えっ、みんな知っているの?
パーシーとチャーリーが案内してくれたのは、執務室よりずっと奥にある部屋だった。
そこにいたるまでに、この居住区域にある様々な部屋を案内してくれた。
食堂、厨房、居間、他の執務室、娯楽室、図書室まで。それから、ヴィクターとパーシーとチャーリーの部屋も。
途中、すれ違う兵士は親衛隊の隊員たちで、彼らは主に国王であるヴィクターを護衛しているという。
親衛隊の控室で隊長のロビン・ワディンガムや数名の隊員を紹介してもらった。ロビンは、茶髪に茶色の瞳、筋肉たくましいいかにも軍人といった四十代後半で、とても気さくな人である。
厨房では、料理長のシドニー・サージェントと数名の料理人を紹介してもらった。シドニーは恰幅のいいいかにも料理人というおじさんで、金髪碧眼の美貌のおじさんである。
料理長たちは、兵士たちの宿舎棟にある厨房で日々大量の料理を作っていて、この厨房では主に料理長みずから腕をふるっているらしい。
厨房では、親衛隊の隊員たちと一緒にサンドイッチを振る舞ってもらった。
とにかく、みんなやさしくてあかるくておもしろい人たちなので安心した。
わたしが使っていいという部屋にたどり着いたときには、心身ともにへとへとになっていた。
部屋は、とにかくシンプルかつ殺風景。
それもそのはず。使われていなかったのだから。
だけど、汚いとか埃っぽいことはない。
使われていない部屋でもちゃんと管理や清掃がされている。
けっして狭くはなく、かといって持て余すほど広すぎるわけではない。
ちょうどいい大きさの部屋には、天蓋付きの大きな寝台、机と椅子、チェスト、ローテーブルと長椅子、本棚がうまい具合に配置されている。クローゼットもあり、その中は当然空っぽ。洗面室とトイレ、浴槽までついている。
(ということは、ヴィクターの意志いかんにかかわらず、とりあえずは今夜は泊めてくれるつもりだったのかしら?)
パーシーとチャーリーの金髪碧眼の美貌を思い浮かべた。
(彼らは、よほど国王というよりかは将軍であるヴィクターのことが大好きなのね。尊敬しているのに違いないわ)
二人がヴィクターを叱ったりいじったりしていたのを思い出し、自然と笑みがこぼれた。
(それにしても、宮殿の大階段から落ちたショックで力の目覚めるなんて……)
窓に近づくと、それを開けた。
いくつかの篝火の光の中、庭が浮かびあがっている。
「というか、力の話ってほんとうだったのね。てっきり伝説とか言い伝えとか作り話的に考えていたわ」
声に出していた。
しかも、相手のほんとうの気持ち、というのかしら、声というのかしら、とにかくそんなものが流れ込んでくる力だなんて。
「こういう力って役に立つのかしら?」
ふと考えてしまう。
「でもまぁ、そのお蔭でここにしばらくはいられることになったから、そこはよしとしましょう」
両腕を天井におもいっきり突き上げ伸びをする。
欠伸が止まらない。
「あー、そうか。わたしだけ祖国から運ばれてきたからなにも持っていないのよね」
というか、わたし自身が荷物みたいなものだったわけよね。
「ということは、このまま眠るしかないわよね」
姿見の前に移動し、自分を見た。
短めの黒髪、黒い瞳、けっして美しくも可愛くもないどこにでもあるような顔、小さい体。
ヴィクターが心の中で絶賛してくれていたけれど、彼はもしかして目が悪いのかもしれない。あるいは、感覚が他の人とズレているのか。
「そうよね。軍はほとんどが男性でしょうし、レディならどんなレディでもまともに見えるのかもしれないわね」
そう結論付けることにした。




