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中編②


「ベルは、お姫様だったのか。道理で美人なわけだ、ハハ」


茶色の髪がぼさぼさな少し薄汚れた服を着た少年が、頭をかきながらあぐらをかいて座っている。

その横に青い神官見習いの服を着た、金髪の美少女が立っている。

この小高い丘から眺める王都は今夕暮れ時、もっとも夕陽がきれいな時間だ。


「なによ、カイオス!ませてるわね。私より一つ年下の九歳なくせに、そんなの六歳までよ。いまの身分はあなたと変わらないわ」


「よくいうな。あんなに王さまやお妃さまに気にかけてもらってるのに」


「それはお母様が良い性格でみんなに好かれているから、私はそのついでよ」


「お母様?ああ、あの時々フードをかぶって来るご婦人のことか、こないだ、オレの弟分が孤児院で砂糖菓子を皆に配ってたって言ってたな。弟分が転んで泣いてたのを、泥で汚れていたのを構わす抱きしめて慰めてくれたって」


「ふん、お母様は誰にたいしても優しいのよ。平民、貴族関係ないわ」


「ふーん?そういえばベルの母ちゃんって何者?」


「お母様!母ちゃんじゃない、それに何者ってなによ!お母様はお妃さまよ」


「なんだよ、意味同じじゃん、それに王妃さまがいるのになんでお妃さまなんだよ?」


「あんた、本当になにも知らないのね!ああ!ほんと、できの悪い弟をもったお姉ちゃんの気分よ。あのね、王族は必ず跡継ぎがいないといけないの。だから、複数の奥さんがいるの。その奥さんに順位があって一番えらいのが王妃さまなの。おわかり?!」


「なんだよ、お妾さんってことじゃん」


「側妃よ、お妾さんじゃないわよ!もう、カイオスとは話ししない!」


二人の話しは尽きないが、地平線にはいつの間にか三つ目の月が現れていた。




»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»




ガタッガタッガタッガタッガタッガタッ

馬車にゆられてる音、ギリウルの顔が真上に見える?


「ん、ここは?」


「キッケン領の外れだ、この先の丘を越えればロムナ湖が見えるはずだ」


「私、眠っていた?」


「無理もない、強行軍だったのだ、ララの為なら俺の膝はいつでも開けてある」


「きゃっ?!ご、ごめんなさい。ギルも疲れているのに」


慌てて起き上がるララベル、それをそっと肩を抱いてギリウルが引き寄せる。


「しばらくこうしてララに触れていたい、君を危険に晒したくないのに…俺に力がないばかりにすまない」


「もう、それは散々話し合ったでしょ。大丈夫!私は魔王戦の経験者、場数は踏んでるの、必ず勝ちましょう」


「男の俺が君にそれを言われるのは、なんだか情けない気になるな」


ララベルはギリウルにデコピンをした。


「いたっ!?」


「出来る者がやる、それだけよ。男も女もない、ね?私はその為に喚ばれたんだから」


「すまん、だが、これだけは言わせてくれ。必ず君を俺が守る!」


「ん、頼りにしている」


その時、御者席にいたシンが叫んだ。


「殿下、見えました!ロムナ湖です。このまま迂回して岩影にはいります」


「わかった、頼む!」


私はシンの横にいるカリスに声をかける。


「カリス、辛くない?」


「大丈夫です聖女さま、少し怖いだけです」


「無理しないでね、シンもカリスをお願いね」


「はい、聖女様。しかし殿下、こうも上手くいくとは思いませんでした」


シンがギリウルに振り返りながら話す。


「ふ、欲深い奴等を騙すのは簡単だった」


「貴方、役者になれるわ」


私達は皆で笑って、後ろを眺めた。

私達が王都を発って、すでに二週間が過ぎていた。




////////////////////////////////////




「四人だけで魔王討伐?ララ、本気か?」


「せ、聖女さま!?」


「無茶です!!我々の屈強な騎士団が数度遠征し、三千人もの犠牲者をだしながら魔王に手傷すら負わせられません。まして、奴はいつもはロムナ湖の湖底におり、不意討ちもできません。第一、どうやって王宮を説得なさるおつもりですか??」


三人は一様に唖然としたが、ララベルは構わず話しを続ける。


「シン、魔王はどんな型なの?知性は有る?」


「型?騎士団の生き残りの話しからすると、竜に似た黒き魔物との話しが多いですが」


「ロムナ湖に土着の生き物で、竜に似た生き物はいるかしら?」


「水竜が棲むとの話しがありますが、伝承の域をでておりません」


「どういうことだ?」


ギリウルがララベルを問うように見る。


「私の世界では森の普通の生き物が濃い魔素の影響で魔物に変わるの。その強力進化した先に魔王がある、でも、元の生き物の性質は残っているものなの」


「そうか、元の生き物が知れれば弱点が分かるかもしれないということか?!」


ララベルは頷いた。


「それと、試したい事があるの。浄化前の水で確認したいのだけれど」


シンが手を上げ、説明する。


「それなら、ロムナの水が大河ガイルとして国の中心を流れています。そこから各、町や村、もちろんこの王都もですが引き込みの為の水路があり、各所に浄化用の貯水槽が作られておりますので、そのどれかなら手配できますが?」


「お願い、私の力で水が浄化できるなら魔王を倒せるわ」




////////////////////////////////////




数日後、四人はお忍びで王都内のある浄化用の貯水槽に来ていた。


「ララ、人払いはできている。いいぞ!」


ギリウルはシンと、貯水槽を囲む塀の扉を閉めながら言った。

ララベルは頷いて、貯水槽の端に立って杖を立てる。

水面には黒き靄がうっすらとかかっているが、構わずギリギリ触れるか、触れないかのところまで前に右手を出す。


「ララ?!危ない!手が爛れるぞ!」


「「聖女さま?!」」


「大丈夫」


「「「?!」」」


三人は焦ったが、ララベルは予定の行動だった。

ジッジジッ

右手の指先に火傷のような軽い痛みを感じる。


(やはり?!これはかなり薄いけれど魔障霧かそれに近いものだわ。それにこの水、魔素がある!しかも大気に含まれるものより多い。予想通りだけど、一つだけわからない事があるわ)


ララベルはチラっと隅に積み上げられている物を見て、眉間にシワを作っていた。

少し下がってふぅっと小さく息をはく。

改めて貯水槽に右手を開いて向ける。


(広域浄化ならホーリーレインなんだけど…小規模はあまり得意ではないのよね)


「悪しき穢れを浄化せん!ホーリーウインド!!」


杖が虹色に輝くと、ララベルの手から金色の光の粒子が沸き上がりララベルの全身を巡っていく。

長い金髪が舞い上がり、光の粒子はうねりとなって貯水槽を包んでいく。

まもなく貯水槽の黒き靄が跡形もなく消滅し、あとには金色に輝く水面があった。

あまりにも幻想的な状況に、三人は口を開けて茫然としていた。

だが、光の粒子が貯水槽に留まらすに広がっていく。


「あ、」


「ララ、どうした?」


「ごめん、やっぱり広域になっちゃた」


「……」


ウインクして舌を出すララベル、頭を抱えるギリウル。

光の粒子は渦を巻きながら、塀の外に広がっていく。

シンは塀の外を眺めて振り返った。


「ここは、平民の区画ですが貧民街が近い地区です。騒ぎになる前に移動をしましょう」


「それしかないな」


ギリウルとシンが話し込んでいる側を、カリスがララベルに駆け寄る。


「聖女様、やっぱり水神リューネ様が遣わされた御方、わ、私、感動しました。聖女様の奇跡を見ることができた私は幸せ者です」


「あ、ありがとう?、カリス」


祈りをあげるような姿勢で膝を付いて見上げてくるカリスにララベルは引きぎみにこたえた。


「いくぞララ、なんだ?」


「確かめたい事かあるの。ちょっと待って、カリスお願い、そこに有る桶に水を汲んでほしいの」


「はい、聖女様」


ララベルはカリスが水を汲んでいる間に、隅に積んである白い石のようなものの中から手のひらにのるくらいの物を手に取った。


「これは?」


「それは、浄化用の精霊石だ。なんだ、なぜ桶にいれる?浄化は済んでいるのだろう?」


私はカリスが運んできた桶の水の中に精霊石を沈めた。

皆が見つめる中、なんの変化も起きない桶を確認し、一人、納得して水をすくって飲んだ。


「冷たくて美味しいわ、カリス、飲んでみて」


「はい、ああ、美味しいです、これも聖女様のおかげてしょうか?」


「そんなこと、あるわけないじゃない。冷たいから美味しのよ?ギル、もういいわ、行きましょう」


「あ?ああ、シン、いくぞ、どうした?」


扉を開けようとしていたシンが扉から手を放していた。


「遅かったようです」


「なに?!」


ガチャッガチャッ、外から扉をさわる音とともに大勢の人々の声が聞こえる。

私達が扉から離れると同時に扉が開き、沢山の人々が入ってきた。

みな、薄汚れた服、痩せ細った身体だったが何故か、顔色はよく目は輝いてみえる。

貧民街の住人だろうか?

警戒する私達の前に一人の老人が進み出た。


「あなた様方は?、む?!、そこの金の髪の娘さんはもしや聖女様?」


シンとギリウルが私を隠すように前にでる。

カリスが渡してくれたロープを慌てて着こむ。


「何者だ、衛兵にこの辺りは人払いをさせていたはずだ」


そこに外を警護させていた衛兵の一人が扉の隙間から飛び込んできた。


「お前達、下がれ!で、殿下!申し訳ありません、この者達は貧民街の連中ですが不思議な金の光が辺り一帯を包んだ後、大勢で現れ我々が押し留めている間に一部が勝手に中に入ってしまい?!な、何をする、放せ、止めれ、か!」


衛兵は数十人の民衆に押し出され、塀の外に追いやられてしまった。

四人に緊張が走り、ギリウルとシンが劍に手をかける。


「まちなされ、我々に敵意はないのじゃ。ただ聖女様にお礼とお願いがありますのじゃ」


「お前は?」


「殿下、ここは私が!」スッとシンが手で制しギリウルの前に出て叫んだ。


「私が話しを聞こう!その代わりに此方の方々にはそれ以上近づかないでもらいたい」


「わかりもうした、皆、そこな御仁が話しを聞いてくださる。それ以上は近づかないやうにな」


老人が指示をだしたのを見て、シンが老人のところに歩みよる。


「シン様は大丈夫でしょうか?」


カリスが心配そうに呟いた。


「シンの劍技は王国二番だ、問題ない」


「一番は?」


ララベルの問に、ギリウルはニヤっと笑った。


「もちろん、この俺だ」


「ふふ、だとおもった」


何故かギリウルが子どもっぽく、かわいいと思うララベルだった。



しばらくしてシンが戻ってきて、話しの詳細を説明した。

ララベルの魔法が貧民街の半分に作用し、魔王の毒水の病で苦しんでいた人々が治ったこと。

そのお礼と残りの半分の街への同じ魔法の行使のお願いのこと。


「ねぇギル、水を浄化できる精霊石があるのになんでこんなに病になる者が多いの?」


ララベルは不思議だった。

あれだけ水面上に魔障霧のようなものが見え、近づくこともできないのに、飲用することができないはず。

なのに病が発生している。

あのレブン領のナヤ町のようだ。


「それはな、十分な量の石を水に投入できない時があることが問題なんだ」


「?」


ギリウルの説明に首をかしげるララベルだがシンが補足する。


「精霊石の浄化が進むと、水の中で縮んで最後はなくなってしまうので石が残るような投入が浄化のやり方です。ただ、手元に十分な精霊石がない為に石が残る状態を未確認のまま、飲用してしまう民がいるのです。それに量に関係なく石の投入直後は一定時間、黒き靄はなくなるので飲用できてしまうのです」


「貧民街の大半は一年以内の地方からの流入者だ。王都や近隣では領主による管理で貯水槽ごとの浄化が基本だが、地方や遠隔地は管理があまい場合があり事故が起きた。だが、一番の問題は地方や遠隔地に十分な精霊石が確保できていなかったことが問題だ、くそっ!エラブめ!」


ギリウルは悔しそうに塀を叩いた。

地方や遠隔地での精霊石不足はヘッケン侯爵による石の流通制限が原因の一つだった。

ケプラ男爵によるヘッケン暗殺でそれはすでに解消したが、石不足の被害者や偽精霊石の被害者はそのままだ。

その黒幕がゼートク公爵やエラブ侯爵なのだ。


「いいわ、同じ魔法ならまだできる」


ララベルは自分の力を確認するように手を見ていた。

ギリウルがその手を取ってララベルを見る。


「ララ、断わってもかまわない。無理するな」


「大丈夫、平気よ。それよりね、さっきのことだけど…」


「さっきのこと?浄化後の水に精霊石を入れたことか?」


「ええ、その話しをする前に精霊石の事を教えてほしいの。できれば、魔王が現れる前の扱い方」


「精霊石はロムナ湖の浅瀬や、大河ガイルの川原や川底に沢山あった。今は毒水のため、川底はなくなっているはずだ。昔から汚れの浄化や消臭、食材の腐敗防止、水の浄化に使われていた。❪水神リューネの恵み❫といわれ、庶民の生活の身近に常にあったものなんだ」


「わかったわ。私がここにきた時に、この辺りの空間魔素が私の世界に比べ異常に少ないと話したことを覚えている?」


「君が自分の術で魔力枯渇ぎみになった時のことだな」


「そう、それでね、水から空間の数倍の魔素を感知したの」


「!、まさか?」


「この世界は水に魔素が多く存在する。けれど、空間の魔素が薄いのは大気に魔素が拡散する前に精霊石が魔素を吸収していた。おかしいと思っていたのよ、❪魔王は濃い魔素により生まれる❫、だからこの世界の魔素はロムナ湖底から湧いていると思うわ。さっきのはそれの確認だったの」


「なるほど、凄い発見だな。神殿の老人達が喜びそうだ」


カリスが目をキラキラさせて見つめる。

やめて!



その後、私達は老人達の案内で貧民街の中央にある診療所を訪れていた。

シンの話しによると、元々貧民街はなかったが魔王の毒水により農耕ができず生活が困窮した地方の民達が救いを求めて王都にたどり着いて、寄り集まって出来たのだそうだ。

だから、住居はほとんどが掘っ立て小屋だ。

老人はザナという。

医師で診療所をとりまとめており、いつの間にか貧民街の長のような扱いになっていたらしい。

診療所には治療を待つ、数十人の身体の一部が黒く変わってしまった人々が病に伏せっていた。

女性や子どもが多い。


私はロープを深くかぶって、顔や髪を完全に隠した。


「悪いが、我々は忍んできている。彼女にここで魔法を使わせるわけにはいかない」


「聞いておりますじゃ。この先に離れを用意させましたのじゃ、そこを使ってくだされ」


「いけるか?」


「大丈夫よ、病に苦しんでいる人々をこのままにできないもの」


そこは、ちいさな小屋があり私は中に入りドアを閉めた。


その日、再び金色の光の風が貧民街を中心に拡がり、多くの人々が毒水の病から回復した。

人々はその日を❪水神の聖女の奇跡❫として語り、瞬く間に王都全体に拡がった。



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