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いざ、勝負

 ありがたいことに、兵士たちのほとんどが国境に出撃している。残っているのは、この駐屯地の守備を命じられたいくつかの小隊や輜重隊の兵士たちである。彼らは、当然のことながらわたしたちの勝負を呑気に観戦するわけはない。


 つまり、わたしたちの勝負を観戦者はいない。


 観戦する人がいないというだけで、ずいぶんと気がラクになった。


「つまらないわね」

「ええ。やはり、いっぱいの人たちに応援してもらった方がヤル気が出るわよね」


 双子の姉妹たちは、静寂満ちる稽古場内を見渡して溜息をついている。


「よかったじゃない? ど素人のサエに負けて赤っ恥をかくところを見られずにすんだのだから」


 キャロルは、その二人に嫌味をぶつけた。


(っていうか、どうして煽るのよ。お願いだから煽らないでちょうだい)


 仰天した。わざわざ彼女たちを怒らせるようなことを言うだなんて、どうかしている。


「さっさと終わらせましょう。夜更かしはお肌に悪いから」


 キャロルは、赤みのさす頬を指でなぞりながら言った。


 キャロルと一緒の部屋で寝起きしていて、彼女が一度たりともお肌のお手入れをしているところを見たことがない。眠る前にスイーツを頬張るのは、毎夜見ているけれど。


 とはいえ、それはわたしも同様だけれども。




 そんなことはどうでもいい。いよいろ、試合場のひとつで双子の姉妹と対峙した。


 彼女たちは、いつものように大剣を手に握っている。対するわたしたちは、キャロルが大剣でわたしが細身の剣レイピア。しかし、わたしたちはそれぞれの剣をまだにいておらず、左腰の鞘に納めたままである。


「よろしくお願いします」


 一応、一礼した。


 神聖な儀式であるかのように。


「キャッ!」


 頭を上げた瞬間、彼女たちがすぐ前まで迫っていた。どちらもすでに大剣を振り上げている。


 叫び声とともに、うしろへ飛び退った。


 空を切った大剣が、 いままでわたしが立っていた位置の床にぶち当たった。


(わぁ、危なかった)


 不意打ちね。ほんと、危なかった。


「ちょっと、よけないでよ」

「そうよ。よけたら当たらないでしょう」


 同時にクレームをつけられた。


「す、すみません」


 謝っておいた。


「いくわよ」

「いくわよ」


 彼女たちは、ド素人で弱いわたししか眼中にないらしい。


 大剣を振り上げると、同時に襲いかかってきた。


「キャーッ」


 その攻撃を右に左に飛んだり跳ねたり屈んだり伸びたりしつつ、必死にかわしていく。


「キャアアアッ!」


 さらにかわす。


「キャァァァッ!」


 さらにさらにかわす。


 二本の大剣をかわしながら驚いた。


 なんと、大剣の動きが、というよりか彼女たちの動きが見えるのである。ついでに読むことも出来る。


 彼女たちは、キャロルの動きや剣捌きにくらべれば全然遅い。遅すぎてスローモーションに見える。


「キャアアッ」


 いちいち悲鳴を上げつつ、大げさな動きでかわし続ける。


 いまの時点で、レイピアは腰の鞘からまだ抜いていない。


 とにかく、かわし続けた。かわしてかわしてかわし続けた。試合場のスペースをフルに利用した。はやい話が、試合場内をあっちこっち動きまわりつつ彼女たちの大剣をかわし続けた。


 それをしばらく続けていると、彼女たちの動きが突然止まった。


 二人とも、肩で息をしている。静かな試合場内に、彼女たちの荒い息だけが響き渡っている。


「この卑怯者っ! 逃げてばかりじゃない」

「そうよ。逃げてばかりいないで腰のそのやわな剣を使いなさいよ」


 彼女たちにまたクレームをつけられた。


 視線をそうとわからぬ程度にキャロルへ走らせる。


 彼女は、ずっと悠然と立ったままでいる。腰の大剣を抜かず、試合場の中央でただ立っている。


 まるで勝負の審判を行う者であるかのように。


 そのキャロルが、大きく自信満々に頷いた。


 そこではじめて、腰からレイピアを抜いた。


 その瞬間、右側のビアトリスが間を詰めるとともに振りかざした大剣を振り下ろしてきた。


「カチン」


 金属と金属の当たる甲高い音が耳を襲い、火花が散ったのが見えた。


「キャアアアアッ」


 悲鳴とともに、剣が弾き飛ばされた。なんと、剣はそれを握る者といっしょに飛んでいってしまった。


 それは、わたしではない。ビアトリスである。


 彼女がふっ飛んでいくのを見届けるまでもなく、すでにアイリーンが迫っている。彼女は、大剣の切っ先をわたしの心臓のある辺りにめがけて突き出してきた。


「キンッ」


 またしても金属同士のあたる嫌な音が耳をつんざいた。


「キャアッ!」


 そのときには、アイリーンがふっ飛んでいた。


 そして、彼女たちは時間差で稽古場の板張りの床に背中から落ちた。


 どちらもピクリとも動かない。


「勝者サエッ!」


 キャロルの勝利宣言を耳にしてもなお、現実を認められないでいた。


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