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機械仕掛けの箱庭 ~The Mechanical Miniature Garden~  作者: 雄堂 栫
2章 ~彷徨える捕囚者たち~
16/17

3話

本編の第二章の三話目です。

では、どうぞ。

 ふぁ…はふぅ。ねみぃ。

 俺は今日、とっても寝不足だ。眠くて眠くてしょうがない。テクテクと歩きながらも、半分寝かけているような状況だ。

 今、俺たちは街道を南下して、ボルンの街へと向かっている。

「ボルンの街に向かうやつらって、結構いるんだな」

「そうですね。ちょっと意外です」

 ジェームスとミーシャが言うとおり、ボルンの街に向かう街道にはそこそこの数のプレイヤーたちが歩いている。

 半分寝ているような状態の俺は、一度、別のパーティにぶつかりそうにもなった。

「やっぱり王都周辺だと、レベルが上がりづらくなったからじゃないでしょうか?」

「でもよ。鍛冶屋や農夫みたいなのも、一緒になってボルンに移動してるのはなんでだ?」

 仮想世界とはいえ、あたりは暖かな日ざしに照らされてポカポカしている。

 そんな中、あくびを噛み殺しながら歩く俺。三人の話は俺の耳の左から右へと流れていく。

「ふぁああ……ねみぃ」

 うつらうつらしながら歩いていると、アヤヤが俺が歩いている隣に来て、心配してくれた。

「今日はずいぶん眠そうですね? 昨日、寝れなかったんですか?」

「……ああ、ちょっと色々あってね」

 さすがにアヤヤに寝不足な理由は、話せない。

 理由を知ったら、非常にメンドイことになるのは、目に見えてるし。


 昨日ケンさんと別れた後、俺たちは『転職の神殿』で一次職に転職した。

 俺とミーシャは『戦士』――武器攻撃のエキスパート――に。

 ジェームスは『盗賊』――ダンジョン攻略に役立つ武器やスキルを多く扱える――に。

 アヤヤは『魔術師』――強力な遠距離攻撃が可能な砲台役――に。

 武器防具に関しては、みんなこれまでの物を装備できたから、そのまま特に変えてない。ボルンの街で変えた方がいいもの手に入りそうだし。

 ちなみに昨日の夜、ジェームスは異常なほど興奮した様子で……。

「俺の妹が、魔法少女になった件について!!!!」

「キタコレ!!! リリカルマイエンジェル!!!!」

「俺、あいつに不屈の心で砲撃を撃たせるんだ……」

 とか、意味不明なメッセージをチャットで一晩中送ってきやがった。結局、俺が寝れたのは明け方近く。

 アイツのせいで、俺は今日、寝不足だっ。


 俺の眠気がようやく収まってきたのは、街道沿いの平原というには大きな岩が目立つあたりで摂った、昼飯休憩も終わる頃だった。

 値段は普通で味も普通な、ごく普通な携帯食料を食べ終わって、みんな休憩中だ。今日の昼飯は、以前食べた激マズ携帯食料じゃなかったため、俺も昼飯の内容には十分満足している。

「DAIさん、お茶、いかがですか?」

「ああ、もらう」

 アヤヤがカップにお茶を注いでくれる。

 ホントに気が利くいい娘だ。この娘を彼女にする野郎は、大変な果報者だろう。

「はい、どうぞ」

「ああ、ありがとう」

 にっこりと微笑むアヤヤ。

 うん、かわいいな。

「あ、俺も飲むわ」

「はい。兄さんの分です」

 アヤヤはドンッと、ジェームスの前に水筒を置いて放置。

 ……あれ? アヤヤは、気が利く……いい娘な、はずだが?

「なんだそりゃゃゃああっっっ!!!!」

「うるさいです、兄さん」

 激昂するジェームスに、真冬のシベリア並に冷たいアヤヤ。

「……お願いですから、兄さんはせめてもう少し、空気とか雰囲気とかを読んでください」

「意味わかんねーよ」

「だから兄さんには彼女ができないんですよ。せいぜい非モテな兄さんは、モテる人の邪魔をして、お馬さんにでも蹴っ飛ばされないように、気をつけてくださいな」

「俺はこれからモテる男になるんだよ。近い将来、きっと俺の時代が来るっ!!」

「えっと、兄さん……宿屋は、ここからだとまだ遠いですよ?」

「寝言じゃねぇぇぇええええっっ!!!」

 やっぱり気がつくと置いてきぼりな俺。

「まーた始まったよ」

 カップを片手に、苦笑しながらミーシャに話しかけると……。

「でも今回の口喧嘩は、半分くらいはDAIさんが原因ですよね? まあ、私はアヤヤの味方なんで、別にどうでもいいんですけど」

 と、半分ジト目で言われた。

 おいおい、そりゃどういう意味だ?


                  ****


 昼休憩を終え、出発しようとした時だった。

「ここからなら、たぶんボルンの街まで後、二時間くらいですし。後は一気に歩いちゃいましょうか」

 ミーシャの呼びかけに頷いて、出発しようとすると、少し先の岩陰から人同士が言い争うような声が聞こえてきた。

「おい、ジジババども。さっさと出すもん出せっつてんだろっ」

「そうそう。言うこと聞かなきゃ、殺しちゃうよ?」

「ギャハハ。だな。今は、死んでも生き返られないからね。俺らに殺される前に、さっさと金と装備と道具、全部出した方がいいよ? リアルラックが良ければ、モブに殺されずに街まで辿りつけるかもしれないしな」

 気になって見に行くと、そこには生産職らしき二人の老人と、それを囲む柄の悪い若者たち五人――もはや強盗一味とでも呼ぶべきか――という構図があった。

「ふざけるなっ。誰が貴様らなんぞに、くれてやるものか」

「そうだよっ。顔を洗って出直してきなっ!!」

 自分たちよりも多くの若者に囲まれながらも、威勢よく挑発する老人たち。そして強盗一味にしても、その沸点の低さは折り紙付きだった。

「そんなに死にてえなら構わねえ。お望み通りぶっ殺してやるよ」

 ジャキ、と手に持った武器を老人たちの方に向ける強盗一味。なんともステレオタイプな反応だ。

「だ、DAIさん。ど、どうしましょう!?」

「うーん、このまま見捨てるのも寝覚めも悪いし、せっかくだから介入しようか?」

「そうですね。いくらデスゲームの中でも、いえデスゲームの中だからこそ、あんな非道なことは見過ごせません」

 目の前で始まりそうな事実上初めての『殺し合い』に動揺を隠せないアヤヤ。

 逆にミーシャは、緊張しているみたいだが、変に脅えたり気負ったりしている様子はない。ここ数日の間で、デスゲームに関わる覚悟はすでにできているのだろう。

 そしてジェームスは、というと――。

「……ふん、虫けらどもめ」

 厨二なセリフをのたまっていた。


 こうして俺たちは、お仕事中の強盗一味を止めるべく、脇から介入したわけなんだが――。

「おい、こいつらの装備、見てみろよ」

 と、バカにしたような口調の強盗一味。

「武器が剣? 斧? 弓? こいつら、なんも知らねえアホだぜ」

「てめーら、バカか。杖持ちが一人だけなんかで、俺らに勝てるとでも思ってんのかよ?」

 実際、強盗一味は、五人のうち三人までもが杖を装備しているという、とても偏ったパーティ編成だった。

 『機械仕掛けの箱庭』がデスゲームになる前のことだ。

 王都脇の平原でのモブキャラ奪い合いの際に多発したPKでは、『バレット』を乱射するアバターに接近戦武器のアバターは近づくこともできず、殺されていたらしい。

 今では事実上の杖無双状態として、急速に杖ユーザが増えているらしい。

 ちなみに同じく遠距離攻撃できる弓矢は、両手武器のため、盾を装備できないと言う理由で嫌われている。

 俺に言わせれば、歩きや走りをベーシックスキルと組み合わせて使えば、『バレット』を回避しつつ近寄って斬るなんて楽勝なんだけどな。

 だから。

「ああ。たぶんお前たち程度なら楽勝だとおもうぞ」


 こうして、俺たちの初めてのパーティ戦は始まった。

次話は初のパーティ戦闘となります。

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