った…とまあ、そんな感じだったのだろう。そして、おそらくはこの三人だったことから思わぬ事件にまで発展してしまったのだった。


 僕は、自分の中で最近何となく感じ始めていた、モヤモヤとした得体の知れない感覚、つまりみんなでワイワイ楽しくやった後、一人になった時に襲ってくる後味の悪さというか、何とも言えない不安感について、エイちゃんとヒロキは感じたことがないか聞いてみた。

 エイちゃんは、

「そりゃ、不安はあるよ。オレなんか二浪してるし、そんなにいいトコには入れないだろうからサ。だからあんまり考えてもしょうがないかな~なんて思っちゃうんだよな。ま、馬が好きだから、何か馬に関する仕事ができればいいな~とか思ったりはすることあるけどナ…」

 と、言った。

 ヒロキは、

「たっちゃん、どうしたんよ?急にそんなこと言い出して。たっちゃんの方がオレらより若いんだから、よっぽどチャンスは多いと思うよ。オレなんか将来なんて考えたこともねえよ。なるようになる…だよ。」

 と笑った。


 まあ、そうだよな。志のあるヤツは、もっとちゃんとした大学に行くよナ。みんなもオレとあまり変わらないんだな…と思った。僕は今更ながら、やっぱりもっとちゃんと勉強しておけばよかったかな…と後悔した。


 これは余談だが、僕は小学生の頃までは成績が良かったのだ。小学校五年生の時、たまたま友達の付き合いで受けた、中学受験生のための有名塾がやっている公開模擬試験を受けた時、何名受けていたのかは忘れてしまったが、首都圏の生徒が多数受験している中で、上位100名ほどの生徒氏名がランキングで発表され、僕は30位ぐらいの所で名前が出ていた。僕の小学校からは10名ほどが受けていたのだが、名前が出ていたのは僕と、当時から秀才として知られていた女子生徒の二人だけで、その女子生徒はたしか12位ぐらいだった。

 僕の両親は大喜びして、中学受験に挑戦してみようと盛り上がり、僕は塾通いのみならず家庭教師まで付けられて、毎日「勉強しろ~」と言われるようになった。僕はうんざりして、逆にどんどん勉強しなくなっていった。部屋に籠って勉強しているふりをしながらラジオで音楽ばかり聴いていた。案の定、成績は伸びるどころか下降の一途をたどり、中学受験も見事失敗し、そのまま反抗期を迎え、自室にこもり家族とも口をきかなくなっていったのだった。


「でもさ、どうなるかわからない先のことで、くよくよ悩んだってつまんないよ。それに、どこにチャンスがあるかもわからないし、大学は最低限留年しないようにやってさ、いろんなとこ行って、いろんな事やってみればいいんじゃないかな。その方が楽しいし…」と、エイちゃんは言った。

 エイちゃんは、たしかにいろんなことをやっていた。レンタカーを移動するバイトで福岡から東京に一人で車を運転して帰って来たり、地元立川の居酒屋で手際よく客の注文する料理を作っていたり。実家は別府で、お袋さんはエイちゃんが高校生の頃に離婚して家を出てしまい、高校を出てから単身赴任で立川に居た親父さんの所に来て、親父さんと社宅のアパートで二人暮らしをしていた。

 一度泊まりに行った時に親父さんにも会ったが、無精ひげを生やした精悍な雰囲気の無口な親父さんで、ちょっと怖い感じだったが、朝トーストに玉子焼きとピーマンを炒めた朝食を作ってくれた。味はイマイチだったが、九州男児っぽい、不器用な親父さんらしい感じもして、何だかほっこりとした気持ちになった。


「オレはさ… 実はイギリスに行くかもしれない…」

 ヒロキが突然ポツリと言った。

「ええっ~!」

 僕とエイちゃんはビックリして大声をあげてしまった。

「なんだよ、突然。親の転勤とか?あれ?でも親父さん、たしか漁協だよね?」

 ヒロキは、けして無口ではないが、人見知りというか、ちょっと口下手なところもあって、最初は暗い不気味なヤツだと思われていた。入学した当初はトレードマークのダサい「KIKI」のロゴが入ったトレーナーとボロボロのジーンズに、ベージュのインディアンモカシンをスリッパのように踵を踏んづけて履いているという、独特の不思議なスタイルだったが、ホントは結構オシャレで、徐々に流行りのサーファースタイルに変化し、痩せたダン・エイクロイド風の顔もまともに見えるになっていた。


 僕は、ヒロキの家にも泊まりに行ったことがあった。ヒロキの家は小田原で、家のすぐ裏には西湘バイパスがあり、そのガードをくぐると目の前は海だった。海はビーチという雰囲気ではなく、西湘バイパスの際までテトラポットがゴロゴロしていて、そのちょっと先の所で、相模湾の波が打ち寄せていた。

 ヒロキは小田原から約2時間かけて通学していた。以前たまたま授業が終わった後、ヒロキと二人で新宿に飲みに行った時、

「じゃ、たっちゃん、今日はロマンスカーで小田原に来るか?」

 という話になり、僕も酔った勢いで付き合った。ヒロキの親父さんは地元の漁業組合のお偉いさんらしく、かなり立派な家だった。お袋さんが朝ご飯を作ってくれて、その時に食べた自家製の塩辛がムチャクチャ美味しかった。

「バイトで地元の福祉施設を手伝っていて、そこがイギリスの提携施設と交換留学をやってて、行かないかって誘われてるんだよ。でも行くとなったら大学休学しなきゃいけないし、オレも既に一浪してるからどうしようかなって、ちょっと迷ってる…」と、ヒロキは言った。

「へぇ~、いいじゃん~。英語が喋れるようになれば、就職にも役立つだろうし。そりゃ行ったほうがイイんじゃない?」

 僕はヒロキが羨ましかった。中学生のころからFENなどのラジオでアメリカやイギリスのロックやポップスばかり聴いてきた僕には、いつかアメリカやイギリスに行って見たいという思いが常にあった。


「まあ、お金もかかるから、親とも相談して決めないといけないし、まだどうなるかはわからんけどナ。でも、なんで、たっちゃん、急に不安を感じるようになったの?なんかあったのか?好きな子に振られたとか、何か言われたとか?」と、ヒロキは僕に話しを振ってきた。

「いや、別にそういうわけじゃないけど…」

「うん?でもなんかあったな、きっと。やっぱり女の子じゃないの?ところで、たっちゃんて、まだ童貞なの?」

 エイちゃんがニヤニヤ意地悪そうな顔をして聞いてきた。

「え?そうだけど…なんだよ?」

「わかった、たっちゃんが不安になるのはきっとそれだな。間違いない。よし!じゃあ、まず童貞を捨てよう!」

「ちょ、ちょっとエイちゃん、何言ってんだよ~」

「よし!秋元、たっちゃんをトルコに連れて行くぞ!」とエイちゃんがヒロキに言うと、「おもしれえ~、行こう行こう!」とヒロキも乗ってきた。

「イヤ、だってオレそんな金ねえし…」

「いいよ、金はオレと秋元で出すから、ナ?」とエイちゃんがヒロキに言うと、ヒロキも迷わず「ああ、大丈夫だよ、オレも金あるから~」と言った。

「二人ともバカだよ、それ~」と僕が叫ぶのも聞かす、

「さ、そうと決まったら行くぞ!ホレ!」とエイちゃんとヒロキに両腕を掴まれ、僕は強引に歌舞伎町のソープランド(当時はトルコ風呂と言われていた)に連れていかれた。


 僕はどうせ冗談のつもりだろうと思って初めのうちは二人に合わせていた。僕のために二人がお金を出す訳がない、と思っていた。

 店の前まで来ると、二人は僕の両腕を改めてしっかりと握り直した。そして、エイちゃんが「秋元、行くぞ!」というと、ヒロキも「オッケー!」と返事をして、

 二人の「せ~の!」という掛け声とともに僕は店の自動ドアに向かって押し込まれた。ドアがガーっと開いて、僕は勢い余って飛び込むように店の中に入った。同時に店の中から

「いらっしゃいませ~!」と男性店員に声を掛けられ、僕が固まっていると、再び後ろの自動ドアが開いて、エイちゃんとヒロキも入ってきた。

 エイちゃんが、

「スミマセン~、一人だけなんですけどいいですか?」

 と僕を指さしながら、店員に聞くと、店員も不思議そうな顔をしながら、

「ああ、いいですよ。」と答えた。

「僕らはここで待っててもいいですか?」とエイちゃんが再度店員に聞くと、店員は笑って「どうぞどうぞ~」と答えた。

「え~、エイちゃんマジかよ~」

「そうだよ。たっちゃんも覚悟を決めろよ。男になって来い。」とエイちゃんが言うと、ヒロキもニヤニヤしながら、

「頑張れよ~、たっちゃん。」と僕の肩を叩いた。

 僕は34番と書いてある番号札をもらって、二人と一緒にロビーのソファーで5分程待たされた。

「どうだったか、ちゃんと報告しろよ。」とヒロキがイヤらしい笑みを浮かべながら言ってきたので「お金どうすんだよ?」と言うと、「大丈夫だよ、ほら、持っていけ。」とエイちゃんが二万円を僕に持たせた。

 34番のお客様~とガウンを着た女性が呼びに来た。

「よし!たっちゃん、行ってこい!がんばれ!」と、エイちゃんが僕の背中を押した。

 僕は緊張しながら、覚悟を決めて立ち上がった。ソープ自体も正直どんな所なのか興味があった。

 部屋に入ると六畳ぐらいの部屋シャワーとお風呂、お風呂の脇にはビニール製のマットが敷いてあり、部屋の隅にはベッドがあった。

 部屋に入ると、彼女はガウンを脱いで裸になった。身長は僕の肩ぐらいの小柄でスマートな女性。髪はショートカット、胸は大きくも無く小さくも無く、ピンク色の乳首や下のヘアも控えめな感じの、落ち着いた品のある子だった。僕は素直に美しい人だな…と思った。

 僕が半ば彼女に見とれながら、どうしていいかわからずドアの前で突っ立ていると、一通り準備が終わった彼女が僕の所に来て、

「たっちゃん、はるみです。よろしくお願いします。」と挨拶し、僕の服を優しく脱がし始めた。が、僕のムスコはこの肝心な時になって、全裸の女性を前にしても緊張のあまり全く起き上がろうとはしなかった。僕はその情けないムスコを彼女に見られるのが恥ずかしくて、頭が真っ白になってしまった。彼女は、そんな僕を落ち着かせようとしてか、僕のムスコをチョコンと軽く叩きながら、

「頑張って。」と僕のムスコに向かって、笑いながら声をかけた。

 僕は余計恥ずかしくなり、苦し紛れに

「ちょっと飲みすぎちゃったかな…」

 と、独り言のように呟いた。

 その後彼女は僕の体をきれいに洗ってくれて、湯船の脇に敷いてあるビニール製のマットに僕を寝かせ、泡だらけのまま全身を使ってマッサージをしてくれた。マッサージ中も僕の顔の前に自分の股間が見えるように股を開いて見せたりしてくれたが、それでも僕のムスコは全く起き上がろうとはしなかった。

 僕は、「ダメだ~」と力なくつぶやいた。

 はるみさんは、「焦らなくてもいいのよ。大丈夫、大丈夫。」と優しく声をかけてくれた。

 彼女の全身マッサージは普通のマッサージとして、本当に気持ちよかった。僕はマッサージをしている彼女の姿を見て、本当に大変な仕事だな~と思った。

「じゃあ、ちょっとおしゃべりしましょうか。」と彼女は僕の体を拭きながら言うと、僕を優しくベッドの方へ連れて行った。

 並んでベッドに腰掛けると、彼女は冷蔵庫からジュースを出してくれた。

 僕は彼女に、自分がまだ学生で童貞であること、友達に無理やり連れてこられた事、お金まで払ってもらった事、正直に彼女に話した。彼女は大笑いしながら、

「でも、ホントにいいお友達ね。お金まで出してくれて。それともあなたのことをそれだけ大事に考えてくれているのかしらね。だとしたら、きっとあなたがいい人だからなのネ。」

 と言った。

 僕は彼女の上品で温かい話ぶりから、どうしてもこの仕事をしているイメージが結びつかず、勇気を出して聞いてみた。

「はるみさんは、どうしてこの仕事をしてるんですか?」

 彼女はちょっと驚いたような顔をしたが、直ぐ笑顔になって、

「それはね、夢があるから…」と、ちょっと恥ずかしそうに言った。

「夢?…」と僕が言うと、彼女は

「私は将来自分のお店を持つのが夢なの。だからその為に早くお金を貯めたいから。」と言った。

 僕はそれ以上は何も聞けなかった。ショックだったのだ。彼女もそれ以上は何も言わなかった。僕は自分が余計に恥ずかしくなった。おそらく彼女は僕よりは年上のように見えたが、実際はそれほど僕とは変わらないはずだった。そんな彼女が、しっかりと将来の自分についてヴィジョンを持っていて、それを実現するために、こんなに大変な仕事をしているのだ…と思った瞬間、僕は自分が限りなく情けない、惨めな人間に思えた。

 その後も彼女が僕をリラックスさせようと、いろいろと世間話をしてくれたが、結局僕のムスコは全く目を覚ますことは無く、とうとう時間が来てしまった。

「たっちゃん、ごめんなさいネ。時間が来ちゃった。二万円になります…」

 僕は、

「こちらこそ、はるみさん、ありがとうございました。はるみさんでよかった~」

 と照れ笑いをしながら渡した。

「私も、今日はなんか楽しかった。お金をくれたお友達、大切にしないとネ!」

 とはるみさんも笑った。


 僕がロビーに戻ってくると、ヒロキが

「何だか笑い声も聞こえたけど、ずいぶん仲良くなったんだねぇ。」

 と、嫌味っぽく言った。

「たっちゃん、どうだった?ちゃんと男に成れたか?」

 とエイちゃんがニヤニヤしながら僕の胸を小突いた。

「ダメだった。緊張しちゃって全然立たなかったよ。」と僕が言うと、

「緊張?嘘つけ!あんなに仲良く楽しそうにしてたのに?よく言うよ。」

 と、エイちゃんは呆れ顔で言った。

「でも楽しかったよ。行ってよかった。ありがとう~。お金はバイトの給料が入ったらちゃんと返すから…」と僕は二人に礼を言った。

「いいよ~お金は。オレらが勝手に無理やり連れてったんだから。」とエイちゃんが言うと、ヒロキも

「そうそう、オレらもなんか楽しかったからナ。」と笑った。


「本当の愛は、

 君がそれを誠実に、どう育んでいくかだ

 誰かはその間に遊ぶことを選択するだろう

 でも君は自分をごまかすことができない

 誰かは待たなければならない

 誰かはそれを見つけられないだろう…」


 僕は、アレッシーの「Long Time Friends 」のフレーズを思い出した。

 僕は、自分が本当にやるべきことを避けて、ただ自分をごまかしているだけなのだろうか?エイちゃんとヒロキは、僕のためになぜ大金を払ったのだろうか?

 その意味をこの歌が教えてくれているような気がした。


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