5.新たな仲間
「どうやら、翼主はタスクを選んだようだな」
ダアタの一言に、里中の者達が息を呑んだ。
タスクは、翼主を説得してみせた。いくら智翼主【ウィズドム】とはいえ、その怒りは他の者達では止められなかっただろう。そして、翼主が名を教えるのは、契約者として選ばれた証なのだ。
「・・・レラ族から離れていたのに。やっぱり、タスクはこういう運命なんだ」
リーンが呟く。すると、ダアタは苦笑する。
「タスクが望んでいたことが、そのまま運命になる。・・・タスクはそういう力を持っているんだよ」
「智翼主の契約者か・・・。でも、どうしよう。契約者って、常に一緒にいることになるんですよね?」
タスクが困ったように言うと、ダアタは頷く。
「そうだな。翼主がこのまま人を憎まずにいられて、そのうえ、人族達が良いというなら連れて回っても良いが・・・」
「・・・俺、今、魔王討伐隊に任命されているんです」
「魔王、討伐・・・?・・・まさか、復活したのか!?」
ダアタだけでなく、他の者達もざわざわと動揺を示す。
レラ族の勢力圏は、最も魔物の生息地に近い。もし、魔王が勢力圏を広めようとすれば、レラ族もただでは済まない。
「呼び戻した者が居ると思われます。・・・翼主をそんなところまで連れて行って良いものかどうか・・・」
タスクは逡巡して、自分にぴったりとひっついている翼主を見下ろす。
「魔王とは少しばかり、因縁があるわ。・・・私は魔王に会わなくてはならない。連れて行きなさい」
翼主の言葉は絶対だ。例え、ダアタが反対しても、これでは、連れて行くしかない。
「ということだ。・・・タスク、翼主を頼んだぞ」
ダアタは苦笑する。翼主の言葉には、レラ族であるならば逆らえない。
「・・・わかりました。・・・ただし、キララが人族を憎みそうになったら、どんなことをしても、止めます」
タスクのその言葉は、翼主に対する反抗とも取れる。最後までヒヤヒヤとさせる発言をする自身の後継に、ダアタは諦めの境地で頷いた。
「わかったよ。・・・タスクの好きなようにしなさい。・・・だが、翼主に対する敬意を忘れるなよ」
「わかってます」
タスクは頷き、皆に背を向ける。
「・・・必ず、魔王は倒します」
力あるタスクの言葉。運命をそう定めるかのように、レラ族の仲間達に宣言した。
「タスク!・・・絶対に、死ぬなよ!」
リーンが叫ぶ。タスクはその声に振り返り笑みをうかべて小さく頷いた。
***
タスクがレラ族の隠里へと行ってから、半日が過ぎ、夜も更けた。祈るようにしてタスクを待つミオンを見ていられず、ナギとココは火を焚いて暖を取る行商人達と情報交換をしていた。
「魔王が復活したっていう噂の出所は、恐らく、行商人の仲間からだろう。・・・俺達は、魔物の生息地付近も歩き回るからな。信憑性については高いと思う。実際に、魔物どもの動きが活発になってるし、何より、あの、魔王居城に黒雲がかかってる様子は、11年前と同じだ」
先程、レラ族の状況を教えてくれた行商人は、そう言って、ナギとココにスープを渡してくれる。
「・・・あの嬢ちゃんにも持って行ってやれ。・・・まあ、レラ族の彼が戻ってくるまではそんな気分じゃないんだろうが」
「・・・はい」
「隠里までは、ここからどれくらいかかるの?」
ココがミオンにスープを渡しに行ってしまうと、ナギが行商人を振り返り尋ねる。
「徒歩ならばほんの1時間程度かな。・・・俺達はエクスペクターって呼ばれる、レラ族の番人達に運ばれるから、数分で着いちまうがね」
「エクスペクター?」
「除害者と言うんだと。まあ、簡単に言うと勢力圏に入りこんだ者を追い払う役目だそうだ。・・・過剰防衛で殺しちまう事の方が多いんだがな」
「・・・そう。・・・タスクは、そんなレラ族を変えたかったのね」
スープをすすりながら、ナギは溜息をつく。
「無事に帰ってくれば良いんだけど」
「・・・な、ナギ様ぁ~!!!」
ココの悲鳴のような声が耳に届く。見ると、ミオンとココが呆然として一点を見つめている。そちらを向き、白い翼が生えた少女とタスクを見つけ、ナギはギョッとする。
「ありゃぁ、話に聞いた・・・翼主、じゃないのか?」
行商人が隣で呟く。
最悪の結果になってしまったのだろうか。翼主は人族を憎む。そして、皆殺しにしろと言いかねないと、タスクは言わなかっただろうか。
仮眠を取っていた行商人たちも、ただならぬ雰囲気に起き出してくる。
緊張を解かないまま、ナギは背に背負っている大剣に手をかける。
「・・・タスク」
ミオンが呼びかける。その声は消え入りそうだ。
「・・・ただいま。ミオン」
タスクがにこりと微笑む。ピリピリとした空気が一瞬にして和やかになる。ナギは大剣にかけていた手を離し、スタスタとタスクに近づく。
「おかえりなさい。・・・それで、彼女は?・・・噂の翼主ではないの?」
タスクは少女を見下ろし、頷く。
「翼主は翼主でも、智翼主【ウィズドム】っていって、とても穏やかな翼主です。人を憎んだりも今のところ無いみたいだし」
「・・・じゃあ、大丈夫なのね?」
ミオンも近づいてきて、確認する。
「うん。まあ、今のところはね。・・・契約者になったものだから、常に一緒にいなければいけなくて、連れてきたんだけど」
タスクは黙ったままの少女に微笑みかける。
「・・・魔王とは浅からぬ縁があるわ。・・・それにタスクが人と会わせてくれるというから着いてきたの」
少女が口を開き、ナギとミオンを見上げる。
「私が人を憎んだときは・・・契約者として責任を取るつもりだったみたいだけど」
「責任?」
「私を封じるの。・・・契約者であれば私に抗うことができる。・・・封じられれば、私はある意味死んだことになるし、タスクも命を捨てることになるんだけどね」
ナギとミオンは絶句して、タスクを見つめる。
「・・・タスク」
「賭けでした。・・・いくら智翼主とはいえ、人を憎まないとは限らないから・・・」
気遣わしげな2人に、タスクは苦笑をうかべる。
「暗い話はここまでよ。・・・始めまして、人族の子達。私は、智翼主【ウィズドム】のキララ。よろしくね?」
にこりと笑う。白い翼にその愛らしい微笑みが、天使を連想させる。
「あたしは重剣士のナギ。あっちで固まってるのが、あたしの相棒で呪文使いのココ」
「・・・私は、タスクの同僚で、ミオン」
「恋人でしょ?ずっと視ていたから知っているわ。・・・それから、神官ギルドに行きたいから、勢力圏を通りたいってコトも聞いた。私とタスクがいれば襲われることはないから、大丈夫よ」
キララはそう言うと、ミオンの目の前に立つ。
「ミオンは、魔力がとても高いのね。後ろの呪文使いには及ばないようだけど」
「!・・・ええ。魔力は人並み以上にあるみたいだけど・・・」
見透かされるような視線に、ミオンは内心焦りながら頷く。そんなミオンに意味深長な笑みを向け、キララは少し離れたところで固まっていたココの側に走り寄り、その手を掴む。
「私はキララ。よろしくね。・・・一つだけ確認したいんだけど、ココって、純粋な人族?」
「えっ?・・・ああ、そうですよ。人族以外の血は流れてないです」
「そっか、じゃ、人族の中でも導師【スコル】の一族の末裔だったりする?」
「!・・・はい。よくご存知ですね」
「ふふ。・・・だって、私達レラ族は導師【スコル】の一族に勧められて、ああやって一族が固まって暮らすようになったんだもの」
ココは目を丸くしてキララを見つめる。見た目は少女なのに、まるで当事者のように話すからだ。
素直に驚きを伝えると、キララはくすくすと笑う。
「あら、タスクから聞かされなかった?・・・翼主はしばらくすると以前の翼主達の記憶を目覚めさせるって」
「伺いましたけど・・・人族を憎まないんですか?特に、レラ族をあんな場所に追いやった私の一族のこと・・・」
「導師【スコル】の一族には感謝してるわよ。人族の中でも私達レラ族を守ってくれたのは、彼等だけだったもの。レラ族ならみんな言うわ。人族の中でも、導師【スコル】の一族だけは傷つけてはならないって」
「・・・キララ」
どんどん饒舌になっていくキララを、タスクは一言で止める。そのタスクを振り返り、キララは呟くように言う。
「・・・しゃべりすぎたわね」
キララの顔からは笑みが消え、ふっと息を吐く。ココが戸惑いながら、キララに手を引かれ、タスク達の側に来る。
タスクは行商人達の方へ向き直り、頭を下げる。
「お騒がせしました。もう、大丈夫です。明日の朝になったら、砦の外まで一緒に行きましょう。除外者に隠里まで案内させますから」
行商人達はホッとしたような表情を見せる。
「助かったよ。ありがとう。・・・レラ族と商売できなくなったら、困るからね」
先程の行商人が苦笑する。
「そうだと思いましたよ。・・・レラ族との取引はすべて魔鉱金で行われますからね」
「魔鉱金!?・・・あれって、レラ族の勢力圏が原産地なの!?」
ナギが仰天する。
「あたしのこの剣も魔鉱金で作られてるのよ。【ダースター】でもさすがに高値の部類に入ってたわ」
「それはそうだろう。魔鉱金は原産地も少なく、加工できる鍛冶師も希少だからな。だから俺達は、多少の危険を冒してでもレラ族と取引をするのさ」
行商人は笑って、タスクと顔を見合わせる。
「本当に助かったよ」
「いいえ。人族に迷惑をかけるのは本意ではありませんから」
タスクはそう答えると、ココの側で突っ立っているキララの腕を取って、自分の側に引き寄せる。
「キララ?」
「だいじょぶよ。・・・ごめんなさい。少し、はしゃぎすぎたわ」
「良いんですよ。キララが人族に馴れて下さるのは、俺も望んでいることですから」
「そう。・・・タスク、もしもの時は、私が止まらなくなる前に止めてね」
「もちろんです。それが契約者の役目ですから」
タスクは軽く答える。だが、その言葉の裏には相当の覚悟があるのだと、皆が気付いていた。
***
次の日の朝、砦の外に出ると、背中に黒い翼を持つ除外者達が、タスク達を待ちかまえていた。
タスクは行商人達を振り返ると、真ん中にいた除外者の腕を掴む。
「彼はマラク。除外者【エクスペクター】のリーダーです。隠里には彼らに連れて行ってもらってくださいね。・・・ほら、マラク」
「・・・こちらの事情で襲ってしまったこと、申し訳ない」
タスクに促され、マラクが行商人達に頭を下げる。
「あ、い、いや・・・危険は承知しているから、気にしないでくれ」
行商人が慌てた様子で首を振ると、マラクは困ったように眉根を寄せる。
「マラク、俺達、ここから北西にあるという、神官ギルドに行きたいんだけど」
「・・・ああ、あいつらの所か。あの辺りには除外者を送っていない。どうせ人族がほいほいと入って来られる場所ではないからな」
「・・・どの辺りになるんだ?」
場所を知っている様子のマラクに、タスクは尋ねる。
「そうだな、レラとルマ族とロト族との勢力圏がちょうど重なっている辺りだな。・・・獣が出没する危険な場所ではあるが、魔物は出ないから冒険者であれば大丈夫だろう。どうやら、相当な力の持ち主のようだしな」
マラクがミオン達の方を向き、うっすらと微笑む。
驚いたのはミオン達の方だった。レラ族が感情的に人族である自分達に敵意を放つとばかり思いこんでいたので、呆けてしまう。
「・・・俺たちは、自分達を守るためにわざと不吉な噂ばかりを流しているんだ。まあ、過剰防衛で人族を殺してしまうことがあるのは事実だが」
弁明をされていると気付いて、ナギが頷く。
「お互いに、先入観はいけないってことね」
マラクは頷き、タスクの方を向く。
「・・・お前が、魔王を倒してくれると信じている」
「レラ族のみんなのためにも、必ず倒すよ」
にこりと微笑み、タスクは頷いた。
「あと、行商人の人達に失礼の無いようにね」
「わかってる。・・・ああ、それから、お館様がこれを持って行けとさ」
マラクが取り出したのは、上質な魔鉱金を使った剣だった。
「【守護者の剣】・・・でも、これは・・・」
タスクが逡巡すると、マラクは無理矢理持たせ、タスクの胸の辺りに拳を向ける。それは、レラ族の、命を預ける者への作法だった。
「お前が持つに相応しい。・・・翼主の契約者だからな」
タスクは頷き、騎士剣と鞘ごと取り替える。
「この剣、ダアタに渡してくれる?」
己の剣を差し出すということは、レラ族の作法で誓いを守るという意味になる。
「わかった。・・・伝えておく」
マラクは騎士剣を預かると、くるりと背中を向ける。
「客人を運ぶぞ。落とさんようにな!」
除外者が行商人を運ぶのを見届けると、タスクはミオン達を振り返る。
「・・・じゃあ、俺たちも行きましょう。神官ギルドへ」
***
うっそうとする森の中、道なりに進んでいく。野宿をしながら歩き、ルマ族やロト族の勢力圏が重なり合う場所の付近に来ると、飢えた獣が増えてくる。
「なんか、生きた心地しないわね」
ナギが辺りを気にしながら呟く。
「この辺りはレラ族も滅多に来ませんから。どちらかというとルマ族が一番勢力を誇っている地域ですね」
「ルマ族って、獣人族のなかでも、鋭い爪や牙を持つ戦士の一族なんですよね?」
「そうですね。獣人の六種族の中で、鳥っぽいのがレラ族だとすると、熊っぽいのがルマ族。犬っぽいのがロト族ですね。他の種族には滅多に会えないと思いますよ。戦う力が無かったので、魔物に対抗できずに数を減らしてしまったらしいですから」
「タスクはルマ族やロト族に会ったことはあるの?」
獣人の説明をするタスクに、ミオンが尋ねる。
「あるよ。・・・勢力圏の線引きに何度も立ち合っているから」
「あっ、アレじゃないですか?」
ココが声をあげ、指をさす。
一同が見上げるのは、森の木々の間から突き出る尖塔。
それは、まだ人族と他種族との棲み分けがなされていなかった頃、人族の王が建てたといわれる古城を使っているという、神官ギルド(ジーガルド)。ショーが紹介状を書いてくれた神官ギルドの建物の尖塔に間違いなかった。
「こんな所に、神官ギルドだなんて」
呆けたようにココが呟くと、ミオンもナギも同意する。
「まったくよね」
「勇気あるよねぇ」
「あら、人族だけがギルドを作るわけではないわよ」
異を唱えたのは、キララ。意味深な笑みを浮かべて、呆けていたミオン達を追い抜かす。
「・・・どういうコト?」
ナギがタスクを振り返ると、タスクは肩をすくめる。
「・・・さあ?・・・キララは遠視が出来るから、何か見えたのかもしれませんね」
キララに置いて行かれないように、少し歩を早めて進む。ようやくギルドの全景が見えて、全員が溜息をついてその古城を見上げた。
「いつ見ても、人の技術ってすごいわねぇ」
そう呟いたのは、キララ。獣人族は物作りを苦手としている。住む場所は簡単に材木を組み上げたもので事足りるし、食事だって、狩ってきた獲物を丸焼きにするだけで充分だ。
人族はすべてが平均しているように見えるが、物作りにおいては、全種族の中で最も特化していると言える。
「より快適に。がモットーの種族だからよねぇ・・・」
ナギが苦笑していう。
「とりあえず、休みたいし、中に入ろう」
ミオンがそう言って、扉を力一杯ノックする。
「こんにちはー!・・・誰かいらっしゃいますかー!?」
大きな声で呼びかける。すると、中から返事が聞こえ、ぱたぱたと足音が近づいてくる。
そして、扉が重い音を立てて開かれていくと、そこには、獣の耳が生えた少年が立っていた。
「・・・うわ。人族のお客さんだぁ~。珍しいなぁ!」
くりっとした目には好奇心が湧き出ている。ふさふさとしたしっぽも嬉しそうに振っているところからすると、歓迎して貰えそうだ。
「あの、私たち、冒険者ギルド(ドード・ヨーン)のギルドマスターから紹介を受けて伺ったんですが・・・」
ココが意を決して話し出すと、ロト族の少年はにこっと満面の笑みを浮かべた。
「ああ!ショーさんトコの人達なんだ!中に入って待ってて!今、責任者を呼んでくるから」
そう言うなり、少年は疾風のように走り去る。
「げ、元気いっぱいって感じの子ですね」
「ロト族は、皆、あんな感じですよ。どんな相手でも臆しないというか、なつっこいというか」
ココの呟きに、タスクが苦笑して答える。
「ただ、翼主が・・・」
「お待たせしました。・・・(ジーガルド)の責任者でレムといいます。どうぞ、よろしく・・・ひっ」
先程の少年に連れてこられた、レムと名乗った青年は引きつった悲鳴を上げて、後ろに後ずさる。少年も同様に顔を青ざめさせている。
「よ・・・翼主!?」
それだけで、タスクが先程言いかけていたことを皆が理解した。
「ナルホド・・・翼主が怖いんだ」
ミオンが合点がいったように呟くと、タスクが頷く。
「うん。・・・普通のレラ族は平気なんだけど、翼主だけはね」
「・・・あ、あれ?・・・レラ族の若長?」
おずおずとレムがタスクの顔を見やる。
「・・・どこかで会いました?」
首を傾げると、レムがこくこくと頷く。
「勢力圏の線引きの話し合いの時に!・・・で、やっぱりそちらは、翼主・・・ですよね?」
「ええ。智翼主ですけどね」
「智翼主!?・・・それはまた、希少な翼主ですね・・・。そうですか・・・。で、でも、なんで若長や翼主が人族と?」
まだ、怯えた様子で、タスクたちから一歩引いたところに佇みながら、レムは尋ねる。
「魔王討伐隊ですよ。・・・ご存知でしょう?ギルドを任されているくらいなんですから」
「ええ。情報だけは。・・・そうでしたか。・・・しかし、変わるものですね。レラ族が人族と共にいるなんて」
「まあ、いつまでも反目し合っているわけにもいきませんから」
「それは、確かに」
レムは頷き、少年を引き寄せる。
「紹介がおくれました。・・・この子は僕の弟でレシルといいます」
「よ、よろしく」
キララを気にして、怯えながらもタスクたちに会釈をする。
「あの~う。・・・(ジーガルド)は神官ギルドなんですよね?」
ココが尋ねると、レムは頷く。
「ええ。ロト族とルマ族が中心となった神官ギルドです。・・・人族もほんの数人ですが登録されてますよ」
「なるほど・・・キララの言葉の意味はこういうコトだったのね」
ナギがキララを振り返る。
「そう。・・・ロト族とルマ族の力の気配が感じられたから。・・・でも、こんなに怯えられるなんて、心外だわ。・・・貴方たちより小さな女の子の姿なんだから、そんなに怯えなくてもいいのに」
ムスッとしながら、キララが答えると、タスクがレム達の視界から外すようにキララを抱え、言い聞かせる。
「キララ。ロト族もルマ族も、レラ族と同様に魂に恐怖が刻み込まれています。・・・キララほどの力の持ち主になると、レラ族以外の獣人族も操れるようになるんですから、怖がられて当然です。少しずつ馴れてもらえばいいじゃないですか」
「う~・・・わかったわよ。タスクってば、ほんっとにズケズケ言うんだから」
「・・・申し訳ありません。でも、大事なことなので」
「うん・・・わかってる。・・・そういうわけだから、よろしく」
キララはタスクの言葉に頷いてから、レム達の方へ向き直り、そう言った。
「はい」
未だに身体の緊張は解れていないものの、レムは微笑んで頷いた。
***
休憩室に案内された一同は、改めてショーから預かった紹介状をレムに渡す。
「・・・魔王討伐、大変な任務ですが、出来る限りの協力はさせて頂きます。こちらから派遣する神官は、ショーさんから指定されてますね」
「指定されてる?」
「ええ。以前、ショーさんとお仕事をしたことがある神官で、ほとんどいない人族のメンバーです。名前はスズ。ちょっと外に出てるので、戻るまでこのギルドの中で自由にお過ごし下さい」
レムはそう言うと、数人のルマ族の神官にスズを呼び戻すように言いつける。
「ここはいつからギルドに?」
タスクが尋ねると、レムは少し考えてから答える。
「そうですねぇ、ギルドとして登録したのは2年位前からなんですが、もう、10年近く冒険者達のガイドとしてこの森周辺で、活動をしてました」
「ああ、冒険者ガイド。・・・ルマ族とロト族が共同でそういう事をしているというのは聞いたことがあります。だから、この辺りには除外者を派遣しないでいたんですよね」
「そうです。・・・もともと、レラ族と人族を遭わせないようにしようと始めたのがきっかけなんですけどね」
レムはそう言って、苦笑する。
「でも、もう・・・大丈夫ですよね。レラ族と人族は仲良くできますよね?」
「・・・時間はかかると思いますけど。でも、必ず」
タスクは力強く頷く。“良かった”と呟き、レムは席を立つ。
「僕もスズを探してきます。・・・彼女、行動範囲が広くって・・・。嗅覚だけじゃ探しきれないんですよ」
そして、休憩室にはタスク達だけになる。
「レラ族と人族を遭わせないため、かぁ~」
ナギが溜息をつく。
「そんなに、レラ族は人族を憎んでるのね」
「周りが思っているほど憎んではいませんよ。俺が人族の国に行くと言ったときも、危ないからという理由では止められましたけど、憎い人族の国に行くなんてという言葉は出てきませんでしたから」
タスクが苦笑いを浮かべる。
レラ族の臆病ぶりは、過剰防衛として表れた。それを同じ獣人族であるロト族やルマ族は、憎しみから来るものだと誤解してしまった。
人族もまた、過去から連なる憎しみによって、レラ族から狙われると思いこんでしまった。
完全に悪循環である。
「翼主が憎しみを抱けば、レラ族は全員それに従う。俺が生まれる前の翼主は歴代の中でも最も人族を憎んだと言われています。ただ、人族に直接向けることなく、争いにまでは発展しませんでした。その代り、勢力圏に近づいた人族のほとんどは殺害されましたけど」
「そうだったの。じゃあ、今のレラ族のイメージってその当時のイメージが引きずられてるって事?」
「そういうことですね」
「・・・それでいいんですか?」
ココが眉根を寄せる。
「・・・いいわけないから、人族の住む地に出てきたんですよ」
にこり、と笑う。ホッとした様子で自分を見つめるココとナギを見て、タスクは肩をすくめる。
「心配しなくても良いですよ。今のレラ族は、ほとんど人族を知りません。里にやって来る行商人くらいしか見たことがないんですから。・・・憎みようが無いでしょう?」
「・・・まあ、確かに」
「固定観念を持っているのは、私達の方だね。・・・レラ族=怖い・人を憎むって思いこんじゃってるの。だから、本当は、私達が変わらなくちゃいけないんだよね」
まだ不安げなナギを見て、ミオンが口を開く。
「レラ族はタスクのおかげで人族への考え方が変わってきている。・・・安心して。いずれは、翼主さえも人族を憎まなくなるわ」
そう言ったのはキララ。タスクならば変えられると信じている言葉だった。
「早く・・・レラ族と人族が仲良くできるようになれると良いですね」
ココはそう言って、キララに微笑みかけた。
***
それから、数時間が過ぎ、ルマ族の女性がタスク達を呼びに来る。
「スズが戻ってきました。・・・こちらへいらして下さい」
案内されたのは、古城の奥。中庭の見えるサロンだった。
「ああ、お待たせしたうえ、こちらまでいらして頂いてすみません」
謝りながらも笑顔で迎えたのは、レム。レシルも兄の側に立っている。そして、後ろを向いていて表情が伺えないその女性。
「紹介します。我が神官ギルド(ジーガルド)のスズです」
レムの紹介と同時に振り返ったその双眸は血のように赤い色。そして、絹糸のような銀髪を横でくくっている。
「・・・始めまして。神官兼暗器使いのスズです」
「アルビノ・・・」
呟いたのはココ。
「そうです。私はアルビノ・・・人族でありながら、他の人族とは暮らせない・・・アルビノの民です」
「アルビノは導師の一族から出た突然変異の一族。であってますよね?」
「・・・ええ」
「じゃあ、私達は同じ一族ですね。私はココ。導師の一族です」
ココは微笑んで、スズに手を差し出す。
「そうでしたか。・・・よろしくお願いします」
ホッと表情をゆるめてその手を握りかえし、スズは他の仲間たちを見回す。
「お話はギルドマスターから伺いました。私で力になれることでしたら、何でもやります。どうぞよろしくお願い致します」
深々と頭を下げる。
「・・・さて、これから、森は獣がうろつく時間です。今日はここに泊まっていって、明日の朝出立されるのが良いと思います。・・・お食事も用意しました。どうぞ、ゆっくりとくつろいで下さい」
レムの厚意に甘えて、タスク達はギルドに泊まることにする。
新たな仲間を迎え、いよいよ明日からは本格的に魔王居城を目指すことになる。様々な思いが交錯して、タスクはなかなか寝付くことが出来なかった。
「・・・大丈夫・・・」
隣で横になっていたミオンがタスクの手を取る。
「大丈夫。・・・みんながいるでしょう」
「・・・そうだね」
静かなミオンの声に落ち着きを取り戻したタスクは、ミオンの手を握りかえし眠りへと落ちていく。
「・・・“機は熟した”・・・。」
口角をつり上げて、ミオンが微笑む。だがその呟きは、眠りへと落ちていったタスクが聞くことはなかった。




