食べっぷりのよさ
「はい」
反射的に返事をしてから慌ててしまった。
男性用の夜着を着用したままであることを思い出したのである。
「レディ、パーシーとチャーリーです。お目覚めになられたようですね。よろしければ、昼食を運ばせますが」
扉の向こうから、パーシーの声がきこえてきた。
(やはり昼をすぎていたのね)
夢を見ることなく長時間眠っていたのだ。それだけ眠ったら、心も体も頭もスッキリするはずである。
「はい。すっかり眠ってしまっていました。食事は、運んでいただかなくてもわたしが食べに行きます」
「じつは、もうお持ちしているのです」
つぎは、笑いを含んだチャーリーの声がきこえてきた。
「では、少しだけ待っていただけますか?」
「もちろん。ごゆっくり」
それから、笑いを含んだパーシーの声。
二人は、わたしがまだ起きたばかりであることを知っているのだ。
急いで着替え、顔を洗って体裁を整えた。
昼食はサンドイッチと揚げジャガイモだった。サンドイッチは、タマゴ、ハム、葉物野菜。揚げジャガイモは、揚げたてだった。それだけではない。食後のデザートにアップルパイ。飲み物は、冷たいアールグレイ。
ローテーブルの上に置かれた昼食は、さほどときを置かずしてすべて消えた。
わたしのこの小さな体の中に。
「あー、美味しかった」
パーシーとチャーリーが向かいの長椅子に座っていることを忘れ、大きな溜息をついてしまった。もちろん、それは満足しすぎた意味の溜息である。
そこで彼らの存在を思い出し、恥ずかしくなった。
「気持ちのいい食いっぷりですね」
パーシーが感心してくれた。
「料理長が『レディだから、量が多すぎるのではないか』と心配していましたが、まったく問題ありませんでしたね。いまの量は、兵士と同じなのです。兵士並みの食いっぷりです。料理長も満足するでしょう」
そして、チャーリーも感心してくれた。
いままで褒められたことなんてなかったから、素直にうれしい。
「美味しいのです。残すなどという選択肢は、わたしにはありません」
全力の笑顔になっていた。
得意のヘラヘラ笑い、ではない。あれは、元夫の命令通り演技をしていたにすぎない。
いまのは、心からの笑顔である。
だって、ほんとうに美味しかったから。なにより、心がこもっている。
祖国の皇宮での食事は、じつに味気なかった。
料理人は、たしかに一流だった。だけど、本来の力は発揮出来ていなかった。いいえ。発揮していなかった。
元夫、というよりかは皇帝が喜びそうな見栄えのする料理とはかけ離れたものさえ作って提供すればいい。
そこには、愛情も思いやりもやさしさも存在しない。
そう。まさしく元夫のわたしに対する態度と同じように。
「ほんとうに美味しかったです。あとで直接お礼を言わないと。こんなに美味しい料理、兵士のみなさんだったら訓練などで食べた分は消費されるでしょうけれど、わたしは蓄積されて太るだけでしょうね」
「レディ、あなたはもっと太った方がいいのではないでしょうか?」
「そうですよ。縦にも横にも大きくなった方がいいかもしれませんね」
「二人ともそんなことを言って、わたしを誘惑しないで下さい。それに、チャーリー。縦には大きくならないと思いますよ」
苦笑するしかない。チャーリーの言う通り、もしも縦に、つまり背が高くなるのだったら、いくらでも食べるのに。
「レディ。よろしければ、いまから近くの町に必要な物を買いに行きませんか?」
「えっ?」
「その、あなたの衣服。いま着用しているのだけでは不便でしょう? まさか軍服を着用していただくわけにはいきませんし」
「とはいえ、田舎町ですので満足のいく衣服があるわけではないですが」
パーシーとチャーリーの申し出がありがたすぎる。




