【Side】マクギリウス 3。
時間はかかったけれどアリーシアの悲しみも消え、笑顔が少しづつ戻ってくるようになった。
俺のことも、ちゃんと俺として見てくれるようになった頃。
ラインハルトがアリーシアの手がけた2ブランド、マギアアリアとエリカティーナを手放す予定だと、セバスによって知らされた。
彼は以前から、アリーシアに戻ってきて欲しいと俺に接触してきてた。
まあそこはずっと素気無く断っていたのだったけれど、今回はなんと彼自身もラインハルトに苦言を呈しクビになったのだという。
そして、自身の保身の為ではなく、売りに出される2ブランドを救ってほしい、そう言ってきたのだった。
ブラウド商会はもうダメかもしれない。
しかしアリーシアが愛したこの2ブランドだけでも、と。
正直なところ、もう既に市場は王家が手を出す必要もないほどに成長していた。
アリーシアがいかんなく発揮した才能は、他の商人たちの模範となり、そのやりかたを真似することによって成熟度を増していたから。
マーカス叔父が個人的に思っているブラウドへの恩義も、その孫が手痛く裏切ってくれたおかげでかなり相殺されたようだった。
叔父もこれ以上の援助を彼に与える気はなさそうだったから。
あのラインハルトでは遅かれ早かれ商会を切り売りしていくかもしれない。なら。
今ならブラウド商会を潰してしまってもかまわないか。
逆に、アリーシアに新しい商会を与え、最終的にブラウド商会を吸収してしまっても。
それでも良いかもしれない。そう思ったのだ。
♢ ♢ ♢
アリーシアは生き生きしている。
十歳からほぼ止まっていた人としての情緒をやっと取り戻し、やり直している。
俺はもう、諦めたくはなかった。
アリーシアを手に入れる為だったらなんでもする。
兄王と交渉しアリーシアとの婚姻の許しを乞うて。
そしてその見返りとしてここのところ兄に押し付けていた王国の影の長としての仕事をひきうけた。
魔國大黄粉。
そんな危険な薬物が王国内に入り込んでいるという。
その出所を突き止め、それを広めている者たちを殲滅する。
まあ、騎士団に手柄をまわし次期国王候補のガイウス兄の株をあげておくのもいいか。
そんなふうにも思いつつ、捜査を開始したのだった。
♢ ♢ ♢
「セバス。何故最初に大黄粉の事を言わなかった」
「申し訳ございませんマクギリウスさま。悪いことだとお諌めし結果お払い箱になりましたが、私にはラインハルト様を告発する真似はできませんでした……」
うなだれそう言葉を絞り出すように紡ぐ目の前のセバス。
捜査を進めて行くうちに、大黄粉の製造にブラウド商会が関与しているのではという疑惑が浮上し。
セバスを問い詰めた。
だがしかし。どうしたものか。アリーシアにだってこんなこと知らせるわけにもいかない。
どうしたら……。




