第九話:神様、バグ技で「スタッフロール」を呼び出される
魔王が処理落ちで爆散し、平和(?)が訪れたかに見えた魔王城。
しかし、世界はまだ終わっていなかった。
『認めん……認めんぞォォォォッ!!』
天が裂け、まばゆい光と共に、黄金の鎧を纏った巨大な人影が降り立った。
背中には12枚の翼。手には世界を書き換える「運営の杖」。
この世界の創造主、神ナルシウスご本人である。
「ひっ……! あ、あれは……伝説の創造神ナルシウス様!?」
セセリアがその場に平伏する。
「神様が直接降臨されるなんて……! 私たちの偉業を讃えに来てくださったのですか!?」
「違うわボケェェェッ!」
ナルシウスは地団駄を踏んだ。
「讃えるわけあるか! 私の脚本をズタズタにしやがって! 魔王は『第2形態』も『第3形態』も残っていたんだぞ!」
ナルシウスが杖を振るうと、世界の色が反転した。
【システム権限発動:バグ修正パッチ適用】
【修正:物理演算の正常化】
【修正:壁抜け・座標ズレの無効化】
「ふっふっふ。この空間は私が直接管理する『完全聖域』だ」
神は勝ち誇った。
「ここでは壁抜けも、座標バグも、処理落ちも通用しない。小細工なしの、真正面からの殴り合いだカケル!」
「貴様のその聖剣で、私と正々堂々戦うがいい! 推定戦闘時間は5時間だ!」
神のステータスは『HP:無限』。
まともに戦えば絶対に勝てない、負けイベント兼ラストバトルだ。
「……チッ。バグ修正か。面倒くさい運営だ」
カケルは舌打ちした。
「勇者様! 戦いましょう! 私の補助魔法と、貴方の聖剣があれば……!」
セセリアが杖を構える。
だが、カケルは聖剣エクスカリバーを見つめ、こう言った。
「いや、戦闘はしない。『エンディング』を呼び出す」
「えっ?」
カケルは、神の目の前で奇妙な動きを始めた。
まず、聖剣を装備したり外したりを高速で繰り返す。
カチャカチャカチャカチャッ!!
(装備変更音)
「な、何をしている? 威嚇か?」
神がいぶかしむ。
「セセリア、一番派手な回復魔法を撃て。ポチ、全力で吠えろ」
「は、はい! 『ホーリー・ヒール』!」
「ワオォォォォン!!」
画面内で「聖剣の輝き(エフェクト)」「回復魔法の光」「狼の音声データ」が同時に発生する。
情報量が密集する中、カケルはさらに、メニュー画面を開閉しながら、その場で256回回転した。
「回線に負荷をかけつつ、メモリの番地をズラしているんだ」
カケルは淡々と作業する。
「この聖剣のアイテムIDは『256』。回復魔法のエフェクトIDは『512』。これを同時に処理落ちさせながら、特定の座標でメニューを開くと……」
神ナルシウスの顔色が青ざめる。
「ま、待て。その挙動は……まさか……!」
「メモリのアドレスがズレて、参照先が『戦闘プログラム』から『エンディング・ムービー』に誤接続する!」
カケルが最後に、聖剣を地面に突き刺した、その瞬間。
ブツンッ。
世界の音が消えた。
神ナルシウスの動きが止まる。
そして、何もない虚空から、巨大な黒い文字が降ってきた。
【 THE END 】
「……は?」
セセリアが空を見上げる。
続いて、荘厳なバラード曲と共に、スタッフロールが神様の顔の前に流れ始めた。
* Producer: NARCIUS
* Director: NARCIUS
* Scenario: NARCIUS
「ぎゃああああああああッ!?」
神ナルシウスが悲鳴を上げる。
「やめろォォォッ! まだ倒してない! 私はまだ生きているぞ! なんでスタッフロールが流れてくるんだ!」
「強制フラグ完遂だ」
カケルは流れてくるスタッフロールの文字(物理判定あり)に座り込んだ。
「お前がどれだけ強くても、『THE END』が出ればゲームは終わりだ」
「そ、そんな……私の完璧なラストバトルが……!」
スタッフロールの文字『Scenario Writer』の「S」の字が、ナルシウスの顔面に直撃する。
「ぐはっ!?」
「勇者様……これって……」
セセリアは、美しい音楽と流れる文字を見て、頬を染めた。
「戦いは終わった……ということですね? 私たちの愛が、神様すらも沈黙させ、世界に平和をもたらしたのですね!」
「(まあ、結果としてはそうだな)」
カケルはあくびをした。
「タイムは……48分12秒。自己ベスト更新だな」
『ふ……ふざけるな……! 認めん……こんな終わり方……』
スタッフロールに押しつぶされ、強制的に退場させられながら、神ナルシウスは涙を流してカケルを睨みつけた。
『覚えておけ……! 次のアップデートで……必ず貴様のアカウントをBANしてやるからなァァァッ!!』
神の捨て台詞と共に、画面はホワイトアウトしていった。
こうして、RTA走者カケルは、神の用意したストーリー、ボス、感動、そして神自身をも「処理落ち」させ、世界最速でこの世界を攻略したのである。
(第九話・完・そして新章へ?)




