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<第40話 盗んだ魔石で走り出す その3>


 地面からずぼっと頭を引っこ抜き、立ち上がる。

 辺りは武器を手にした兵士がぐるりと囲んでいる。

 ブースターでド派手に湖からぶっ飛んだので、敵のど真ん中に落ちたらしい。


「立ち上がったぞ!?」

「トロルだ!」

「いやオーガだ!」


 いつもより視点が高いのに戸惑う。そうだ、今はパワードスーツを身に纏っているからその身長なんだった。

 変な感覚だった。

 センサーが全方位についていて、それが目の前に投影されているから、パワードスーツの中なのに生身でいるように錯覚しそうになる。


「あばばば……」


 それにしても地面に激突した衝撃で頭がぐわんぐわんする。

 いやまあ、即死してもおかしくないスピードと高度と角度と……そんな中で頭ぐわんぐわんで済んでるのがこのパワードスーツの性能の凄さなんだろうけど。


『ゲームとやらでロボットの操縦は分かっておるんじゃなかったのかえ?』


 頭の中に女の子の声が響く。

 廃宇宙船の精霊っていうか、AIっていうか、アシュラのお仲間というか。

 なんかそんな奴、コユミの声だ。


「チュートリアルもなしにいきなり本番するゲームなんてないでしょが!?」

『言い訳だけはすぐに出るやっちゃのう』

『人生言い訳ばかりして生きてきた人なので』


 しれっとアシュラが付け加えてるのが酷い。


「それより、これで本当にみんな救えるわけ!?」

『お主の希望を最大限聞いたわらわの最適解じゃ。それで無理なら死ぬしかないのう』

『不本意ですが、逃走以外の選択肢ではこれに賭けるよりないでしょう』


 うう、確かに色々注文付けた結果の装備なんだよなこれ。

 このパワードスーツに至るまでのゴタゴタを思い出す。

 ソリルがボコボコにされ、もはやあの暴力シスターに皆殺しにされるかという瀬戸際。


『――なにせ、五千年ぶりにわらわの姿を見た者と出会えたのじゃから』


 アメノマカ・コユミと名乗った少女の声。


(ご、ごせんねん!? マジで言ってんの!?)


 いきなりとんでもない単位が出て来て仰天する。


『マジマジ、大マジじゃ。そんな中で、初めてわらわの模擬体を見つけた者と出会ったのは結構大事なのじゃぞ』


 つまり五千年間、話し相手とかいなかったらしい。

 そりゃ大事かもしれない。

 すると、僕より前にアシュラが彼女に尋ねた。


『あなたは、あの廃宇宙船のマザーコンピューターかそれに類するAIですね?』

『くふふ、察しが良い相棒がおるのう。青年』


 僕ははっとして背後の湖を見る。

 その湖面に、淡い紫色の長いツインテールに肩出しのサイバーパンク和服みたいなのを着た少女が、つま先立ちでこちらを見ていた。

 背後にあるのは水蒸気を立てる廃宇宙船。

 あれのマザーコンピューターだって!?


(宇宙船のマザコン!)

『もうちょっと略し方にデリカシーがあった方がいいと考えます』

『お主相棒おらんじゃったら今頃死んどるじゃろ? ……まあよいわ』


 コユミは湖面でこちらににやりと口の端を歪めて笑うと、手招きをした。


『入るがよい。乗艦許可を出そうぞ。アメノ級巡洋艦〝マカコユミ〟へ』

(え!? いいの!)


 ロックオンされたりウッドドラゴンを荷電粒子砲で撃ったり、下手なことすると蒸発させられそうだったから今まで手出しできなかったのに。


『待ってください』

『何じゃ、青年の相棒』

『マザーAIの話し相手ができるから、だけで戦闘艦の艦内に部外者が入れるとは思えません』

『お主がおると迂闊なことはできんのう』


 コユミは老獪にくっくと喉の奥で笑うような声を出した。


『では単刀直入に言おうぞ。お主らに、わらわが再出航するための〝マナ鉱石〟を集めて欲しいのじゃ』

(マナ鉱石?)

『左様。核融合エネルギーだけでは反重力エンジンや次元転移装置は稼働せんのでな。これを集めてくれるのなら――』


 僕の目の前、暴力シスターから王国兵まで、全ての敵のドタマにターゲットマーカーが表示された。


『そやつら全員、消し炭にしてやってもよいぞ?』


 平然と言い放つコユミに、背筋がぞっとする。

 そういえば、過去の痕跡を見ても、自分を襲ってきた数百人を焼いてるんだったこの子。


『どうしますか梅太郎? 逃走という選択肢を選ばないなら、この提案を受けるしかないようですが』


 アシュラはコユミの容赦なさに疑問を抱くこともなく、僕に選択を迫ってくる。


(ちょ、たんま! 僕からも条件がある)

『何じゃ、言うてみい』

(とりあえず、消し炭はなしで!)

『無茶言うでない。奴ら威嚇射撃で多少脅したくらいじゃ退くわけないぞえ』


 あの暴力シスターなんか見てそれも分かるっちゃ分かるんだけど、譲れなかった。


(なんかないの!? こう、死人だけは出ないで済むような秘密道具は!?)

『無茶振りするのう。そこにこだわるのは予想外じゃったが、うーむ……』


 コユミは考え込む様子を見せ、ややあってこう言った。


『あ、そうじゃ。そこに落ちとる〝マナ鉱石〟を持って来れたら、動くもんがあるぞえ』

(え? どこにマナ鉱石なんて落ちてるの?)


 ってか、さっきから出てくるマナ鉱石って何さ?


『そこじゃ、そこ! お主が必死こいて作った家のなれの果てのとこに転がっとるじゃろ?』


 コユミが飲み込みが悪い僕に湖面の方から必死に指さす。



(あれって……)


 そこに転がっていたのは、ウッドドラゴンから結晶化したあの三つの〝魔石〟だった。


『マナ鉱石とは魔石のことでしたか』


 アシュラが合点がいった様子だったが、その時、ソリルはもう絶体絶命の状況だった。

 暴力シスターが瀕死のソリルを持ち上げ、とどめを刺そうとしている。


「誇り高いのは結構。その誇りと共に死ぬと良い」


 もう躊躇できる暇はない。

 僕は次の瞬間、気合を入れて動き出していた。


「っぱああああああ!!」


 体育会系とかだと、ここでかっこいい雄たけびみたいなのが出るんだろうけど、鍛えてない僕だとなんか気が触れたような奇声にしかならなかった。

 それでも、もう後戻りはできないという決心にはなった。


「何事」


 あの暴力シスターすらこちらを向いた。

 でもそれどころじゃない。僕は瓦礫に転がる魔石へと走った。

 ニートの全力ダッシュだからぶっちゃけそんな早くない。足がもつれそうになるのをなんとかして、魔石を回収する。

 背後で、それを僕が金目のものである魔石を盗んだと思ったみんなが落胆の声を上げるが今は誤解だと説明するわけにもいかない。


『ほお、思い切ったのう。こっちじゃこっちじゃ』


 僕にしか見えていないコユミがどこか愉快そうに湖面から手招きしている。


『舷梯を下ろしてやるからそこまでがんばるのじゃ』

「がぼがぼがぼぼぼっ!!」


 魔石を落とさないように必死に抱きかかえて泳ぐのはニートには酷な運動だったけど、火事場の馬鹿力で乗り切る。

 ソリル達の命がかかってるんだからアドレナリンがんがんだ。


「っ! 着いた」


 水をかく手が何かに触れた。

 コユミが言ってた舷梯らしい。廃宇宙船の側面が開き、そこから階段が降りてきていた。

 僕は階段を登って初めて船内へ足を踏み入れる。


「ここは……」


 僕はそこに広がっている空間に目を見張った。

 かなり広い、でも照明が最低限まで落とされているせいか薄暗い空間がそこにあった。


『格納庫じゃ。乗艦セレモニーはないがこちらへ来るよい』

「うわっ!? いつの間にそこに」


 コユミがすぐ側に立っていた。近くで見ると本当にそこに女の子がいるみたいでびっくりする。

 そんな彼女の小さな背中を追っかける。


『ほれ、これじゃ』


 彼女が立ち止まり、壁を見上げるようにした。

 その視線の先を追うと、薄暗い格納庫の壁に何か人型の不気味な影が鎮座している。


傀儡鬼(くぐつおに)五一型じゃ。マナ鉱石が三つあれば少しの間、動かせるぞえ。ただし――』


 コユミがちらりとこっちを見た。


『お主が操縦せねばならんがの』


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浜松春日先生 ご執筆大変お疲れ様でした. 本作のご執筆を再開していただきながら,当方が御作品が更新された事を確認する事が遅れてしまい,何の反応もできない状態で1週間も経過する事となってしまい大変申し…
待ってました。
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