第七話:緊急メンテナンス(物理)により、壁抜け対策されました
「見えたぞ。あれがラストダンジョン、魔王城『パンデモニウム』だ」
カケルたちが立つ丘の向こうに、禍々しい紫色のオーラを纏った巨大な城がそびえ立っていた。
本来なら60時間かけて到達する場所だが、現在のプレイ時間は約45分。
カップ麺が出来上がって食べる時間くらいしか経っていない。
「すごい……。もう魔王城なんて……」
セセリアが感無量の声を上げる。
「普通なら何年もかかる旅路を、貴方は私のため(※タイム短縮のため)に、こんなに急いで……!」
「(きっと、早く私を安心させて、二人きりの静かな生活を始めたいのね!)」
カケルはセセリアの妄想をスルーし、城の構造を分析した。
「正面ゲートはイベント(中ボス連戦)があるな。……よし、城壁の裏手から『壁抜け』で玉座の間へ直行する」
彼はいつものように、ポチに乗って城壁の死角へと回り込んだ。
「行くぞ。座標セット……突撃」
ドォォォォォンッ!!!!
「ぐはっ!?」
カケルとポチが、盛大に城壁に激突し、弾き飛ばされた。
「い、痛い……!?」
セセリアが悲鳴を上げる。
いつものように「ニュルンッ」と抜ける感覚がない。そこには、物理的に強固な壁が存在していた。
『ハーーーッハッハッハッハ!!』
上空から、勝ち誇った神ナルシウスの高笑いが響き渡る。
『残念だったなカケル! 貴様の「壁抜け」はもう通用せん!』
空中に、システムメッセージのような光文字が浮かび上がる。
【緊急アップデートVer1.01】
【修正内容:壁の当たり判定を強化しました】
【修正内容:不正な座標移動をした場合、ダメージを受ける仕様を追加しました】
『貴様が移動している間に、全世界の壁に「見えないバリア(即死判定)」を埋め込んでおいたのだ!』
ナルシウスはドヤ顔で言い放った。
『どうだ! これでズルはできん! 大人しく正面から入り、私の用意した「魔王城・100階層ダンジョン」を1階ずつ攻略するがいい!』
カケルは鼻血を拭いながら立ち上がった。
「……チッ。運営がライブパッチ(修正)を当ててきやがったか」
「勇者様、大丈夫ですか!? 無茶です、正面から行きましょう!」
セセリアが駆け寄る。
普通のプレイヤーならここで諦める。
だが、カケルはRTA走者。
「仕様が変わったなら、別の穴を突くだけだ」
彼は周囲を見渡し、そしてセセリアを見た。
「セセリア。お前のその杖、貸せ」
「え? 聖女の杖ですか? どうぞ……」
カケルは杖を受け取ると、あろうことかそれを地面に突き刺し、その上に乗った。
そして、その状態でポチを呼び寄せる。
「ポチ、この杖に向かって走り込み、体当たりしろ」
「ワフッ?(また変なことを……)」
『何をしようと無駄だ! 壁は完璧に塞いだ!』
神が嘲笑う中、ポチが全力で突進する。
「今だ! ジャンプ!」
カケルはポチが衝突する瞬間に、杖の上でジャンプした。
ガッ……ビョーーーーーーーン!!!!
「うわあああああああ!?」
物理演算がバグった。
「固定された細いオブジェクト(杖)」に「高速の質量」が衝突した反動が、全て「上に乗っている物体」の垂直方向への運動エネルギーに変換されたのだ。
二人の体は、ロケットのように真上へと打ち上げられた。
「きゃあああああああッ!? た、高いぃぃぃぃッ!?」
セセリアの悲鳴が空に吸い込まれていく。
城壁どころか、魔王城の尖塔すら遥か下に見える高さまで跳躍した。
『なっ……!? 上だとォォォッ!?』
神が驚愕する。
『壁は塞いだが、天井(空)の判定はまだ……しまったァァァッ!!』
「着地地点、魔王城最上階……バルコニー!」
カケルは空中で姿勢制御し、落下地点を調整する。
「セセリア、俺にしがみつけ! 落下ダメージ無効化(着地キャンセル)を入れるぞ!」
「も、もう何がなんだか分かりませんけどぉぉぉッ! 大好きでぇぇぇすッ!!」
セセリアは極限状態すぎて、愛の告白を叫びながらカケルに抱きついた。
ズドォォォォンッ!!
二人は、魔王城の最上階、魔王の私室のバルコニーに綺麗に着地した。
1階から99階までのダンジョンを、全て「上空」からスキップして。
目の前には、ワイングラスを片手に夜景を楽しもうとしていた魔王が、ポカンと口を開けて立っていた。
「……え? 誰?」
カケルは服の埃を払い、聖剣を抜いた。
「配送業者だ。……死を届けに来た」
『くそォォォォッ!! 次のパッチだ! 天井にもバリアを張れェェェッ!!』
神の叫びはもう遅い。
勇者はすでに、魔王の目の前に立っていた。
(第七話・完)




