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エレクトリカ  作者: ハリマトモアキ
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ラストバトル 1

今回は会話がメインです。

 布志名の勝利で終わった第2戦が幕を閉じる。


 観客席の方でも、まだどよめき合う中、解説の城ヶ崎達も、今までの結果についておさらいし始めていた。


「それでは、今のうちに今までの結果をおさらいしてみましょう。現在7班は4人生存、1班はなんと重阪隊員を残すのみと言う驚きの結果となっています。」


 吉隠が続けて話し出す。


「まず、初戦。白石隊員対京終隊員の戦い。こちらは、皆の予想を覆す白石隊員の勝利で幕を閉じました。まさかですよね!この結果は!これについてはどうです?城ヶ崎さん。」


「そうですわね。京終隊員の能力に白石隊員は不利との予想でした。ですが、7班の方が相手を考察していた結果が、勝ちにつながったのではないでしょうか。」


「あぁい、そうだな。普通だったら負けてるからな。普通だったらな。京終隊員の弱点をうまくついたな。」


「左鐙さんの言うよう、普通だったら負けていますわ。戦いには参戦していませんが出雲隊員の作戦の組み立て方が大きいでしょう。」


「あぁい、そうだな。指揮するものが優秀だ。って言うと調子に乗るからな、あいつは...まあ、心配性過ぎて相手を徹底的に調べた結果じゃないか?」


「出雲隊員の功績?ですか?彼一度も戦ってませんよ?こちらとしてはそろそろ舞台に上がってほしいと言うのが本音ですよ。彼SSランクですよ!」


「ふふっ、彼はあのように見えますがシャイですからね。」


「あぁい、シャイと言うか根暗だからな。今回姿見せないんじゃないか?」


「えぇぇ!出雲隊員のエレクトロワールド対重阪隊員のグラビティワールド!私としてはこれが見たいんですが。」


「あぁい、心配しなくても、場合によっちゃ出てくるよ。あいつは。」


「ですわね。出雲隊員の今後に期待しておきましょう。」


「わかりました。それでは、次は第2戦、布志名隊員対蛇穴、忍海隊員です。これも最初は1班有利と言う展開でしたね。まあ、Sランクが2人相手ですからねー。」


「あぁい、私は7が勝つって初めから言ってたぞ!」


「美流来ちゃんは、布志名隊員のファンクラブの一員で贔屓してますから、ダメです。」


 吉隠が両手でバツを作ると、フフンと憎たらしい笑みを浮かべる。それを見て左鐙はこのヤローと言わんばかりに顔を顰める。


「あぁい、贔屓目抜きにしても、布志名隊員は強いぞ。」


「ですわね。蛇穴隊員の水鞭をものともしなかった高速移動と雨のように落雷を降らす『落雷龍』と言う決め手の一撃。ブラッヴィッシモ、ですわ。」


「あれは確かに言葉通り痺れましたね。龍が天から降ってきたと表現して良い強烈な落雷の一撃。女性ファンも大喜びですよ。時折聞こえてくる布志名さまコールも報われたんじゃないでしょうか。」


「あぁい、かっこよです。布志名さま。左鐙も痺れました。」


「えーと、美流来ちゃんはほっといて...城ヶ崎さん、布志名隊員は今回増幅装置を外して戦っていたんですが、あれについてはどうお考えでしょう?」


 城ヶ崎は紅茶を綺麗に飲み干すと、一呼吸置いて喋りだす。


「増幅装置以上の出力を生身でだせる。これだけでも大分異常ですわ。確かに抑制機構を持たしていますが、限度いっぱいまで使用するなんて稀な事ですわ。」


「あぁい、布志名隊員はA級認定されてるが、あれを見せつけられたら認識も変わるだろうよ。私でも増幅装置、まあ『エレクトリカ』を使う時は、基本機器によるサポートが必要になるからな。」


「普通はそうですよ左鐙さん。出雲隊員でも左目のバイオニックアイとレスポンスアナライザーを使って、能力を使っていますわ。」


「...要するに、布志名隊員は普通じゃありえない!って事ですね。」


「あぁい、だな。」


「ですわね。」


「そんな普通じゃありえない布志名隊員を苦しめたのが、忍海隊員でした!こちらもすごかったですね。消えたり現れたりで見てるこっちは展開について行くのがやっとと言う感じでした。」


「忍海隊員は動きとは逆に冷静沈着ですからね。ドロフォノスを使って消えるタイミング、何度も言いますが、ペルフェツォーネですわ。」


「あぁい、能力の使い方エグいよな。」


「まあ、見えないんですけどね。ははは。」


「あぁい、戦ってたら笑い事じゃねーけどな。」


「ですよねー。戦ってたら瞬殺される未来が見えますよ。後は、黒猫と呼ばれるあの不思議な動きですね。視界を揺さぶる感じが、狩をする獣のようでした。」


「まさしくその表現でよろしいですわ。マーブリ・ガータは謎が多いですが、2度と相手に戦いたくないと思わせる忍海隊員には脱帽ですわ。」


「城ヶ崎さん...マーブリ・ガータって結局はなんなんでしょうか?疑問に持つ方も多数いるのでは?」


「そうですわね。私から言えることはドロフォノスはただ、消えるだけのスキルじゃないという事ですわ。それに自身の限界まで鍛え抜いた鞭のようにしなる体で、2本のブレイドを爪や牙のように使い、相手を倒す。この戦い方が夜闇に紛れる黒猫の狩と評されるのではないでしょうか。」


「あぁい、消えるし、現れるし、その切り替えスピードがとにかく凄いよな。黒猫と評されるのもわかる気がするよ。」


「制限があるとは言え、私はもっと黒猫を使えばいいと思いますよ。」


「ふふっ、忍海隊員の困った顔が浮かびますわ。まあ、戦闘に関してですが忍海隊員、最後は悪い癖が出ていましたわ。」


「と言いますと?」


 吉隠の質問に、城ヶ崎は急に立ち上がると、凛とした表情で答えた。


「ざっくり言えば、遊び過ぎ、ですわ!」


「えっ!忍海隊員遊んでたんですか?!あれで?!」


「あぁい、最後はおもちゃにじゃれつく猫だったな。」


「ですわね。遊び過ぎですわ!」


「えっ?!美流来ちゃんもわかってたの?わからないの私だけ!」


「あぁい、わかる奴には分かるだろ。」


「ふふっ、布志名隊員と遊びたかったんでしょうね。私は彼のそこが良いところだと思うんですが、後輩の育成に尽力を尽くしますからね彼は。昔から知ってますが、京終隊員と違って前からひとつも変わらないですわ。」


「へー、さすが昔から1班に所属している城ヶ崎さんはその辺も詳しいですね。忍海隊員の意外な一面です。」


「口下手ですが、彼は優しいですからね。」


「あぁい、そんなこと言ったら女性ファン増えるんじゃねーか。実際かなりの色男だしな。」


「美流来ちゃんまで!まあ、忍海さんはクールでかっこいいですけどね!今後に期待です。」


 一通りの考察が終わると、モニターが3台とも、現時点の様子を映し出す。実際皆の予想を遥かに覆す7班の強さに、観客や隊員達も驚きを隠せず、ドヤドヤと会話が聞こえてくる。


「そうそう、そうですわ。モニター写りますか?出雲隊員を写して欲しいのですが?」


「はーい。場面切り替えます。...うん?えっ!!」


 吉隠が大きく目を見開き、モニターを二度見する。

 

 それもそのはず、モニターに映し出された出雲は見えない階段を歩くように、空中をスタスタと歩いていたからである。


「ちょっ!ちょっと!待ってください。出雲隊員何してんるんですか?空中をスタスタ歩いていますけど?!」


「歩いて...ますわね。」


「あぁい、あんな目立つ真似して、何する気だあいつ?」


「いやいや!そもそも、どうやったら空中歩けるんですか?」


「あぁい、隣の王子隊員も空飛んでるじゃねーか。」


 左鐙のその言葉通り、出雲の横にはボードに乗って空中を滑空する咲の姿が映し出される。風に乗る渡鳥のように自由に空を駆け巡る咲の周りには8つのコイルビットが空中をフワフワと浮いていた。


「いやいや、王子隊員は能力的にわかりますけど、出雲隊員は...えー!彼なんでもありじゃないですか。」


 吉隠は出雲の謎の行動に頭が追いつかず、目を大きくして画面に食いつく。出雲のエレクトロワールドについては少し勉強してきたが、どうしても代名詞のスカイボルトに引っ張られ、エレクトロワールド自体の能力は吉隠の中で謎であった。

 

 今も空中を歩き続ける出雲に、半ば呆れたような表情で見つめることしか出来なかった。


「空気中に一番多い気体の窒素を凍らせて空間を固定しているか、実際は単純に蜘蛛の糸みたいなものを張り巡らしている可能性もありますわ。」


「あぁい、もっと簡単に言えばスカイボルトだって空中に静止していただろう。要するに空間を固定してるんだよ。本当にむちゃくちゃだな、あいつは...」


「...空いた口が塞がりません。なんでもありですね彼は...。」


「あぁい、でも、何のために空中歩いてるんだあいつは?まさか今更目立ちたいとかか?」


「いえ、多分何かあるんでしょう。重阪隊員との距離もどんどん近くなっていますわ。もう一つのモニター重阪隊員を映せますか?」


「はーい。すぐに映しま...す?!」


 突如、モニターを切り替えた、吉隠の声が詰まる。


 吉隠の視線に写ったものは、崩れてペチャンコになった瓦礫の中を、ゆっくりと歩みを進める重阪雪乃の姿であった。


 雪乃の顔は引き攣るような不自然な笑みを浮かべると、時折くすくすと笑いながら街を破壊していく。


 ビルは崩れ去り、道路は陥没、およそ人がやったとは思えないほどに構造物は破壊され、その力は強大かつ広範囲に及んでいた。


 そして、モニターに映る雪乃が手をかざすと、前方の建物がメキメキと音を立てると、グシャッと潰れた。


「あぁい、すげーな...あの様子じゃ、7班は攻撃も防御もできねーぞ。」


「ですわね。『グラヴィティワールド』の範囲、まさかこれ程とはですわ。」


「...こっちはこっちで、凄い...ですね。SSランクの異常さ、強さが伝わってきますよ。」


 解説、実況者達が口を揃えて、雪乃の能力の異常性について伝える。それ程までに圧倒的な暴力にも似た雪乃の能力。見た観客達は静まり返り、雪乃に対しての脅威にも似た感情を感じていた。


 一方、空中を歩いていた出雲も、雪乃を視認できる距離まで移動してきていた。


「咲、チャンスは一回だ。頼んだぜ。」


「かしこまだよー。」


「じゃあ、始めるぜ!由里ちゃん、咲のオペ頼むからな。」


「了解だよ。」


 会話が終わると、出雲は空中から、空に向けて手を伸ばした。


「スカイボルト 形成。」


 出雲の声に合わせ、空には無数のスカイボルトが増殖するように増えていき、頭を地面に向けると空中で静止する。


 それを確認した咲は今より更に高く高度を上げると、金属でできたボードの上で態勢を整え、さらに8つのコイルビットを空中に解き放った。


「咲ちゃん、準備はいい?」


「おっけー、由里香さんー。」


「了解だよ。恐いと思うけど、今いるところから動かないでね。」


「了解ー。ボスも由里香さんもー、信用してるからー。大丈夫ー。」


「よっしゃー!いくぜ!」


 出雲の掛け声に合わせ、最後の戦いが始まろうとしていた。

 

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