剣の勝負に備える
キャロルとわたしとでは体型も違うし、持って生まれた気質というか体質というか、とにかく基本的ななにかが違っている。
それでもヴィクターと彼女に迷惑をかけない為、恥をかかさない為に自分なりに必死だった。
キャロルがわたしの為にと準備してくれた剣は、レイピアという細身の剣である。
ヴィクターや彼女は大剣を扱うらしい。が、わたしの体型ではとてもではないけれど扱えるわけがない。振り上げ振り下ろすだけでもふらつくし、それを連続でし続けようものなら剣に振り回されることになる。
細身の剣ならわたしでも扱える。
キャロルは、そう判断したのである。
たしかに、これならどうにか扱えそう。
レイピアを握りしめ、いっぱしのレディ剣士ぶって振り回してみた。なんとかさまになっている。と、自分では思う。
「こんな細身の剣でも殺傷力はあるの。だけど、それは腕がいい場合ね。正直、ド素人のあなたでは殺傷力はない。せいぜい相手の薄皮一枚を傷つけるくらいかしら。それでも、相手を怯ませることは出来るかもしれない」
彼女の説明にほんの少しだけホッとした。
いくら勝負だといっても、相手を傷つけたくない。ましてや致命傷を負わせることなんて考えられない。
もっとも、わたしがどうあがいても技術的に相手に傷を負わせることなんて出来ないけれど。だから、わたしの懸念は杞憂にすぎない。
それでも精神的にラクになった。
もしかしたら、奇蹟や偶然や事故的要素で剣先が相手にあたってしまうかもしれない。そうなれば、相手を傷つけてしまうでしょうから。
いえ。やはり、そういうことも杞憂にすぎないに違いない。
とにかく、自分はだれも傷つけたくない。肉体的にも精神的にも。
ということは、やはりこの勝負には勝たなければならない。
そうでないと、ヴィクターとキャロルを傷つけてしまうから。
いずれにせよ、わたしに選択肢はない。それに、肉体的に傷つけられることはあっても傷つけることはない。だったら、あとは全力で挑むしかない。
これまで以上に燃えた。こんなに必死になったことなんて、人生の中でなかった。
なにせ祖国では、元夫のことも含めて諦観しまくっていたから。なにもなく、なにかを得ようともしなかったから。
それこそ、寝食を忘れるほどがんばった。
訂正。大げさだった。
ちゃんと食べた。これまで以上の食欲っぷりに、料理長のシドニーがおもいっきりひいたほど食べた。そして、自室に戻ると、キャロルが話しかけてきてそれをきいている間に眠ってしまっていた。キャロルがいうには、白めを剥きそうな勢いで寝台の上に倒れ、倒れた瞬間にはやすらかな寝息を立てているらしい。
そこは、彼女が話を盛っているに違いない。だぶん、だけど。なにせ自室に戻ってからの記憶がまったくなく、彼女に叩き起こされたら朝という毎日をすごしている。
お酒を飲みすぎたら記憶をなくすことがあるとはきいたことがあるけれど、それに近い状態なのかもしれない。
それはともかく、わたしは自分なりにがんばっている。当然、それは勝負相手の双子の公爵令嬢たちも同じことで、彼女たちは彼女たちの方法で勝負に備えている。




