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これってなんの声?

『うわぁ! 小さくて可愛い。こんなに可愛いレディがおれの妻だって?』


 そのとき、ささやかれた。


 というりか、頭と心に直接しみ込んできた。


 ここに来るまでの馬車のときと同じように。


 驚いた。驚きのあまり、顔をおもいっきり上げてしまった。


(うわぁ……)


 彼は、眼前にいる。


 彼、つまり国王は、大きい。とにかく大きい。小柄なわたしとくらべたら、縦にも横にも大人と子どもほど差がある。


 ごつい顔は髭に覆われていて、体は筋肉隆々なのが将校服の上からでもよくわかる。


 彼とイヤというほど視線が合った。


 ごつい顔のわりには小さい目。そのつぶらな瞳は、ルビーと同じ色をしている。髭で表情はわからない。だけど、なんとなくお茶目な感じがする。


(ごつ可愛い……)


 それが生贄として自身を差し出した相手ヴィクター・ホワイトウェイに対するわたしの第一印象だった。


「陛下っ!」

「陛下っ!」


 ある意味感動していると、パーシーとチャーリーが怒鳴った。


「いまのはあまりにもひどすぎます。レディに対して失礼すぎます」

「そうですよ。こんなにもか弱く……、美しいレディなのに、そんな言い方ありますか?」


 パーシーはともかく、チャーリー、いまあなた、美しいという前に躊躇しなかった?


 チャーリーの「か弱く」と「美しい」との間が気になった。


『う……ん。彼女、美しいのとはなんか違うよな。可愛いって方がまだしっくりくるかな? だけど、レディは美しいって言った方が機嫌がいいからな。いまのはあれでよかったよな』


 チャーリーの言い方にひっかかっていたとき、またしても頭と心に直接しみ込んできた。


(ちょっと待って? いまの、たしかにきこえたわ。というか感じたわ。声、じゃないわよね? チャーリーの本音? そうよね。声に出しているんじゃない。わたしにしかきこえなかったのよね。というか、感じられなかったわよね。少なくとも、あとの二人はわからなかったはず。ということは、彼の本音、心の声が、ほんとうの気持ちがわかるわけ?)


 ますます混乱する。そのとき、脳裏にある光景が浮かび、すぐに消えた。


 それは、つい最近の出来事。


 宮殿の大階段でひっぱり落とされた、その瞬間の光景である。


 あっという間のことだった。


 義姉の手が伸びてきてわたしをかみ、グイとひっぱられた。階段から落ちたのだ。


 それこそ、宙を舞ったといっていいほどのダイブだった。


 そういえば、馬車内で目覚めたときは体中が痛かった。だけど、いまはその痛みがない。


 打ち身ってそんなにはやく癒えるものなの? まだ若いから、あっという間に癒えるのかしら?


(いいえ、そんなことはないわよね)


 以前、義姉にわざと転がされた。足をひっかけられたのである。アンダーソン公爵家のエントランスの階段上からで、十段ほどの階段から地面に叩きつけられた。


(あのとき、痣だらけになったわよね。たしか、痛みが完全になくなるまでそこそこかかったような気がする。少なくとも数日の内にではなかった。それをいうなら、本をぶつけられたり、突き飛ばされたりもあったっけ? 義母にもいろいろされたわね。その度に痣や打ち身で体のいろいろなところがいろいろな色に変色したわ。そのほとんどが、完治するまでかなりかかった。ということは、急に回復力がよくなったということ? というか、治癒力よりも本音がわかるのはどう理解すればいいの?)


 自分に問いながら、ある可能性を思いついた。


(もしかして、力? アンダーソン公爵家に古から伝わる怪しげな力なの? わたし、それに目覚めたわけ?)


 たとえば、大階段から落ちたショックでとか?


(まるで書物に出てくるような偶然。というか、筋書きよね)


 アンダーソン公爵家に伝わる怪しげな力、もとい能力は、その人によって違うらしい。


(わたしは、「真実の声」をきく力を得たのかしら?)


 そうとしか考えようがない。



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