3話
本編の第二章の三話目です。
では、どうぞ。
ふぁ…はふぅ。ねみぃ。
俺は今日、とっても寝不足だ。眠くて眠くてしょうがない。テクテクと歩きながらも、半分寝かけているような状況だ。
今、俺たちは街道を南下して、ボルンの街へと向かっている。
「ボルンの街に向かうやつらって、結構いるんだな」
「そうですね。ちょっと意外です」
ジェームスとミーシャが言うとおり、ボルンの街に向かう街道にはそこそこの数のプレイヤーたちが歩いている。
半分寝ているような状態の俺は、一度、別のパーティにぶつかりそうにもなった。
「やっぱり王都周辺だと、レベルが上がりづらくなったからじゃないでしょうか?」
「でもよ。鍛冶屋や農夫みたいなのも、一緒になってボルンに移動してるのはなんでだ?」
仮想世界とはいえ、あたりは暖かな日ざしに照らされてポカポカしている。
そんな中、あくびを噛み殺しながら歩く俺。三人の話は俺の耳の左から右へと流れていく。
「ふぁああ……ねみぃ」
うつらうつらしながら歩いていると、アヤヤが俺が歩いている隣に来て、心配してくれた。
「今日はずいぶん眠そうですね? 昨日、寝れなかったんですか?」
「……ああ、ちょっと色々あってね」
さすがにアヤヤに寝不足な理由は、話せない。
理由を知ったら、非常にメンドイことになるのは、目に見えてるし。
昨日ケンさんと別れた後、俺たちは『転職の神殿』で一次職に転職した。
俺とミーシャは『戦士』――武器攻撃のエキスパート――に。
ジェームスは『盗賊』――ダンジョン攻略に役立つ武器やスキルを多く扱える――に。
アヤヤは『魔術師』――強力な遠距離攻撃が可能な砲台役――に。
武器防具に関しては、みんなこれまでの物を装備できたから、そのまま特に変えてない。ボルンの街で変えた方がいいもの手に入りそうだし。
ちなみに昨日の夜、ジェームスは異常なほど興奮した様子で……。
「俺の妹が、魔法少女になった件について!!!!」
「キタコレ!!! リリカルマイエンジェル!!!!」
「俺、あいつに不屈の心で砲撃を撃たせるんだ……」
とか、意味不明なメッセージをチャットで一晩中送ってきやがった。結局、俺が寝れたのは明け方近く。
アイツのせいで、俺は今日、寝不足だっ。
俺の眠気がようやく収まってきたのは、街道沿いの平原というには大きな岩が目立つあたりで摂った、昼飯休憩も終わる頃だった。
値段は普通で味も普通な、ごく普通な携帯食料を食べ終わって、みんな休憩中だ。今日の昼飯は、以前食べた激マズ携帯食料じゃなかったため、俺も昼飯の内容には十分満足している。
「DAIさん、お茶、いかがですか?」
「ああ、もらう」
アヤヤがカップにお茶を注いでくれる。
ホントに気が利くいい娘だ。この娘を彼女にする野郎は、大変な果報者だろう。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
にっこりと微笑むアヤヤ。
うん、かわいいな。
「あ、俺も飲むわ」
「はい。兄さんの分です」
アヤヤはドンッと、ジェームスの前に水筒を置いて放置。
……あれ? アヤヤは、気が利く……いい娘な、はずだが?
「なんだそりゃゃゃああっっっ!!!!」
「うるさいです、兄さん」
激昂するジェームスに、真冬のシベリア並に冷たいアヤヤ。
「……お願いですから、兄さんはせめてもう少し、空気とか雰囲気とかを読んでください」
「意味わかんねーよ」
「だから兄さんには彼女ができないんですよ。せいぜい非モテな兄さんは、モテる人の邪魔をして、お馬さんにでも蹴っ飛ばされないように、気をつけてくださいな」
「俺はこれからモテる男になるんだよ。近い将来、きっと俺の時代が来るっ!!」
「えっと、兄さん……宿屋は、ここからだとまだ遠いですよ?」
「寝言じゃねぇぇぇええええっっ!!!」
やっぱり気がつくと置いてきぼりな俺。
「まーた始まったよ」
カップを片手に、苦笑しながらミーシャに話しかけると……。
「でも今回の口喧嘩は、半分くらいはDAIさんが原因ですよね? まあ、私はアヤヤの味方なんで、別にどうでもいいんですけど」
と、半分ジト目で言われた。
おいおい、そりゃどういう意味だ?
****
昼休憩を終え、出発しようとした時だった。
「ここからなら、たぶんボルンの街まで後、二時間くらいですし。後は一気に歩いちゃいましょうか」
ミーシャの呼びかけに頷いて、出発しようとすると、少し先の岩陰から人同士が言い争うような声が聞こえてきた。
「おい、ジジババども。さっさと出すもん出せっつてんだろっ」
「そうそう。言うこと聞かなきゃ、殺しちゃうよ?」
「ギャハハ。だな。今は、死んでも生き返られないからね。俺らに殺される前に、さっさと金と装備と道具、全部出した方がいいよ? リアルラックが良ければ、モブに殺されずに街まで辿りつけるかもしれないしな」
気になって見に行くと、そこには生産職らしき二人の老人と、それを囲む柄の悪い若者たち五人――もはや強盗一味とでも呼ぶべきか――という構図があった。
「ふざけるなっ。誰が貴様らなんぞに、くれてやるものか」
「そうだよっ。顔を洗って出直してきなっ!!」
自分たちよりも多くの若者に囲まれながらも、威勢よく挑発する老人たち。そして強盗一味にしても、その沸点の低さは折り紙付きだった。
「そんなに死にてえなら構わねえ。お望み通りぶっ殺してやるよ」
ジャキ、と手に持った武器を老人たちの方に向ける強盗一味。なんともステレオタイプな反応だ。
「だ、DAIさん。ど、どうしましょう!?」
「うーん、このまま見捨てるのも寝覚めも悪いし、せっかくだから介入しようか?」
「そうですね。いくらデスゲームの中でも、いえデスゲームの中だからこそ、あんな非道なことは見過ごせません」
目の前で始まりそうな事実上初めての『殺し合い』に動揺を隠せないアヤヤ。
逆にミーシャは、緊張しているみたいだが、変に脅えたり気負ったりしている様子はない。ここ数日の間で、デスゲームに関わる覚悟はすでにできているのだろう。
そしてジェームスは、というと――。
「……ふん、虫けらどもめ」
厨二なセリフをのたまっていた。
こうして俺たちは、お仕事中の強盗一味を止めるべく、脇から介入したわけなんだが――。
「おい、こいつらの装備、見てみろよ」
と、バカにしたような口調の強盗一味。
「武器が剣? 斧? 弓? こいつら、なんも知らねえアホだぜ」
「てめーら、バカか。杖持ちが一人だけなんかで、俺らに勝てるとでも思ってんのかよ?」
実際、強盗一味は、五人のうち三人までもが杖を装備しているという、とても偏ったパーティ編成だった。
『機械仕掛けの箱庭』がデスゲームになる前のことだ。
王都脇の平原でのモブキャラ奪い合いの際に多発したPKでは、『バレット』を乱射するアバターに接近戦武器のアバターは近づくこともできず、殺されていたらしい。
今では事実上の杖無双状態として、急速に杖ユーザが増えているらしい。
ちなみに同じく遠距離攻撃できる弓矢は、両手武器のため、盾を装備できないと言う理由で嫌われている。
俺に言わせれば、歩きや走りをベーシックスキルと組み合わせて使えば、『バレット』を回避しつつ近寄って斬るなんて楽勝なんだけどな。
だから。
「ああ。たぶんお前たち程度なら楽勝だとおもうぞ」
こうして、俺たちの初めてのパーティ戦は始まった。
次話は初のパーティ戦闘となります。