ここに置いてやってもいいがな
「陛下のおっしゃる通り、わたしは傷物です。ですから、けっして陛下に迷惑をかけるようなことはしません。置いていただけるのでしたら、ここでひっそり働くようにします」
男性に媚びるような器用なことは出来ない。誠心誠意お願いするくらいしか出来そうにない。
だからそうした。頭を下げ、切々と訴えた。
「ほう。おれに泣き言を連ね、同情してもらおうというのか? レディ、そうとう厚顔なようだな」
国王は、即座に反応した。言葉に嘲笑を添えて。
『うわぁぁぁぁぁぁぁっ! 気の毒すぎて見ておれん。これだけ可愛くてはかないレディをここまで追いつめた奴は、もう生かしてはおけん。いますぐこの駐屯地を進発し、ウォーターズ帝国の帝都まで攻め上って奴の首をおれの愛剣で刎ね飛ばしたい。というか、まず彼女を抱きしめて慰めたい。心の傷を癒してやりたい』
またまた心に流れ込んできた。
彼の強面から発せられる言葉と心の中が違いすぎて可笑しくなってくる。
「陛下っ!」
「陛下っ!」
パーシーとチャーリーが同時に叫んだ。
「いい加減にして下さい。そもそも、陛下が非情なことを言うからです。あなたが一言、『むさ苦しいところだがのんびりすごすといい』と言えばいいだけのことでしょう?」
「チャーリーの言う通りです。あるいは、『ここにいれば安心だ。いままでのことは忘れ、おれの側で暮らすといい』。そんな感じでもいいのです』」
「バ、バカな。そのような虫唾が走るような台詞、言えるわけがないだろう? おれは、オーディントン国の国王であり大陸最強といわれるオーディントン国軍の将軍でもあるんだぞ」
ルビー色の瞳がこちらに戻ってきた。
国王は、少しだけ誇らし気に胸を張っている。
彼は、国王であることより将軍であることにより誇りを持っているのかもしれない。
そんな彼が一瞬だけうらやましくなった。
わたしには誇れるものがひとつもないから。
『そんな薄っぺらい台詞でおれの気持ちが表現出来るものか? おれの一目惚れの大切な台詞だぞ? 『おれの側にいて、おれだけを見て下さい』?。それとも、『ウォーターズ帝国の愚かな皇帝と違い、おれはきみを大切にする。心から愛し、この世のだれよりもしあわせにする』? ああ、ダメだ。それでなくとも、おれはおっさんだし野獣だ。こんなおれにそんなことを告げられても、気色悪がられるにきまっている。めちゃくちゃひかれるに違いない』
またまたまた心に流れ込んできた。
(って、なんですって? 一目惚れ? このわたしに? 信じられないわ)
めちゃくちゃ驚いた。信じられなかった。
突如目覚めたわたしの力だけど、間違いはないはず。
「だが、まぁそうだな。傷物とはいえ、不運な環境にいた彼女を追い出したとあっては、国王、将軍、どちらの地位にあっても非難されるかもしれぬ。仕方がない」
彼はわざとらしく大きな溜息をつくと、あらためてわたしと目と目を合わせた。
「レディ、置いてやる。だが、きみにここをウロウロされては迷惑だ。それに、きみがウォーターズ帝国の諜報員や工作員だという可能性もある。だから、この居住区域から出るな。けっしてわが兵士たちの目に触れてはならん。言っておくが、下手な動きはするな。なにかあれば、すぐにここから放り出す。いいな?」
重々しい口調で警告された。
(よかった。とりあえず、いますぐ路頭に迷うことはないわね)
心の底からホッとした。




