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エレクトリカ  作者: ハリマトモアキ
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マーブリ・ガータ

「久々に見れますわね。暴黒猫(マーブリ・ガータ)を。」


 城ヶ崎が凛とした表情で呟くと、吉隠が首を傾けて、トコトコと近くにやってくる。城ヶ崎さん、城ヶ崎さんと話しかけると、何やら不安そうにボソリと呟く。


「マーブリ・ガータ?...ってなんですか?」


 左鎧は吉隠のその質問に少し呆れたような表情で、ハーと大きくため息をついた後、吉隠に話しかけた。


「なあぁい、吉隠。お前広報だろ!今回戦う隊員の情報位、少しは調べておけよ。」


「いきなり外国語喋られても、わからないですよ。美流来ちゃんわかるんですか?マーブリ・ガータって何なんですか?武器ですか?武器?」


 その質問に左鎧は、眉を顰め更に大きなため息をつく。城ヶ崎はそんな左鎧と吉隠の様子を見て、左鎧さん説明してあげればと言いふふっと笑った。


 最終的にはかわいそうに思った左鎧がしょうがないなと言わんばかりに、両腕で大きくジェスチャーすると喋り出す。


「有名な話だぞ!忍海隊員を1人にするな。マーブリー・ガータ、黒猫とは戦うなって!」


 左鎧に続けて城ヶ崎が答える。


「マーブリー・ガータは、ギリシャ語で黒猫って意味ですわ。忍海隊員の闘いかたが...まあ、見てれば嫌でもわかりますわ。アレを解説出来たらですけど。」


 城ヶ崎が少し意地悪そうな顔をして吉隠に話しかけると、吉隠は未だ釈然としないまま、首を傾げては、うーんと唸っていた。


(うーん、黒猫って言われても、出てくるのはかわいいニャンちゃんしか浮かばないですよ。爪?爪による攻撃かな?うーん、わからない。まあ、解説は2人に任せるから、いっか。)


「あぁい、考えるよりモニター見てた方がいいぞ吉隠。」  


「はいはーい、わかりましたよ美流来ちゃん。」


「始まりますわね。」


 大画面モニターが布志名と忍海を映す。お互いはある程度距離をとったまま、膠着していた。


 忍海は姿を表したまま、両腕をダラリと下に垂らすと、2本のブレイドを逆手で握り直した。そして、両足のつま先に力を込めると、獣のような前傾姿勢になり、狩人のような視線を布志名に見せつける。


 忍海の虹彩が琥珀色に輝くと、より瞳孔が開き獲物を捕らえる。それに伴い空間が圧迫されたような威圧感があたりに漂う。


 全身に力が入っているように見えるが、腕はダラリと脱力している不思議な態勢。布志名も忍海の事を聞いてはいたが、実際間近でマーブリー・ガータと呼ばれる戦闘スタイルを見るのは初めてだった。


 1班にいた事があり、その戦闘スタイルを見たことがある出雲が何度も言っていた『黒猫には気をつけろ!』と言う言葉が何度も頭の中で繰り返す。


 布志名の視線も忍海に釘付けとなっていた。


 忍海から目が離せない。


 瞬きさえできない緊張感。


 一瞬でも離してしまえば、それが致命傷になる気がする。


 動かない忍海を見ているだけだが、異様に集中力を使う。布志名の額からポタリとポタリと汗が落ちる。あまり汗はかかない体質なのに、何故だか汗が止まらなかった。


(なんだろう、この感覚。先に動けば負けるようなビジョンしか浮かばない。ずっと狙いをつけられているような、狩られる側の感覚。...やっぱり、恐いな忍海さんは。)


 布志名は心の中で静かに思っていた。


「忍海さん、今回は消えませんねー。」


 吉隠が疑問に思った事を呟く。


「あぁい、まだ消えないだけだ。そん時はいきなり来るぞ。」


「でも、あの消えるスキル...ドロフォノスでしたっけ?不思議なエレクトリカですよね。」


「そうですわね。ですが、アレを姿を消すスキルだけだと思ったら大間違いですわよ。」


「だな。そう思っていたら、確実に初見でやられるぞ。」


 左鎧が首元に右手を持っていき、首を掻っ切るポーズをする。


「あぁい、まあ忍海隊員も布志名隊員も実は両方電気的なエレクトリカだしな。それを使った高速戦闘をお互い得意としてる。違っているのはスタンスが近距離か遠距離かくらいかな。」


「ですわね。左鎧さんの言うよう高速戦闘になるはずですわ。」


 左鎧と城ヶ崎の会話後も、モニターには全く動かない2人の様子が映っていた。


(動かないか...いい勘してるな。でも、それだけじゃ、僕は止められない!)


 忍海は更につま先に力を込める。チリっチリっと靴底が帯電し、電気を発しているのがわかる。


 次にチリっと靴底が光った直後。


 一瞬だった。


 瞬きにも満たない時間だが、忍海は布志名の視界から消える。


 それが速さによるものなのか、スキルによるものなのか、布志名に考える時間はなかった。気づいた時には、忍海は目の前にいたのである。


 姿を現し両腕で武器を振り下ろす。


 その鋭利な刃が、獣の牙の如くギラリと空中に輝く。


 布志名も咄嗟に防御しようと、自分のナイフを出した瞬間、忍海は再び一瞬で姿を消す。


 ?!!


 ーー斬撃が見えない。


 目の前で突然消えられると対処のしようがないことに、布志名はこの時初めて気づく。


 布志名も咄嗟に体を捻り、その場を離脱しながら急所を庇った。


 しかし、布志名の予想してない所から見えない斬撃が襲う。布志名の後ろから右腕と左足に鋭い痛みが走った。


 ディメンションの演出上、過度な流血はないが、確実に右腕と左足を見えない斬撃に突き刺されたのだった。


 穴の空いた衣服の下に走る熱さにも似た痛みに、布志名の顔が歪む。


 「くっ!!」


 いつ二発目の追い討ちが来てもおかしくない状況に、咄嗟に布志名は全方位に向けて、雷を解き放つ。


「黒雷、解放!」


 苦し紛れのように見えるが、この時ばかりは少しでも、距離と時間を稼ぎたかった。


 少しでも冷静になるため。

 

 考える時間を得るため。


 バリバリっと空気が震撼すると、布志名を起点に雷の渦が辺りを包み込む。


 これで一旦距離は取れたはずだが、布志名は忍海を警戒する。


 布志名は思っていた、この雷を止めた瞬間、また斬撃が飛んでくると。このままでは次こそは急所に致命打を喰らってしまう。


 そして、先程の斬撃。


 異様な角度から斬られたことにも疑問が浮かぶ。多分だが、最後に見た光景から考えると、あり得ない体勢から攻撃を喰らったことに気づく。


 いきなり軌道が変わり、自分の後ろから攻撃がきた事に。


「忍海隊員さすがですわね。ブラッヴィッシモですわ。やはり、オンとオフの使い分け、能力の切り替え速度どれをとってもペルフェツィオーネですわ。」


 城ヶ崎が手を叩いて、忍海を称賛する。


「あぁい、すげぇーな。まず、使い方がえげつねー。初見であれはまずかわせない。急所に当たっていたら、アレでゲームオーバーだ。」


(まあ、布志名さまは負けないけどな!!)


 左鎧はイーと口を尖らせる。


「えっ、えっ?えーー、なんですかアレ。蛍光灯みたいについたり消えたりしただけなのに、速すぎて何が何だか。テレポーテーションを見たような不思議な感覚です。」


「あぁい、なんだ、その例えは(笑)お前本当に広報か?」


「見えないですもん。例えれないですよ。でも、何で忍海隊員はアレを早く使わなかったんです?使ってれば展開も変わったんじゃないですか?」


 観客も疑問に思ったことだろう。


 何故忍海が最初からアレをつかわなかったのか。


 それ程強いスキル、戦局を変えれる程の力を何故仲間がいた時に使わなかったか、誰しも疑問に思っただろう。


 そんな、吉隠の質問に城ヶ崎が答える。


「あの状態の忍海隊員は動くもの全部に反応してしまうと言う噂ですから、仲間がいたら巻き添えを喰らってしまうんですわ。だから、使わないんじゃ無く、使えなかったんですわ。」


「なるほどー。本格的に猫ちゃんですね。」


「あぁい、何だその解説。まあ、攻撃特化してる分、一長一短だな。」


 城ヶ崎と左鎧が解説する中、布志名は出雲との会話を思い出していた。この危機的状況を覆せる材料を頭の中で高速で探すと、一つの会話にたどり着く。


 出雲と2人で、城ヶ崎から貰った動画、忍海の戦闘シーンを写した映像を見ていた時を。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 会社の会議室の特大プロジェクターに映された映像を、出雲と布志名は見おわると、2人ともハーと息を漏らす。


「やっぱ、すげーな忍海さんは。戦い方を知ってる。忍海さんがいるだけで安定感が違う。」


「確かに。驚くほど無駄がないな。」


 参考までに忍海の戦う動画を見終えた2人が一斉に呟く。


「布志名。忍海さんなんだけど、1人になれば黒猫を使ってくる筈だ。ただ、あの戦闘スタイルと言うか、忍海さんの事よくわからねーんだよな。」


 出雲が頭をくしゃくしゃ掻くと、うーんと唸る。そして、タバコの煙を深く吸い込むと、プハーと大きく吐き出した。タバコの煙を吐くその顔は何とも微妙な顔をしており、お手上げと言わんばかりに顔を歪める。


「よくわからないって、どう言う事なんだ?」


 布志名が尋ねる。


「黒猫状態の忍海さんは動いたものに反応するから、黒猫は自分一人の時にしか使えないって、みんなは言うけど...本当にそれだけかなー?なーんか昔から引っかかるんだよな。」


「例えば、何かの制限があるとか、副作用がきついとか?」


「そうそう。制限があったり、何かありそうなんだよなー。忍海さんは単独の方が明らかに強いのに、基本コンビで動く。しかも黒猫は基本使いたがらない。」


「あんなに凄いのにな、何で使わないんだろうな。」


「普通そう思うよな。だから俺聞いたんだよ、何で黒猫使わないか、そしたらふふって笑いながら、嫌いなんだって言われたからな。」


「ははっ、忍海さんらしいな。」


 出雲はハーとタバコの煙を吐き出すと、また、一本タバコを取り出し火をつける。出雲は考え事をしている時、タバコを絶えず吸い続ける悪い癖がある。それを、良く北条に見られては注意されていた。そんな出雲に布志名は顔を合わせると一声かける。


「また、悪い癖が出てるぞ。北条さんには見せられないな。」


 布志名がふふっと笑う。


「あのぱっつん眼鏡はすぐ怒るからなー。」


「お前のこと思ってだろう。」


 布志名が答えたその直後、出雲の顔つきがガラリと変わると、タバコを吸う手をピタリと止める。


「うん?待てよ、癖...癖か。他人に見せたくないものがある。...待てよ、待てよ。さっきの映像!もう一回見せてくれ!なんか閃きそう!あとちょっとで天啓が降りてきそう。」


「はい、はい。」


 布志名の何気ない一言に、出雲がブツブツと独り言を喋りだす。天啓が降りてくるとか訳のわからない事を言っているが、出雲がこうなった時の集中力は凄い。相手の細部まで見通すような鋭さがある。布志名もその事を充分理解しており、こう言う時は喋りかけない方が良いことも知っており、自分もタバコに火をつけると一服しだした。


 当の出雲はくわえタバコのまま、映像が映るモニターを凝視し、気になった部分を早戻ししたり、スローにしたり、何遍も何遍も見返していた。


 次の瞬間。


「バイオニックアイ、光学センサー、フルドライブ!拡張型レスポンスアナライザー起動!」


 急に出雲がエレクトロワールドを発動させるセリフを叫ぶと、右目を閉じ、左目の人工眼のみをカッと見開く。


 それを見ていた布志名はタバコの煙を思いっきり吸い込んでむせると、待て待てと右手を出雲に伸ばす。


「ごほっごほ!ちょ、ちょ、ちょっと落ち着け!出雲。ここでエレクトロワールドなんか使うなよ!」


「アレは使わねーよ。ちょっと潜るだけだよ。」


「いきなりびっくりするだろ!」


「わりぃ、わりぃ。癖になってんだ、あのセリフ呟くの。」


「本当にびっくりするからやめてくれよ。それでバイオニックアイ使ってまで、何を調べてたんだ?」


 布志名の問いに、出雲は左目でウインクすると、グルリと布志名の方に顔を向け、真剣な表情で語りかけた。


「あくまで仮説だからな。鵜呑みにはするなよ。黒猫は多分...と言うかドロフォノスは...」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


「そうだったな。黒猫は。」


 布志名は雷撃を出したまま呟くと、忍海の位置を確認する。


 忍海はゆっくり動いたと思えば、急にトップスピードになって早く動いたり、そして、姿を消したり現したり、忙しなく人の視界を惑わせる。


 布志名の雷の範囲からギリギリ離れた位置で、チリチリと靴底を帯電させては、緩急をつけた動きで翻弄していた。


 布志名の放つ光の塊の雷は、あたりを雷光で照らしては、その圧倒的な眩さの白い光で影を作りだしていた。


 布志名はその中、忍海を確認すると、ウンと頷く。


「お前の仮説、多分あってるぞ出雲。やっぱり、お前はすごいよ。」


 布志名はふっと短く笑うと、両手両足に力を込め叫んだ。


「鳴、伏、土、若雷、解放!」


 バチンっとけたたましい音と共に、布志名の両手両足に雷が纏わりつく。生き物の様に激しく鳴動する雷は、周囲を暴れ回ると、バチバチと威嚇音を鳴らしていた。


「ここから、反撃します。忍海さん!」


 布志名は自分に言い聞かせると、再びコクッと頷くのだった。


 そんな布志名に忍海は琥珀色に光る両目を向けると、何故だかわからないが微かに微笑んでいるように見えた。

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