落雷龍
「決めます。蛇穴さん!」
「ってみろ!布志名ぁあ!!」
布志名が地面を蹴ると同時に蛇穴もヒュドロスを全方位に振り回した。
蛇穴の百本蛇は縦横無尽に暴れる。鞭の壁と言えば良いか、蛇穴の鞭は生き物のように、例えるならまさしく多蛇のようにうねり回る。はたから見た限り鞭の攻撃の隙間を掻い潜るのは難しく見える。
その光景をモニターで見ていた左鎧は、繰り出される鞭の攻撃を見て、ふふんと頷くと声を出した。
「あぁい、攻撃力はS級だな。あの鞭当たればヤバいぞ。まあ当たれば!だけどな。」
「そうですわね、威力は間違いなくS級でしょう。ただ、布志名隊員は遠距離からでも攻撃できますし、今の状態なら回避するのも可能と見ますわ。」
左鎧が言うように蛇穴の鞭は威力は凄まじく、何本にも枝分かれした鞭が、地面をえぐり、空気を引き裂き、ほとばしる飛沫は岩をも砕く。2人が伝えたように当たればタダでは済まないどころか、あたりどこが悪ければ一発KOだ。
蛇穴はさすがSランクに選ばれるだけはある。ハイブリッド討伐数でも、上位の成績を残している。
この鞭で何体者ハイブリッドを切り裂き、破壊し、屠ってきた。
この様子を見ていた布志名もこれには迂闊には近づけなかった。そして、布志名が遠距離から攻撃しようにも、ただの放電では先程のように蛇穴の鞭に防がれてしまう。それどころか、半端な攻撃を繰り出したら、神出鬼没の忍海の攻撃が必ず喉元に飛んでくる。
ただ。
今、布志名が力を込めている二色混合と呼んだ雷は、今までのライトニングボルテックスとは明らかに違う特殊な雷だった。青白く光る槍のような形状を保ったまま、バリバリと音を立て巨大に膨れ上がっていく。
「由里香ちゃん、準備は整ったよ。」
「布志名くん、蛇穴さんの鞭もだけど、忍海さんのドロフォノスにも充分気をつけて。意識外からの攻撃、忍海さんの得意分野だから。」
「了解。」
そう呟いた布志名は両足に力を込め、一気に詰め寄った。布志名は蛇穴の鞭の間合いに入るギリギリのところで一旦足を止める。そして、両足に纏った雷を再び解放すると、一気に蛇穴の横に移動した。
先ほども見せた早すぎて消えるような動き。
蛇穴も一瞬で横に移動した布志名を目で追えなかった。
しかし、蛇穴は1人で戦っていない。潜伏するように気配を消している忍海がいる。外から2人の様子を伺い、布志名が動いたのを目で、気配で、感覚で捉え、すぐに蛇穴に無線を飛ばす。
「蛇穴、右だ!」
「右か!」
蛇穴も忍海の声にすぐさま反応すると、顔を振り向くより早く、右手の鞭を薙ぎ払うように自分の右側に放つ。
パチンっと爆ぜる音がし、周辺の地面が抉れ、砂埃が舞う。
布志名も圧倒的な速度を生かし回避に専念するが、蛇穴の不規則な鞭の動きに、体に数発ヒットする。完璧に当たったわけではなく掠った程度だが、その鞭は鋭利に衣服と皮膚を簡単に引き裂いた。
「くっ、やっぱり、強いな。だけど、これなら!」
そう言うと、布志名は今まで以上に両足に力を込めた。
砂埃が落ち着き、視界が晴れる。
追い討ちをかけるべく蛇穴は鞭に力を込め、布志名の姿を探す。
だが、蛇穴と忍海が周囲を見渡すが、布志名の姿は見えない。
「どこに消えやがった?!」
蛇穴が呟く。
と同時に遥か上空からチリチリと唸る音が響き、閃光が走る。
その音に反応した忍海が上を向く。そして布志名の姿を捉える。
そこには遥か上空で雷を纏った右手と左手を重ね、雷槍の切先を地面に向けた布志名の姿だった。砂埃が舞った瞬間、布志名は両足に雷を纏うと、力の限り上空にジャンプしていたのだった。
人間とは思えない跳躍力で、空中に体を投げ出すと、バランスを取り、一気に必殺の一撃を叩き込む。
「上だ!蛇穴!」
忍海が蛇穴に即無線を入れながら、自分も布志名に対して攻撃を行うため足に力を込めた。
狙うは一瞬の隙。
蛇穴に攻撃する、一瞬の瞬間。
上空に跳ねた布志名との間合いを見つめ猟犬のような眼差しで飛びつこうとした瞬間だった。
忍海は何故だか足が動かなかった。
いつもの忍海なら必ず飛びつく、絶好のチャンスだが、鉛のように足が重い。まるで飛びつくなと体全体が警鐘を鳴らすと、自分に訪れる危機的状況を予告する。
飛びついた後に訪れる自分に対する嫌なビジョンが頭の中に浮かび上がる。
長年の経験から来るものなのか、漂う嫌な気配に踏み込んではいけないと、何かが足にまとわりついて離れない。
忍海はその感を信じると言うより、そうせざる負えないように即座に切り返すと、後ろに全力で後退した。それと、同時に蛇穴に警告を無線で飛ばす。
「蛇穴!離れろ!」
忍海の声より早く上空に人間の跳躍力とは思えないほど、大きく跳ねた布志名は蛇穴を見つめると、両手に貯めていた雷撃を下に向ける。
チリチリと光り輝く雷光は布志名の両手で加速するように大きくなると、一際大きい音を立てバチンと鳴り響いた。
「二色混合!」
『やったれー、布志名!』
『いっけー、布志名くん!』
出雲と由里香が応援する中、布志名は両手の電撃を解き放った。
「落雷龍!!」
一瞬、雷光があたりを照らす。
眩い光にあたり全体が照らされる。日光の眩しさとは違う、夜中に鳴った雷のように白い光があたりを包み込む。
そして、布志名の声に合わせ、一本の極太の雷が上空から蛇穴に向け解き放たれる。その雷は大きく枝分かれすると、何本もの雷となり空から降り注いだ。
空を真っ二つに裂くような轟音を鳴り響かせ、天空から放たれた雷は縦横無尽に暴れ回る。まるでそれは空から落ちてきた何匹もの龍の如く、広範囲に散らばり、異常とまで言える雷の束が地上を襲う。
鞭を振っていた蛇穴もこの光景に、目を丸くして驚くことしかできなかった。
死の寸前、走馬灯を見ると言うが、蛇穴見たのは何匹もの雷龍に自分が飲み込まれるビジョンだった。
蛇穴の額からポタリ冷や汗が落ち、同時に自分に迫り来る死を感じる。ディメンションと言う仮想現実の世界だが、蛇穴は布志名との明白な力の差を思い知ってしまう。
布志名の事を、所詮A級の優男と思っていた自分に嫌気すら感じてしまう。
数秒にも満たない時間だが、蛇穴は天空を見上げ、ボソリと呟く。
「はっ、無理、だろ...。んなの。」
蛇穴の口から溢れた言葉。いや、本音。
その言葉が表すよう蛇穴は上空から自分に向けて放たれた雷に、半ば諦めたような表情で弱音を吐く。それほどまでに圧倒的な力に鞭を動かそうにも、力が抜けたように蛇穴は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
そして、そのまま蛇穴は、天空から落ちてきた雷に飲み込まれた。
ドガン!メリメリと轟音を響かせ、落雷の落ちた地面が抉れる。そして、地震のような地響きをあげると、地面に傷跡を残した。
蛇穴は一つの悲鳴もあげれぬまま、雷光が消えた後には、モニターには全く動かない蛇穴の姿だけが映る。
そして、何も言わぬまま、規格外の攻撃を受けたその体もキラキラと粒子のように輝くと徐々に消えていった。
ディメンションで言う決着がついたのである。
布志名も上空から落ちてくると、忍海の追撃を警戒する。いつもの忍海なら着地の瞬間を狙ってきそうだが、この時は何も仕掛けては来なかった。
「おおっと!こちらでも決、着、です。矛対矛の対決!勝ったのは布志名隊員!それにしてもなんて威力!増幅装置を外しているのに何ですかあの高威力、広範囲のでたらめな雷は?!龍が見えましたよ。龍が!」
吉隠が興奮気味にオーバーリアクションで、布志名の攻撃を例える。そして、見ましたか?見ましたか?と何度も連呼し城ヶ崎と左鎧に詰め寄る。
「本当にでたらめな威力でしたわね。忍海隊員も飛び込んでいたらどうなっていたでしょうか。それほどまでの威力の攻撃でしたわね。」
「あぁい、忍海隊員は飛びつきたかったんだろうけどな。そこを抑えて飛びつかなかったところは、流石としか言いようがないな。何か本能で察したんだろう。それにしても、技までカッコ良すぎです布志名様。あぁい。かっこよ。」
「確かに、格好良かったですね!いつもの優しい雰囲気とは違った、真剣な眼差しで上空から狙いをつけ攻撃。布志名隊員の女性人気が高いのも頷けます。まあ、私の推しはシロちゃんですけどね。」
吉隠がシレッと自分の推しを包み隠さず言い切ると、胸ポケットから一枚の写真を取り出す。写真にはシロちゃんと私と書いてあり、見てくださいと言わんばかりにカメラに見せつけた。
「あぁい、シロか...。シロは...ありだな。」
ウンウンと頷く左鎧と吉隠。
「そ、れ、よ、り!雷が龍になるってどんなファンタジーですか!!落雷龍と言う名の如く、空から何匹もの龍が落ちてきましたよ。」
「あれは、龍みたいに見えたってだけで、本当の龍が出たわけじゃないだろう。...あぁい、それより...こっからだぞ。」
左鎧が急に真剣な顔つきになると、モニターを凝視する。吉隠が隣の城ヶ崎を見ると同じようにモニターを凝視していた。
「こっから?ですか。」
「えぇ、ここからですわ。」
「こっからだな。」
忍海は蛇穴がやられた後、すーっと音も無く姿を現しあたりを見渡す。そしてフーと、一息吐くと、スーツについた埃をパンパンと叩きながら布志名に喋りかけた。
「飛び込まなくて正解だったよ。凄まじい攻撃だな。賞賛に値するよ。」
「褒めてもらえて光栄です。忍海さんも狙ったんですけど、やっぱり無理でしたね。」
布志名がいつものイケメンスマイルを披露すると、忍海もフッと笑い返す。
「そう簡単に僕は負けない。殺す事を知っているから死ねないんだよ。」
忍海は俯いて少し寂しそうに笑う。それは京終も蛇穴もいなくなった事からの寂しさなのか、何もできなかった自分への後悔かはわからないが、どこか哀愁漂う雰囲気を醸し出す。
「あんまり喋っていると時間稼ぎだと思われな。...そろそろいくぞ。」
その言葉を皮切りに忍海は身構えると、振動ナイフより刃先の長いブレイドを背中から2本抜き出す。異様に研ぎ澄まされた刀身にゆらりと影がうつると、軽くヒュンヒュンとブレイドで空気を払った。
『布志名聞こえるか?こっからだぞ正念場は!』
『布志名くん、ここからはサポートできないと思うから、一言だけ言わせて。頑張りや!」
無線から聞こえた出雲と由里香の声に、布志名はコクっと頷き答える。
「白石じゃないけど、今からピリピリした感触があるよ。大丈夫、俺は負けない!」
布志名も両手両足に再び雷を纏うと、戦闘態勢に入る。
ここからは、一対一。
相手は対人格闘のプロとして名を刻んだ忍海。
この時は布志名も忍海の強さを充分理解していたつもりだった。
城ヶ崎は紅茶に手をつけると、コクっと一飲みし、真剣な表情でボソリと呟く。左鎧もそんな城ヶ崎に視線を向けるとコクリとうなづいた。
「久々に見れますわね、暴黒猫を。」
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