第28話 バトルロワイヤル
「第二十層のラストクエストを出現させた、今この場にいる全プレイヤーたちへ。……おめでとう」
ポリゴンから実体化し、空中で滞空している仮面の男は、抑揚のない声でそう言った。
彼がそう言い終わった直後、仮面の男の言葉に、大勢のプレイヤーたちが怒りを覚えた。
「ふざけんな!!」
「お前らがこんなわけ分かんねえことをしでかしたせいで……あいつは……」
「私の友達を返してよ!!」
「速く開放してっ!!」
さまざまな人々が、各々の言葉を口々にした。
それぞれの言葉を聞いた仮面の男は、肩を竦めながら、呆れたように口を開いた。
「確かに、デスゲームであるこの【Unique Online】を作り、そして販売したのは我々だ。だが、プレイヤーの死亡については、我々は何も言えないし、そのことについての謝罪をするつもりも、微塵もない。なぜなら――」
仮面の男は一拍おいてから、閉じた口を再び開いた。
「モンスターとの戦いに敗れたら……いや、HPがなくなって命を落とすのは、当然のことだろう?それに、このゲームにログインしたプレイヤーの、自業自得だ」
仮面の男にそう言われて、プレイヤーたちは押し黙った。
HPが尽きれば、そのゲーム内のプレイヤーは死ぬ。それはつまり、心臓を何かで貫かれたら人間は死ぬ、と言っているようなもなのだ。正論だ。
……だけど。
画面の向こう側にいるキャラクターは何度死んでも
、何度殺されても、アイテム一つで復活できる。それはゲームだから、仮想空間だから、現実の体には何の影響も出ない。
この場にいる、約三百人のプレイヤーたちは……いや、このUOにログインした五千人の人々は、『ゲームなんだから、本当の意味で死ぬことはない』と信じていた。
絶対に死ぬことはないという安心感と、今まで見たことも聞いたこともない、全く新しいゲーム。
その二つの要素に惹かれてこのゲームにログインした結果、死んでしまうことになった。
自分の欲望に従った結末が、死だった。ただ、それだけ。
プレイヤーたちは、考えれば考えるほどに、そう思えてきた。
――仮面の男が言うように、このゲームにログインした自分たちの、自業自得かもしれない。……と。
だけど、一人だけは、それは違うと、仮面の男に向かって言った。
「俺たちは自業自得なんじゃない!こいつらに、罠にはめられたようなものだ!俺たちは――」
――被疑者なんだ。
そう叫んだのは、双剣使いの少年、アレンだった。
―――
俺の主張を聞いた仮面の男は、ふん、と鼻で笑った。
まぁ、俺は言いたいことは言えたので、別にどうでも良い。
それに、だ。
これから始まるラストクエストをクリアすれば、俺たちは晴れて、このデスゲームから解放されて現実世界に帰れるのだ。
できるならエディスとの決闘に優劣をつけたかった。
そして――殺したかった。宗と美野里の仇を、討ちたかった。
でも、それができないのならもう良いや、と思っていた。
俺がエデェスを殺したとしても、それは俺の自己満足であって、それで何かが変わる訳じゃない。長い時間を過ごして、そう考えるようになった。
――何はともあれ、俺たちはもうすぐ現実世界に帰れる。ようし、全力で戦うぞ!!
俺が一人でやる気になっていると、仮面の男が口を開いた。
「では、これから始まる第二十層のラストクエストの説明が書かれたメッセージを一斉に送信する」
そう言い終わった瞬間、仮面の男はポリゴンとなって消滅した。直後、仮面の男が言った通り俺に……いや、今ここにいる全てのプレイヤーに、彼からのメッセージを受信した。
受信したそのメッセージを開き、書かれている内容を読む。
そして俺は――言葉を失った。
メッセージには、こう書かれていたのだ。
――
・バトルロワイヤルルールで、残り一人になるまで殺し合いを行う。
・最後まで生き残った一人だけが、強制的にログアウトされる。
・所持しているアイテムは、すべて使用可能。
・敵をどれだけ倒したとしても、レベルは上がらない。
――
以上が、第二十層の、ラストクエストの内容だ。
なんとなく、周囲を見渡してみる。
どうやら、この箇条書きになっている文を読んで言葉を失ったのは俺だけじゃないようだ。他のプレイヤーたちも一言も言葉を発さずに、メッセージが書かれた青白い画面を、目を見開いて見つめている。
――二人……か。
俺はそう呟き、床を見た。
床は綺麗で、石でできているのか、光沢をもっている。いかにも、堅そうな床だ。
まず、俺を入れて、残り一人。
残り一人は、もうすでに決めている。
「……ヘディ。絶対に俺から離れるなよ……」
俺は顔の向きを変えず、隣にいるヘディに話しかけた。
「ええ……分かったわ」
ヘディは。彼女だけは、絶対に守って見せる。そして、二人で変えるんだ。
――殺されてしまった宗と美野里の分まで、俺は生きなきゃいけないんだ。
俺がそう思って、雷神剣とライトホークを鞘から抜き、身構えた。
直後だった。
俺の目の前を、黒い一陣の風が通り過ぎた。
次の瞬間、多くプレイヤーの頭が、首から斬り離されて空中に飛んでいた。
首を斬られたプレイヤーのHPは一瞬で0になり――ポリゴンとなって、消滅した。
俺はそれを見て、一瞬で誰がやったのかが分かった。
闇属性を扱うプレイヤーなんて、エディス以外、いるはずがない。
エディスが一度に数人のプレイヤーを葬ったのがまるで合図かのように、大勢のプレイヤーによる殺し合いが、幕を開けた。
―――
ズバァ!という、何かを切り裂く音がした直後、誰かの悲鳴が耳に届いた。が、その悲鳴は強敵に中断されてしまった。
どうやら、誰かが誰かを殺したのだろう。
そんなことを考えながら、目の前のプレイヤーの斬撃を回避していく。
俺が殺したいのはエディスであって、目の前のプレイヤーではない。だけどこのプレイヤーは、殺す気で俺に斬りかかってきている。……と言っても、まだ一撃も食らっていない。まあ、食らうつもりもないけどさ。
俺は一通り斬撃をかわし終えると、目の前のプレイヤーに生じた僅かな隙を逃さず、一気に肉薄。プレイヤーの胸を雷で包まれた二本の剣で斬り付け、クロスの傷を付ける。
プレイヤーのHPは結構な速さで減少していき――0になった。
「……剣の腕は悪くないけど……まだまだ」
俺の言葉が聞こえたのか、はたまたそうでないのか。それは分からないけど、目の前にいたプレイヤーはポリゴンとなって消滅した。
それを見届けた後、俺はいつでも誰かが攻撃してきても良いように、周囲を見渡す。
そして、俺は見た。
ヘディに魔法を放とうとする、二人組の魔導士の姿を。
俺はそれを見た瞬間に床を今までにないほど強く蹴り、全速力で駆け出す。
その際、忘れずに二本の刀身を雷で包んでおく。
「…………アアッ!!」
短い気合いを出し、魔法を放つ寸前の魔導士二人との距離を何とか詰める。そして、何の躊躇いもなく、剣を振り下ろした。
片方がポリゴンとなって消滅。それに気付き、驚愕に目を見開いて俺の方を見るが、もう手遅れだ。
回転しながら振られた俺の剣が、そいつの首を胴体から斬り離した。
回転で生じた遠心力を殺さず、そのまま利用して振り返る。勿論、ヘディの安全を確かめるためだ。
……が、俺の視界に入ったのは赤毛の少女ではなく、大剣を振りかぶった筋肉ムキムキのゴリマッチョだった。
「おおおっ!!」
どう足掻いても、この斬撃だけは回避できない。
判断した俺は、最低限の防御の構えをとり、ゴリマッチョの斬撃に耐えようとした。
しかし、ゴリマッチョによる斬撃が俺を襲うことはなかった。代わりに、ゴリマッチョの心臓あたりから、水を纏った刀身が顔を出している。
……ヘディの剣だ。
ゴリマッチョがポリゴンとなって消滅した後、案の定、ヘディが剣を突き出した大勢でいた。
そんなヘディに駆け寄り、すぐにお互いの背中を合わせて立つ。
「ありがとうヘディ。助かった」
「どう致しまして。でも、気を付けてよね」
「ごめんな」
顔の向きを変えず、俺とヘディはそう言葉を交わす。
周囲を最小限の動きで見渡すと、現在の生存しているプレイヤーは激減しており、残り百人と言ったところだろうか。
勿論、エディスは生き残っている。
その証拠に、意気揚々とプレイヤーたちの体を斬り付けている。
……あいつは紛れもない戦闘狂だな。
そんなことを考えていると、後ろからヘディの鋭い声が聞こえてきた。
「アレン!私と交代して!!」
何があったのかは知らないが、とにかく移動して位置を変わる。すると、俺の五メートルほど離れた場所に、銃士と剣士の二人が構えている。……と言っても、俺たちを狙っているわけではなさそうだけど。まあ、危険はいち早く取り除いておいた方が良いのには変わりはない。
『雷刃』を発動させ、雷の刃を銃士に向かって放つ。
銃士は俺が放った雷の刃に気付かず、そのまま弾丸を敵であるプレイヤーに撃っている。
……あいつ、いくら何でも何で気が付かないんだ。
俺がそんなことを考えていると、その直後、銃士に俺が放った雷の刃が直撃した。直撃した銃士のHPが一体どうなったかは分からないが、そいつがポリゴンとなって消滅することはなかった。しかし、雷属性特有の『状態異常・麻痺付与』の効果が発動したのか、銃士は急に動かなくなり、床に倒れた。それに驚いた剣士は、思わず動きを止めてしまった。
そこを狙われ、彼らはポリゴンとなって消滅。俺は後ろにいるヘディに、「終わったぞ」と短く伝えた。
「了解。やっぱりアレンは強いね」
「今はそんなことどうでも良い。今は集中しろ」
「はいはい」
言葉を交わした後、俺たちは剣を振るい続けた。
この乱戦は暫く続き、残ったのは俺とヘディ、エディスを含めた五人だった。
To Be Continued.




