その提案、ちょっと待って
よりいっそう特訓が激しくなった。
心も体も限界を超えている。限界を超えたら、きつさやつらさや苦しさがなくなった。それらがなくなると、なにか一線を越えてしまったような恍惚とした気持ちになる。そして、なにがあっても負けない気がしなくなった。
無敵になった気がしている。
いまのわたしは、まさしく無敵である。
基礎体力は備わった。基礎体力どころか、ありあまるエネルギーに満ちている。気は充実し、血はたぎっている。
そんな状態で臨んだのが、剣の練習である。
剣は、一度も握ったことがない。凶器になりそうも物といえば、料理用のナイフや大工仕事に使うハサミや鉈、花や作物を育てる為のピッチフォークやシャベルを使用したことがある程度である。
そんなわたしが剣の練習をすることになった。
以前のわたしからすると、とうてい考えられないことである。想像さえ出来なかったことである。
しかし、どうしても剣を握らざるを得なくなってしまった。
なぜなら、勝負をすることになったから。
ビアトリスとアイリーンのレッドグレイブ公爵家の双子の姉妹と、剣で勝負するのである。
最悪最恐の試練。
それを与えたのは、想像や推測をするまでもなくキャロルである。いうまでもなく、彼女がこの勝負の発案者というわけ。
パーシーとビアトリス、チャーリーとアイリーンをくっつける為である。
それをどうしてわたしが剣の勝負をすることになるのかって?
そんなことは、わたしが一番尋ねたい。
「あなたたち、サエと剣で勝負なさい。ビアトリスとアイリーンは、いうまでもなく剣はお手の物でしょうから。当然、ど素人のサエに負けるわけないわよね? もしもあなたたちが勝ったら、彼女は尻尾を丸めてウォーターズ帝国に帰る。そして、すぐにでもあなたたちのどちらかが正妃になって婚儀を行うの。もちろん、どちらかは側妃になる。そのかわり、あなたたちが負けたら正妃と側妃のことはすっぱりさっぱりすっきり諦めてもらう。それから、サエの言うことをきいてもらう。たとえどのようなことであってもね。そのことは、レッドグレイブ公爵家の家門にかけて実行に移してもらうから。ただ、サエは剣についてはド素人どころか握ったことさえないのに加え、二対一になるわよね? だから、わたしが彼女をサポートするから。あなたたちもサエだけでなく、このわたしを剣で負かしたということになれば、だれにでも自慢出来るでしょう? だって、名実ともにこのオーディントン国で一番のレディ剣士になるのだから」
つい先夜、キャロルは双子の姉妹が使っている客間におしかけるとにこやかに提案した。訂正。一方的に告げた。
わたしは、彼女に腕をひっぱられてわけがわからず同道させられた。
「はい? いえ、ふつうにムリだと思います。なす術もなく殺されるだけですし、そうなるとヴィクター様にご迷惑をおかけすることになります」
彼女の一方的な案に即反応したのは、告げられた双子の姉妹たちではなくわたしだった。
そんなこと、きいていなかった。そんな無茶苦茶な案、仰天したにきまっている。
「サエ、大丈夫よ。わたしもいるし」
「キャロル様の剣の腕を疑っているわけではありません。わたしなのです。足を引っ張るどころの騒ぎではありません。どうかおやめ下さい。わたしがどうかなるのはかまいません。ですが、キャロル様とヴィクター様の名声を穢すようなことになったら大変なことになります。ヴィクター様にいたっては、人生を左右することになります。ですので、そのような絶望的しかない賭けには応じられません」
「その勝負、受けて立ちます」
「その勝負、受けて立ちます」
「はぁぁぁぁぁ? ビアトリス様、アイリーン様。こんな無茶苦茶な勝負を受けるだなどと、ぜったいにやめて下さい」
せっかくやめるようキャロルを説得しているというのに、双子の姉妹は勝手に了承してしまった。




