好き
暗くてわかりにくいが、ここは部屋の中なのだ。窓はないがドアはある。
ここはごく自然にこの部屋から出よう――少年はドアを開けた。
* * *
タツキは、理不尽なような気まずい思いを感じていた。
カマボコも桃ジュースもご馳走になってすっかり機嫌が直ったと思ったメノウはしくしく泣いていた。
それがどうも自分のせいらしい。
別の事を考えよう。
「好きな人か」
思わず、そんな事をつぶやいていた。
そういえば、ヤイノがスティナを好きだと言っていた。
あんな猫やら犬やら従えてる訳の分からない女の子のどこがいいんだろう?
――好きな人……
そう思うと、シムが頭に思い浮かぶ。
――シムに会いたかったなー。
少し前に天空岩に来てたのに、シムはタツキに会おうともせず帰ってしまった。
そう思うと泣きそうになった。
シムのことを思うと、すぐ近くにいるような気がした。
――俺、よっぽどシムに会いたいんだ。かなり重症だ。
少し前にもこんな感覚があった。
シムがいるような気がして、気配の方を見るとファニィだった。
きっと、今回も研究所のファニィだろう。
そう思いはしたが、やはりに気になってしまう。
「少し、席を外すよ」
と、いかにもメノウを気遣うかのような言葉を残し、退室する。
*
部屋から出ると、廊下へ。
廊下の階段を下りると、ホールにつく。
そこにファニィがいた。
――やっぱり、シムの気配に思えたのはファニィだったか。
落胆しかけたタツキだが、ここじゃない方向からシムの気配を感じる。
シムの気配は下の方から。
ここは一階なわけで、地下からということになる。
タツキは下へ続く階段を見つけ、降りて行く。
シムの気配は強くなる。
期待の気持ちと、もう一つ別な感情も生まれる。
タツキは知識としては地下というものは知っていたが、行ったことはなかった。
階段を下がるにつれ、緊張が増した。
これは、シムに会えるかもしれない、という期待も混ざり、まさにドキドキが止まらない状態になっていた。




