花の名前
魔法が強いアッゼなら、クロンカイトに何か危機があれば気づく。
今、クロンカイトに危機らしいことは何も起きていない。
ということは、アッゼの方に何かあったか。
意外にも現れたのはアッゼではなかった。
慌てた様子の少年が走って来た。
「何してるの?」
「あー、驚かせてすまない」
クロンカイトはこんな弁明をする。
「ここに魔導エレベータの残骸があったから爆破したんだ」
という説明で通じるだろうか。
「ちょっと火薬の量、多かったかも。なんせ久々の爆破でワクワクしちゃったもんで……」
クロンカイトはそこで口をつぐむ。
少年はしげしげとクロンカイトを見ていた。
防護服のクロンカイトは怪しく見えたか。
クロンカイトは酸素濃度計を確認する。
標準値であったので、ヘルメットを脱いだ。
「ご覧の通り、怪しい者じゃないよ」
クロンカイトは極力愛想を振りまく。
「リリー? 大きくなったね」
「ん?」
少年が、クロンカイトのファーストネームを喋ったからクロンカイトは意外に思った。
クロンカイトの本名、リリー・クロンカイト。
竜人の中には花の名前を名づけに使う風習がある。もちろん全員ではないが。
竜人と親交の深いクロンカイトの親は、クロンカイトをリリーと名付けた。
女らしい名前が気に入らないとかそういうわけではなかったが、誤解されがちなため、よほど親しい相手でなければファーストネームは名乗らないようにしていた。
シュミットたちはクロと呼ぶし、リリーなんて親しい相手にもそうそう呼ばれることはなくなった。
「坊やと会ったこと、あったっけ?」
今度はクロンカイトが少年をしげしげ見る。
軽装であるし、この少年が機械だということはすぐわかった。
栗色の髪。シミュレーションドールと呼ばれるアンドロイドだろう。
クロンカイトは破壊工作を請け負うことが多いから、アンドロイドをたくさん見てきた。
似たタイプのアンドロイドは見たことあるし、どうも個々の名前がなかなか覚えれらなかった。




