国王も仰天する
「きまりね。約束、ちゃんと守ってもらうから」
「王女殿下こそ、守っていただきますよ」
「王女殿下こそ、守っていただきますよ」
双子の姉妹たちは、ヤル気満々である。二人とも、美しい顔に気合いをみなぎらせている。
「では、つぎの満月の夜ね。それまでにサエに剣を握らせる特訓をしないといけないから、失礼するわ」
「キャ、キャロル様っ、ちょ、ちょっと待って下さい」
そして、わたしの制止の叫びも虚しく、また彼女に腕をひっぱられて客間をあとにした。
こうして、わたしはまたあらたな試練を与えられたのである。
つぎこそは、完全に終わってしまうかもしれない。
あらゆる意味においての終わりを迎えてしまうかも。いいえ。ぜったいに終わる。
キャロルの無茶苦茶な、というよりかは無謀きわまりない勝負に驚いたのはヴィクターも同様である。
彼はだれかからきいたのか、わたしの部屋に飛んで来た。
ちょうど就寝する前で、キャロルのきれいな金髪を梳かしているタイミングだった。
じつは、キャロルはわたしの部屋で寝泊まりしている。
客間を準備しているのに、頑なにわたしといっしょの部屋でいいと言い張った。仕方がいない。軍の官舎で使っているのと同じ質素だけど機能重視の寝台を運び込み、彼女は簡易寝台で眠っている。
彼女は、わたしが「王女殿下にそんなことをさせられないから、わたしが簡易寝台で眠ります」というのを、笑って拒否したのだ。
『現役時代には、土の上に横になるなんてこと当たり前だったのよ。寝台なんて贅沢すぎるくらいよ』
彼女は、そう言った。
(ヴィクターもそうなのかしら?)
彼もきっと、彼女みたいにこだわりがないのに違いない。
キャロルに特訓してもらうかわりに、彼女の身の回りの世話をするつもりだった。しかし、彼女は自分のことは自分でやってしまう。これもまた、現役時代の名残らしい。
将校や将軍といえど、自分のことは自分でやる。もちろん、世話をする兵士はいるけれど、身の回りのことは自分でやってしまうという。
だから、彼女はわたしなんかよりずっと早く身支度を整えてしまう。
彼女の手助けをするのは、彼女の長くてきれいな金髪を梳いたり結い上げたりするときだけである。
彼女の長くてきれいな金髪を結いながら、自分の短くて真っ黒い髪がいやになってくるときがある。
それはともかく、ヴィクターがやって来たのは、夜着に着替えて彼女の長くてきれいな髪を梳いているときだった。
「姉上、どういうつもりだ?」
彼は、わたしが自分の部屋の扉を開けるとシャツにズボンというラフな恰好で立っていた。彼は、わたしには目もくれず、というよりかいつものように睨み下ろすことさえせず、わたしの寝台の上で胡坐をかいているキャロルに怒鳴った。
「どういうつもり? ああ、勝負のこと?」
「なにゆえ客人を危険な目に合わせようとする?」
ヴィクターが頭上で怒鳴るから、耳が痛くて仕方がない。
「きまっているでしょう? その客人の願いをかなえる為よ。ヴィクター、部屋に入ったら? 少し見ない間に、あなたってずいぶんと積極的になったのね。こんな時間にレディの部屋におしかけてくるなんて……。まるで書物に出てくるスケベな王様よ」
「な、な、な、なんだって? ち、違う。違うぞ。おれはただ、ついいましがた勝負の話をきいてどういうことか問い質したくなっただけだ。やましいことはなにもない」
「ふう……ん。そうなの」
キャロルは、ヴィクターの反論などどこ吹く風である。彼女は、わたしの寝台の上で胡坐をかいて笑っている。
「あの、ヴィクター様。どうぞ、お入り下さい」
体ごと脇へ移動し、彼が入室出来るようにした。
「入らぬ。ここでいい」
が、彼はあいかわらずわたしに対して不機嫌プラス不愛想を演じている。




