第1章 04話 憧れの・・・
魔法ってなんかかっこいい。
村長の家を足早に出て、町の中を門の方に向かい歩いていく。先ほど通った道のため宿屋の位置は覚えている。
宿屋に来たところで扉を開けて中に入っていく。ダンさんが宿屋の親父と話しをしているようだ。
「お前さんが魔物から命からがら逃げてきた人族か。俺はこの村で宿屋をやっているナグリだ。妻のクーリと息子のライとでここを切り盛りしている」
「はじめまして。行商人のユウと申します。村長さんにお話をしてこの村で少しの間お世話になることになりました。よろしくお願いします。」
「おう。こちらこそよろしくな。ダンから話は聞いた。宿代と朝・晩の食事代は村長が出してくれるみたいだな。うちは問題ない。小さい宿だからあまり大層なもてなしはできないが自分の家のようにくつろいでくれ」
宿屋の親父のナグリさんはダンさんより恰幅の良い迫力のある店主だ。豪快な感じで嫌いなタイプじゃない。こういう人はぶっきらぼうだが根が優しい人が多い。
「そうだ。宿帳には名前を書いてくれ。代筆もできるぞ」
自分で書いてもいいがこの世界の文字はまだ見ていないので分からない。ここは代筆してもらおう。
「すみません。代筆してもらっていいですか」
「わかった。名前を書いておく。それじゃあこれが部屋の鍵だ。そこの階段を上がって一番奥の部屋だ。今日の晩御飯は」
「あっと。忘れるところだった」
ダンさんがナグリさんの言葉を遮って話し始めた。
「今日はユウの歓迎会を村の広場で開くから参加するようにと、村長からの伝言だ。ユウが村のためにいろいろ高級な品を寄付してくれてな。お礼も兼ねて歓迎会をやることになったんだ。家族全員で参加してくれ」
「そうか。じゃあ早速準備をするか。ユウ、家を出るときに声をかけるからそれまでは部屋でゆっくりしてな」
「ではお言葉に甘えて部屋でくつろがせていただきます」
ダンさんにお礼をいい、二階の部屋に向かった。
階段を上がった廊下沿いに3部屋あるようだ。一番奥の部屋で鍵を使い中に入る。部屋は6畳ぐらいの広さだが、ベットと小さなテーブルが備え付けられていた。トイレや風呂は共同なのかな?ベットの横にリュックを置き、ベットの上に座ってみる。やはり地球で使っていたベットのようなコイルスプリングタイプではない。板の上に布団を2枚重ねてあるようだが硬い。それにあまりきれいではないがダニとかがいるほどではなさそうだ。
「うーっっっっん」
座ったまま背伸びをしてベットに倒れこむ。思えば会社帰りにいきなり変なところに召喚され、神様のお願いを聞いて知らない世界に飛ばされたがとんでもないことばかりだな。最初から魔王城だったし、破れかぶれで魔王を倒しちゃったみたいだし・・・。逆にバランス崩れないか?
そんなことをボーっと考えていたら30分程度経過し、ナグリさんから声がかかったため、歓迎会のために村の広場へ向けて出発した。
「ナグリさん、その手に持っている鍋は何ですか?」
「そりゃ~歓迎会には飲み物と食べ物もがなきゃ始まらないさ。村の集まりのときはみんなでいろいろ持ち寄って飲み食いするんだ。うちはこの鍋でロッコの肉を煮たものをいつも持って行ってる。食ったらうますぎて腰を抜かすぞ!!がははは」
ナグリさんは豪快に笑いながら自慢の料理の説明をしてくれる。宿屋の料理は全部ナグリが作っているようだ。そしてロッコとは豚のような魔物らしい。オークが豚食ったら共食いじゃないのか?
「あんたは他はなーんにもできないが料理だけはうまいんだよね。私もそこに惚れたから一緒になったんだけどね」
「母ちゃんにうまいもの食わせてやりたいからな。料理だけは本気で頑張ったんだっていつも言ってるだろ」
ナグリさんとナグリさんの少し後ろを歩く奥さんのクーリさんがいきなり惚気だした。クーリさんと、息子のライ君とは出かけるときに挨拶を交わしたが、クーリさんは肝っ玉母ちゃん。ライ君はいたずら坊主って感じだな。でも3人を見ていると日本の古きよき時代の家族って感じがする。家族っていいな~って思うが、いきなり惚気られても反応に困るな。
「とうちゃんとかあちゃんはいつもああだからほっといていいよ。ユウ兄ちゃんはマテル使えるか?」
「マテル?マテルってなに?」
村長の家でいろんなアイテムを提供したときにも「マテル」って言葉が出てきたが何のことだろうか。
「兄ちゃんマテルも知らないのかよ。マテルは・・・体の中にある神秘の力を使っていろいろできるんだよ。俺もできるけどまだ力が少ないから長続きしないんだ。兄ちゃんができるなら、暗くなってきたから光のマテルを使ってもらいたかったんだよ」
マテルって魔法みたいなものか?神秘の力っていうのがいかにも魔法っぽい。うん、やっぱり異世界には魔法が付き物!できるものなら物にしたい。
「ライは物知りだなぁ。マテルってどんな風に使うんだ?」
「見たことないのか?へんな兄ちゃんだな。いいよ、ちょっとしかできないけど光のマテル使うから見てて」
ライが右手を前に出し手のひらを上に向けて目を閉じた。集中しているみたいだ。そのときライの体から、詳しく言うとおへその下の辺りから何かが手のほうに集まってくる。魔王城で人のいる方向の気配を感じたのはこの謎の力の存在を感じていたのだが、ライが集中してから、その謎の力が増大し手のほうに集中していく。マテルは神秘の力を使うって言ってたし、謎の力=神秘の力だったのか。
「えい!」
目を開いたライが声を出し、神秘の力を手から放出するとやさしく光る光の玉が現れた。でも肩で息をしており相当力を消耗したようだ。
「おお!すごいすごい!結構あかるいなぁ。暗くなってきたからちょうどいい」
初めて見たホンマもんの魔法に、本当はめちゃくちゃ興奮していたが、ここは悟られないよう大人な態度で対応する。魔法って本当にあるんだな。こういうのを見るとやっぱりやってみたいよな。そんなことを考えていると光の玉はだんだん暗くなり消えてしまった。
「やっぱり神秘の力が少ないから少ししか持たないや。マテル使いならもっともっと長い時間明るい光の玉を出せるんだろうけどなぁ。オレはマテル使いになりたいから毎日マテルの訓練してるんだ」
「マテルの訓練ってどんなことやるんだ?」
「簡単だよ。神秘の力を使いこなすために目を閉じて手に集まるように集中するんだ。それを繰り返すとマテルをスムーズに使えて、神秘の力の量も少しずつ増えるんだよ。おなかの下のほうに集中して力の流れを感じたら引っ張り出す感じだな」
得意げに説明をしてるライは小さな耳をぴくぴくさせている。なにこれかわいい。ウリボウのようなくりくりした目だし、まだ体もそんなに大きくないから、大きなぬいぐるみみたいだ。おっと。話がそれてしまう。力の流れを引っ張り出すね~
おもむろに立ち止まり目を閉じて腹の下辺りに意識を集中してみる。はじめは良くわからなかったが、なんとなく何かの流れがあることに気付いた。まだはっきりとわからないため本流ではなく小さな小川のような流れの部分をつかむイメージをして引っ張ってみた。すると手のひらに暖かい何かが集中している。これが神秘の力なのかもしれない。
さっき見た光の玉をイメージし力を手のひらから出すイメージをしてみると、光の玉ができた。ただ、できたのはいいが力が注ぎ続けられていたためだんだん大きく明るくなっていく。焦って力を止めたが、最終的にはバスケットボールを二周り大きくしたような光り輝く玉ができてしまった。眩しくて直視できないため、頭の上に手を持ち上げたが、村の道が昼間のように明るくなってしまっている。
「兄ちゃんすげーよ。マテル使いなのか?なぁなぁマテル使いなのか?こんなに明るい光の玉を作れるひとはこの村では見たことないぞ。他にもマテル使えるのか?どんな特訓してるんだ?なぁ教えてくれよ。」
ライが興奮しながら矢継ぎ早に質問をしてくる。魔法できちゃったよ。神秘の力はまだはっきりとはわからないけどなんとなくわかった。これは今後の特訓次第だな。でもこんな眩しい玉を持ち歩いてるのは手が疲れるし周りにも迷惑だよな。どうしたものか。
「ユウはマテル使いだったのか?マテル使いは何人か知っているがこんなに大きな光の玉を出すやつは見たことないぞ。まぁこれから広場で歓迎会をするんだ、そのまま上に浮かべてもっていけばいい。」
ナグリさんがアドバイスをしてくれたが、どうすればいいのかわからない。
「あの~浮かべるってどうやればいいですか?実は今日初めて使ったので勝手がわからないんですよ」
「ん?初めてでそんなにすごいもの出したのか。よくぶっ倒れなかったな。神秘の力の総量が相当多いのかもな。大きな町にでも行ったら神秘の力の量を測ってもらえ。総量が多ければそれだけで仕事にありつけることもある。光の玉を浮かべる方法は神秘の力で包み込み浮かぶように力を込めれば浮かぶって聴いたことがあるぞ」
「やってみます。」
また手のひらに力が集まるように集中し今度は光の玉を包み込むように力を込め、そのまま上空10mぐらいまで押し上げる。ためしに歩いてみたらそのまま後を付いてきた。神秘の力を込めてその場に留まるイメージをすると歩いても後を付いてこなかった。マテルすげー。マジだよ。マジもんだよ。これは中二病なやつなら誰でも憧れる。実際に魔法が使えてるよ。むちゃくちゃ興奮する。他にもいろいろ覚えたいな。
光の玉は後を付いてくるようにして広場まで歩いた。ライの質問に曖昧に答え、後で一緒に特訓することで納得してもらう。クーリさんからもいろいろ聞かれたが素直に初めて使ったといっても信じてもらえなかった。
広場に近づくにつれて周りがざわざわし始めた。なんか大変なことをしてしまったようだが、気にしない。だってマテルが使えたことがうれしいんだもん♪