<第28話 露天風呂建設>
風呂を作るのに決めた場所はもちろんあの廃宇宙船の側だ。
リアクターを冷却して熱水となったものをお湯として利用する。
最初は抵抗感があったものの、タダで手に入る熱源なんてまるでないこの大自然のど真ん中で四の五の言ってられない。無害なら利用するのみだ。
「源泉かけ流しならぬ原潜かけ流しの湯って寸法さ」
『ニート渾身のダジャレですか』
やってきたのは拠点から見ると廃宇宙船の反対側だ。
拠点から見ると宇宙船が鎮座しているので死角になる。
お風呂なので人目につかない方が良いし、こちらが側は湖の面積が狭いので熱いお湯を引き込みやすいのもあった。拠点側だとほとりの付近は20度ほどにぬるくなっていてエビには良いんだろうけどお風呂には向かない。
「資材を用意しました」
『楽のためなら積極的に動くのはさすがです』
集めたのは、露天風呂の風呂場用の石、導湯管になる中をくりぬいた木材、湯舟用に板材も準備した。
「まずはほとりに穴掘って土台になる石を敷いてと」
ここの湖は砂地なので露天風呂を作るなら石を敷き詰めて形を作らないといけない。
重力干渉ビームを応用してひょいひょいとこれまた用意しておいた木製スコップで砂を書き出す。
そこへ砂地に湯舟が沈み込んだり変形しないように岩を敷いて土台を作る。
「そんで〝木組み〟で組めるようにした板材で風呂桶を整形と」
木組みというのは木材の凹凸や溝を組み合わせて組み立てる建築方法のことだ。
金属製の釘がそもそもないので、こうするしかない。
連日の製材作業で細かい木の整形もできるように上達した今ならこんな精密作業も可能だった。
『まあ私がほとんど補正プログラム走らせて補助してますが。本来は木組みというのは熟練木工職人の巧の技ですからね』
「ビギナーがやる気なくすようなこと言わないでよ」
なにはともあれ、風呂桶も完成した。
板材は城壁作りで余った材料を有効活用した。
「縁の部分に砂利と岩を詰めてと」
我ながら良くできた。
あとはここに湯を引けばいい。
『では熱水が出ている熱水口を探知します』
「よろしく」
導湯管をあらかじめ地上で組み立てると、廃宇宙船から熱水が出ている船底を熱源探知する。
そこへ取水口を沈める。
熱いお湯を受ける部分なので特に分厚く頑丈に作ってある部分だ。
そこから木組みで水中を通り、地上へ至る木製のパイプラインを構築する。
熱水は勢いよく排出されているから、そこへ取水口を当てれば水圧で適度な量が地上にじょぼじょぼと出てくる。
「あっ! 出てきた出てきた! あっち!?」
手に取ってみると、ちょっと熱めかな。
『湯を張る過程で適度に冷めるので、導湯管から出てきた時点ではこれくらいの熱さが要りますよ』
「なるほどなるほど」
早速木組みで作った湯舟へインする。
待つこと数十分。
「おおー、湯気と湯舟が良い感じに温泉だ」
『温泉といっても沸かした湯だけなので効能はありませんが』
「夢がないこと言うんじゃありませんよ。温泉気分という効能があるでしょが!」
待ってる間にこれまたアイテムクラフトした木製の桶を手にさっさと服を脱いだ。
かけ湯をすると、熱い湯の感覚が最高だった。
「ああ、これだよこれ! たまらんばい」
本来ならお湯に入る前に体を石鹸やボディーソープで洗うべきところなんだけど、そんなもんは今ないので、せめて手ぬぐいで体を拭く。
そしていよいよ、入浴開始である。
「おふう〜〜〜〜〜」
足を延ばして湯舟に浸かると、えもいわれぬ声が出た。
疲れが湯に溶けだしていくようなそんな感じだ。
「うへえ、夜空超綺麗」
風呂場作りをしていたら時刻はもうすっかり夜。
露天風呂だけあって上を見上げればそこは満天の星空である。
「初めてだなこんな夜空」
光といえば脇に立ててる松明の灯りくらいなもの。
その灯り以上にきらめく空の星々。びっくりするくらい鮮明に見える。
『現代は人工光源に邪魔されて夜空が見え難いので、その感想はおそらく間違いではありません。都会の夜に空を見上げても星が見えず、田舎で空を見上げると星がよく見えるのは気のせいではないのです。天文台は観測精度を高めるために人工の光がない山の上に建設されるくらいですから』
「なるほど〜……」
気持ち良すぎてアシュラの説明は7割くらい聞き流してた。
「おや? 大きな二つのお月さまが?」
ふと、一際大きなまあるいお月さまが現れる。それも二つ。
「何してるんだ……ウメタロー?」
「きゃあっ! ソリルさんのえっち!」
それが覗き込んできたソリルの二つの膨らみだと気付いてぶったまげる。
ノックもなしにお風呂に入ってくるなんて! ってノックするドアがなかった。
「気でも触れたか? こんなところで裸になって」
ソリルは心配そうな目でこちらを見ていた。
それがなんだか余計に恥ずかしい。
手ぬぐいであそこを隠しながら必死で反論する。
「ち、ちがうちがう! これは露天風呂だよソリル!」
「ロテンブロ?」
どうやら人狼族の言葉には存在しない単語らしい。
「ええっとね、こうしてお湯に浸かって疲れをとるんだ」
「水浴びと何が違うんだ?」
ソリルは首を傾げている。
「水浴びは体の汚れを落とすだけだけど、温泉に浸かるのは体力回復と心の回復になるんだよ」
僕は一生懸命自分で作っただけに力説する。
ソリルはそれでもどこか胡散臭げだ。
「人狼族では温泉は不吉な存在だから、あまり近寄らない」
そんなことある?と思う。
『温泉付近には硫化水素などの有毒ガスが噴出していることがあるので、それを恐れて禁忌になったのでしょう。人狼族は特に鼻が利くので危険な臭いに敏感だと推測できます』
(最初にネルグイがここを温泉だと言ってたの、むしろ警戒のためだったのか)
しかしそんなもったいないことがあってたまるか。
ただでさえ娯楽が少ないこの〝災いの大地〟だ。
温泉という娯楽を捨てられようか、いや捨てられない。
「ソリルも浸かってみなよ! 絶対気持ちいいから!」
「は、はあ?」
思い切り嫌そうな顔をされた。
が、入浴の楽しみを今しがた満喫した身としてはこれはほとんど布教に近い感覚でゴリ押しする。
「ソリル、記憶喪失の僕だけど、うっすら故郷の国のことは覚えてるんだ。そこではね、裸の付き合いといって、こうして一緒に湯に浸かることで親睦を深めるという風習があったんだ」
「……それは、その、男女で裸で入ってるのか?」
「もちのろん。混浴といって一切やましいことはないんだよ」
僕に関してはだいぶやましい感情が潜んでるけど。
「うーん……」
ソリルはちゃぷちゃぷと湯に触れて考えている。
そして、自分の体をすんすんと嗅いでみる。
「じゃあ、しばらくあまり水浴びもできなかったし、入ってみるか……」




