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第0話

 時刻は夕方に近かった。

 通された部屋は俺が今まで見てきたどの一室よりも広い。人が軽く7人は入りそうな、そんなところに悠々と席を構えているのはたった一人の少女だ。光沢を出しているのは白い革素材の服で、兆英議会堂に属する人たちの制服だ。

 壁飾りは一面、独特な模様に彩られている。こうして目の前にある机の上には、漫画みたいに書類の山ができていた。

 「それでは、貴方たちの調査結果を報告してください」

 「了解です。・・・・・・えーっと」

 俺は脇に抱えていた書類を取り出した。

 「まずジスガルド自治領の紅茶が旬を迎えました。例年以上の出来だとマーティンさんという農家の方からです。山岳地帯にその方の農園は位置しているのですが、南東の湿った風が山岳を通り、乾いた風に変わることで爽やかな渋みになるのだそうです。続いて俺の故郷であるメルトゥグ自治領にて、年に一度の「鉄命大祭」が来月開かれますね。全長2M超えの人型機械が取っ組み合いするんですよ。地元の職人完全監修の機能美は見応え抜群なので。どうか見に来てやってください。で、次に行った場所は」

 「・・・・・・イガラシさん。もう結構です」

 ピシャリ、と突然話を打ち切られた。その間にも扉を隔てた向こうから誰かの話し声がしているのが分かる。心底疲れたような顔を覗かせる

 「イガラシさん。貴方たち、篝火の狐イグナイト・フォックスの結成目的はフロントラインの全面的な調査なんですよ。観光目録が欲しいのではありません」

 まったく、とため息をつく少女の名はセレスティア・コールソン。世界各国を繋ぐ権威ある議会、兆英議会の委員に最年少で選ばれた、俺たちの依頼主と言うべき存在だ。

 いわゆるエリートで、簡単に言えば人を使う側ということになる。今日俺がエルダムス帝国に来ているのも、彼女から定例報告をしろと言われたからだ。

 「そうですか?いや、コールソンさんは普段からお仕事が忙しいそうなので少しでもお話をできたらと思っていたのですが」

 「余計なお世話です!」

 キャラバン<篝火の狐>を立ち上げて3か月ほどになるが、セレスティアは一向に初対面のような対応をし、イガラシは逆に同郷の親友のように振舞っている。一時は兆英議会堂のスタッフが見かねて強制帰宅させたこともあったほどだ。

 「いいですか、貴方たち<篝火の狐>は帝国公認のキャラバンといえど、討伐隊と違って調査隊は試験運用の段階なんです!もう少し危機感を持ってください」

 「いや、それに関しては手つかずな訳ではないんですよ。ただ結果として書くほどのことかと言われると・・・・・・」

 ふと視線を上にやると、セレスティアさんはぷくー!って破裂間近の風船のように頬を膨らませていた。年相応なんですね、と言おうものなら出入り禁止にされるほどの権力があるのだが、つい言いたくなってしまうのはイガラシ自身も損する癖だと自覚はしている。

 「とにかく!地方情勢くらいはここにいても耳に入ってきます!」

 「うーむ・・・・・・じゃあこの報告書だけでも読んでください。ウチのメンバーの一人が徹夜したので」

 フォーマルな報告書とは別に、ポケットに入れておいたパンフレット風の書類を取り出す。エルダムス帝国のを見習って手作りされたものだ。仲間の一人、ヒュームが作ったそれは飾り気は少ないものの、実際の地図とその場所の写真を重ね合わせた・・・・・・

 「えぇい!」


 ビリッ!と気合いの入ったかけ声と共に、みるみる一口大にちぎれていく音。

 「あぁ!喜んでもらいたくて作ったのに!」

 しかしイガラシのセリフに対する返答は無く、代わりとばかりに思い切り机を叩き一言。

 「貴方たち……いい加減に、真面目に仕事しなさああぁぁーーい!!!!」

 セレスティアの怒りのオーラは頂点に達し、机の上の書類を巻き上げるやいなや、その説教は予定していた会議に遅刻するまで続いた。

 

 それから2か月ほど、兆英議会堂でセレスティア・コールソンに「怪獣のように怒っていた」といわれの無い悪評が着いたのは別の話である。

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