001 日常の終わり
其の昔、山より賢者来たり。
彼は万象を解し其を八分せり。
其れ則ち風木水光土雷火闇の元素なり。
人々は彼を讃え大賢者と呼んだ。
ー古い伝承の1ページより
3月の朝の事だった。起きてから食事をとり、鳥のさえずる声に耳を傾ける。穏やかな休日だ。
しかし、得てして穏やかさとはそう長くは続かないものだ。何やら表の方から慌ただしい声がする。両親は納品の為に既に出かけたので今は誰もいないはずだ。
声の元を辿ってみると父さんの鍛冶場から、何やら雑音混じりの音が聞こえてくる。
音の主は壁際にある、街の防衛軍の証たる軍証バッジからだった。
「ザザ…招しゅ…だちに…西…城壁へ…繰り返、す…」
何やら波長が合っていない様子だが、何やら切羽詰まった様子を感じる。
父は一般向けの魔導鉄鋼具製品も取り扱ってはいるが、軍関係者向けの魔導武具の製造販売を主に行っている。そのためたまに軍関係者の忘れ物などもあるが…さすがにこの様な忘れ物は珍しい。
側に立て掛けてあるのは持ち主の武器だろうか。一本のバズーカ砲らしきものがある。
すると突然、街中の拡声器から一斉にサイレンと共に警報が鳴らされた。
『緊急避難警報!緊急避難警報!現在当街へとモンスターの大群の襲来を確認致しました!
市民の皆さんは中央の避難シエルターへとお逃げください!繰り返します…』
避難することも考えたが、目の前にある忘れ物のことがどうにも気になる。
親は恐らく避難シエルターへと向かっていることだろう。
「この忘れ物を届けてから避難しても大丈夫かな…」
少年ライナスは忘れ物を届ける唯一の手がかりである、街を囲む城壁の西口へ向け、忘れ物のバズーカと軍証バッジを抱えて駆け始めたのであった…。




