11.ただいま
開いてくださり、ありがとうございます!
殴られ続けていた慈愛が、突然構え、琥珀を地面に叩きつけた。
そんな慈愛の顔は、とても優しい、穏やかな笑顔だった。
慈愛の勝敗は…
※この作品には、残酷・暴力描写が含まれます。
申し訳なかったな。
慈愛はそんなことを思いながら琥珀の目を見つめていた。
琥珀くんの目は、恐怖に支配されている。
地面に叩きつけて気絶させるつもりだったのだが、失敗して苦しめてしまった。
「ひっ…ゔぇっ…うぅ…」
琥珀くんは嗚咽しながら泣いている。おそらく、どこかの骨が折れたか、捻挫したかだろう。
「ごめんね。今やるからね」
俺は、琥珀くんに微笑んだ。
そして、拳を振り上げ、琥珀くんの顔に思いっきり振り下ろした。
拳が当たるまでの一瞬が、なぜか長く感じた。
骨が折れるような、鈍い音がステージの上に残った。
気絶した。これで苦しめずに殺せる。
「…すぐやるからね」
観客席の後ろの方は完全に静まり返っている。むしろ、前の方が珍しく盛り上がっている。
「おぉ!この男は賢いぞ」
「ぜひうちに欲しい人材だわ…!」
本当にどうかしてる。今から、人を殺すのに。
手の感覚が鈍る。頭がクラクラする。
このままやると、すぐ終わらなくて起きてしまうかもしれない。
「はぁ…」
俺は一息つくと、透明な箱に目をやった。
真夜と桃華、鞠がいる。
あぁ、少し、心強いな。
「真夜」
俺の声は、真夜たちには届いていない。
届いてないはずなのに。
真夜は、まるで聞こえていたかのように俺の目をじっと見て、逸らさない。
“俺らはお前が生きて帰ってくることだけを考えてる”
真夜のこの言葉が、脳裏をよぎる。
そうだよね。
俺は、真夜に向かって微笑んだ。そして、琥珀くんの顎を狙って、一気に拳を打ちつけた。
琥珀くんの体が揺れ、次の瞬間、脳震盪が起こり始めた。
意識がないため、苦しんではないだろう。
制限時間まで残り15分を切った。
琥珀くんの脳震盪が、止まった。
顔は綺麗なままだ。頭から少し血が出ている程度。
怖がっていた時の顔よりも、安らかで、まるで眠っているような顔だった。
「第二試合終了!B施設琥珀死亡。A施設、慈愛の勝利ぃぃい!!!!」
司会者の声とともに、観客の声も、慈愛の耳に届いた。
「えやばい…慈愛推しになりそうw」
「やっぱうちの推し最強だわ!」
「あの男…ぜひうちに欲しい…!」
批判的な声はほとんどなく、慈愛を肯定する声が大半を占めていた。
そうだよね。
ここは、そういう世界だもんね。
「慈愛っ!!」
慈愛は、試合が終わってからたったの数分で、透明な箱に帰ってきた。
怪我の応急処置を済ませて戻ってきたのだ。
真夜は慈愛に駆け寄ることなく、ただただ慈愛の顔を見ていた。
「よかった…ほんと、なんで殴らなかったのよ…」
桃華が慈愛に泣きついた。鞠も、泣きながらフラフラと慈愛の元に歩いて行った。
「ごめんごめん。でも、帰ってきたよ」
慈愛は笑顔で桃華と鞠を抱きしめた。
俺はそんな3人を見て、心底ほっとした。
これで終わりじゃないのに。
慈愛は、2人を慰めながら俺を見た。
「ただいま」
慈愛が、俺にそう言った。笑顔で。
その顔に、恐怖や罪悪感は一切なく、やり切ったというような顔をしていた。
「おかえり」
俺は慈愛の目を見て、そう言った。
読んでくださり、ありがとうございました!
慈愛の勝敗がわかりましたね。
そして、慈愛の中での覚悟と優しさも。
この世界では、人を殺すことで生き残り、その事実が娯楽として消費される。
慈愛は賢い。
慈愛は、自分がどうすべきかわかっていたと思います。
でも、迷いがなかったわけではなかった。
そんな迷いを消してくれたのは、真夜、そして施設の子たちの存在だった。
この子たちがいたから、慈愛は生きて帰ってこれたのでしょう。
次話もお楽しみに!!
コメントや評価も気軽にしていただけると嬉しいです!




