第22話 憤怒
リヴァイアサンとの戦いの果てに勝利した俺たちは今、砂浜に到着していた。
砂浜とは、西の海に入ってすぐの所にある、あそこだ。
俺たちは二人の命を失った。だけど、死を無駄にすることなく勝利できたことが、皆は嬉しかったのだろう。楽しそうに会話をしている。
――俯きながら歩く、俺を除いて。
俺は、犠牲者を出したくないと、そう言った。だけどそうは言っても、結局のところ、犠牲者は出てしまった。
――犠牲者を出さずにゲームをクリアすることなんて、無理なのだろうか。
俺はそう思っていた。
「そう言えばさ」
「どうかした?」
アスカがヘディに質問したのが聞こえたから、俺は顔を上げ、隣にいた二人を見た。
カインも俺と同じことを考えたのか、アスカとヘディを見ている。
「今日はグレムと一緒じゃないの?」
ああ、誰かいないと思ったら、グレムがいないのか。
アスカの質問されたヘディは、突然俯いてしまった。
質問したら、相手が俯いた。そんなことになったら勿論――
「え?ど、どうしたの?」
若干パニック状態に陥る。勿論、陥ったのはアスカだ。
ヘディは、ゆっくりと口を開いた。
「実は……ね。あいつ、一昨日から、連絡が取れないの」
彼女の声は震えていて、とても弱々しいものだった。
「それで……フレンド登録を見ても、名前が……ないの……」
今にも泣き出しそうに、それでも言うヘディを見て、カインとアスカは驚きのあまり、絶句している。
「そん……な……」
俺は思わず、そう言っていた。
だって、フレンド登録から名前が消えているということは――
「誰だ?あんた」
突然、先頭を歩いているプレイヤーたちの方から、威嚇するような誰かの声が聞こえた。
どうしたのかと、声がした方を見てみた。すると、バンさんがあるプレイヤーに話しかけていた。ここから見る限り、どうやらそのプレイヤーは、バンさんの前に立ちふさがっているらしい。
そのプレイヤーの髪は、限りなく黒に近いグレー。身に付けている白い防具は、髪と色のバランスがとれいていて、よく似合っている。腰の左側には、鞘に収められた一本の剣が帯剣してある。
この距離から見て何とか分かるのだが、どうやらあのプレイヤーは、男のようだ。
どうしたんだろうか。て言うか、なんかあいつ、どこかで見たことがあるな。
「なあアレン。あいつ、前に俺たちが助けた奴じゃねえか?」
後ろから、カインに話しかけてきた。
俺は顔だけを後ろに向けて、カインを見る。
「あー、そう言えば。どこかで見たことがあるなーとは思ってんだけど、思い出せなかったな」
リヴァイアサンとの激しい戦闘で、細かいことは忘れてしまったようだ。
まあ、俺は病気ではないけど。
それにしても、なんであいつは、こんな所にいるのだろうか。
「だとしても、なんであいつ、ここにいるんだろうな」
カインも、俺と同じことを考えてたんだな。
そう俺が思っていると、白の防具を付けたプレイヤーが、右腕を隠すように背中に回した。
何をするつもりなのだろうか。
そう思って彼を見ていると、彼の右手に、刃渡りが十五センチほどの短刀が実体化し、握られた。
彼はその短刀を持った右手を前に突き出し、そして――バンさんの腹部に、根本まで突き刺した。
突然すぎて、俺たちは、全く動けなかった。
バンさんは驚愕に目を見開き、短刀を抜こうとした時。HPがなくなり、ポリゴンとなって消滅した。
そして、白い防具を身に付けたプレイヤーのカーソルが、赤に変わった。
「あの野郎……まさか!?」
そう言い終わるや否や、カインは悪刀を抜刀し、走り出していた。
「お、おいカイン!」
俺の呼びかけも無視して、カインは走った。
白い防具を身に付けたプレイヤーに一瞬で肉薄したカインは、悪刀の剣先を彼に向けた。カインの表情は、今まで見たこともないほど、怒っていた。
恐らくカインは、何の躊躇いもなく人の命を奪った奴を、許せなかったのだろう。
「てめえ……何のつもりだ?」
カインは怒りに震える声で、バンさんの命を奪った張本人に問いただした。
するとそいつは、絶体絶命の状況に置かれているにも関わらず、口の両端を吊り上げ、頬を凶悪に歪めた。その表情に俺は、本能的な恐怖を覚えた。
その時。奴が、凶悪に頬を歪めた、その時。
それがまるで合図かのように、ぞろぞろと周囲から沢山のプレイヤーたちが、俺たちを囲むように出てきた。その数、およそ三十人。
彼ら彼女らの手には、それぞれの武器が握られている。
それを確認したカインは驚き、数歩ほど後ろに下がった。
奴は、それによって生まれたカインの隙を逃さなかった。
素早く剣を抜刀し、カインを斬り裂くべく、斬撃が放たれる。
カインはそれを紙一重でかわし、バックステップで俺がいる所まで下がってきた。
「カイン。あいつらは……?」
「間違いねえ。あいつらは、闇ギルドの連中だぜ」
闇ギルド。
全てが謎の、怪しい集団。
「そんな奴らが、なんでここに……」
「さあな。あいつらが考えてることなんざ、俺にはさっぱり分かんねえよ」
分からない……か。
なら。
「だったら、聞き出せば良いな」
そう言いながら、俺はサンダースと雷帝剣を、鞘から抜いた。
本当は、相手が闇ギルドと言えど、俺は戦いたくない。戦っている暇が――殺し合っている暇があるのなら、ゲームクリアに向けて協力したい。そう思っている。
だけど、闇ギルドの彼らは、俺たちを殺す気でいる。理由は分からないが、殺す気がないと、バンさんを殺したりしなかっただろう。
「殺し合うしか……ないのか」
「なんか言ったか?」
「いや、何でもない。それより、一旦アスカとヘディの所へ行こう」
「そうだな。見方は多い方が良い」
そう言って、俺たちは走り出した。
それは、闇ギルドのプレイヤーたちが行動を開始したのと、ほぼ同時だった。
―――
闇ギルドのプレイヤーたちが俺たちの前に姿を現してから、数分が経った。いや、もう数十分は経ったかもしれない。
その間、俺たちは必死に抵抗した。
だけど、一人、また一人と、プレイヤーは死んでいく。
そして、もう暫く時間が経った頃には、生き残っていたプレイヤーはかなり減少していた。
闇ギルドのプレイヤーたちの数は、残り十人。それに対して攻略者は、俺とカイン、アスカ、そしてヘディの四人だけが、残った。
十対四。数的には不利だ。
「アレン。腹、括れよ」
腹を括る、か。
カインは恐らく、『人の命を奪う覚悟』を決めろと言っているのだろう。
「ああ。そんなの、もうとっくにできてるさ」
俺は頬を少しだけ緩め、そう言った。だけど、すぐに真面目な表情にする。
「良いか?俺とカイン、アスカとヘディの二人組で戦う。お互いに、お互いの背中を守り合うんだ」
数的な問題で、前衛と後衛に別れてた戦うという戦法は使えない。魔導士であるアスカが狙われて、集中攻撃をされる可能性が高い。だから、さっきの戦法を選んだ。
それを、カインに説明した。アスカとヘディにもすぐにメッセージを送る。すぐに返事が返っていたから、大丈夫だろう。
「それから。アスカとヘディから、なるべく離れないように戦う。何が起こっても、すぐに駆けつけることができるように」
「なるほどな。確かに、何が起こるか分かんねえもんな」
「説明はした。……行くぞカイン」
「おうよ!」
サンダースと雷帝剣の刀身が青白い雷に包まれ、悪刀・黒翼の刀身が紅の炎に包まれた。
それを一振りし、俺たちは敵陣に飛び込んだ。
―――
「おらああああああ!!」
刀身が炎に包まれた悪刀を、真一文字に振り抜く。
炎属性太刀専用剣技、『水平斬り』。
刀身を包む炎は刀身を離れ、炎の刃と化す。その刃は何の迷いもなく直進し、カインの前方にいた闇ギルドのプレイヤーたちに直撃。直後、爆発が起こる。
それに対して、アレンは素早く動き回り、敵を斬り裂いていく。
カインのように攻撃力が高いわけではないため、一撃では倒せない。だがそれでも、雷属性特有の『麻痺状態付与』を行うには、充分すぎる。……とは言っても、百%付与できるわけではないが。
アレンが麻痺状態にした敵を、次々とカインの炎の刀が斬り裂き、ポリゴンへと変えていく。
麻痺状態にできなかった敵は、アレンの二振りの剣が相手をする。
「剣技発動……『雷刃』!!」
雷が刀身を離れ、雷の刃が、敵を斬る。
アレンが麻痺状態にできなかった一人をポリゴンへと変え、周囲を見渡した。すると、いつの間にか、自分たちを囲んでいた敵を一掃していたことに気づく。
――闇ギルドって言うからどんなもんかと思ったけど……大したことないな。
そう、アレンは思いながら、アスカとヘディの方を見た。
そうして、アレンは驚く。
アスカとヘディが、押されていた。
二人のHPは、すでに三分の一をきっている。それに、まだ敵は三人いる。
「女子二人に、四人相手は無理強いだったか!」
そう叫びながら、アレンは全速力で二人の下へ走っていった。
「お、おい!?アレン!?どうした……っ!そう言うことか!!」
カインは全てを察し、アレンに続き、走り出した。
二人は駆けつけるなり、三人の敵を斬りつけ、瞬殺した。
カインとアレンが三人を瞬殺できたのは、三人のHPがアスカとヘディの戦闘で、すでに半分以下になっていたからだ。
「大丈夫か!?」
カインはそう言いながら、アスカとヘディに駆け寄る。
二人は大丈夫、と言って、カインを落ち着かせた。
「二人とも……ごめん。男女で組むべきだった」
アレンのすまなさそうな発言に、ヘディが答えた。
「そんなことないわよ。誰にだって、ミスはあるんだから」
人の命がかかっているのだから、ミスなんてしたらいけない。
アレンはそう言おうとしたが、口を閉じた。ヘディの優しさに、甘えたのだ。
「それより、アレン。まだ、戦いは終わってないでしょ?」
ヘディがそう言った直後。どこからともなく、拍手が聞こえてきた。
その拍手は最初ゆっくりだったが、徐々に早くなっていき、一定の早さになった。暫くその早さで拍手をした後、とたんに止んだ。
「クク……ははは」
拍手が止んだ後に、すぐに、奇妙な笑い声が聞こえてきた。
声がした方を見てみると、白い防具を身につけたプレイヤーが、俯きながら笑っていた。
「ははは……。いやあ、最高だよ、君たちは。さすが、攻略者と言ったところだね」
そう言いながら、彼は顔を上げた。
彼は鞘から両刃の剣を抜き、アレンたちがいる場所に歩み寄ってくる。
剣の刀身は長く、その長さ、およそ一メートルほど。
その両手剣を両手で握り、ある程度近づくと、足を止めた。
「さあ……どこからでもかかって来なよ。僕を……僕を楽しませてくれぇ!!」
まるで、発狂したかのように言い終わるなり、彼の刀身が、漆黒の何かに包まれる。
その剣を振り上げながら、彼はアレンたちに斬りかかった。
―――
白い防具を身につけたプレイヤーの斬撃を、俺たちは散り散りになることでかわした。
その際、俺は奴を凝視した。そして、やつの名前を確認した。
名前・エディス
それを確認した後、俺たちはすぐに体勢を立て直した。
その後、暫くエディスと俺たち四人は睨み合い、沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは、カインだった。
カインは刀身を炎で包み、斬りかかる。それに対して、エディスも同じように刀身を黒い何かで包み、迎え撃つ。
――ガッギイイィィン!!
凄まじい効果音をたてながら、炎の刀と黒い剣は衝突した。
「て……めえ……。なんでこんなことを……なんで闇ギルドなんてもんに……入ったんだ!?」
カインの問いを聞いたエディスは、カインに刀を突きつけられたときと同じように、凶悪に頬を歪めた。
その時、俺は走り出した。
今なら、こいつを殺せる。そう思った。
「さあて、なんでだろうねぇ!!」
そう言って、エディスはカインの胸を蹴飛ばした。
「うぐっ!?」
カインはよろめき、そのまま尻餅をついた。
エディスは振り返りざまに、俺の斬撃を両手剣で相殺。いや、相殺ではとどまらず、破壊力を上回った。それにより、俺は後方へと飛ばされた。
地面に転び、した高背中を打ち付けた。
「アレン!」
そう言って駆けつけようとしたヘディに、俺は「俺は良いからカインの所へ!」と叫んだ。
ヘディは頷いき、カインの方を見た。
俺も体を起こして、カインの方を見た。
エディスは、とても楽しそうな笑顔で、カインに両手剣を突き立てようとしていた。
「ヒャッハァーー!!」
発狂したかのような笑い声を上げ、両手剣をカインに突き刺そうとした。
突き刺さる寸前、黒い陰が剣とカインの間に割り込む。だが、それに構わず、エディスはそのまま、突き刺した。
その、黒い陰ごと、カインを。
その、黒い、陰は――
「美野里ーー!!宗ーー!!」
アスカとカイン……いや、美野里と宗は。ポリゴンとなって、消滅した。
To Be Continued.




