アンプランド
2台の車が舗装されていない山道を車体を揺らしながら進んでいく。一台はユニック付きのトラックに山盛りの荷物を積み、その後方には四駆のジープがはしっている
二台とも低速で進んでいるが凸凹の路面が多く、道にはみ出すように伸びた木の枝はバシバシとフロントガラスに直撃する。
「だー!伐採しとけよ」
ユニック車を運転している出雲がハンドルを小刻みに切りながら小言を言う
「ボス、伐採は難しいと思うよ」
「まあ、ここは無理だわな」
ユニックの助手席に座り出雲の事をボスという女の子。
綺麗に伸びた茶色い髪を後ろで一つに縛り、化粧映えした目元はぱっちりとしており、どこかギャルらしさが抜けていないようにも見える。一見細身の華奢に見える体型だが、身長は同年代と比べると高いほうだ
「サキ、帰ってきたばかりなのにごめんな」
「ううん、帰ってすぐボスと仕事なんで嬉しいよー」
出雲からサキと呼ばれるこの子の名前は王寺咲。出雲が所属する第7班の紅一点で歳は20歳。こう見えても胸に記されているエレクトリカの証プレートにはA級のマークが記載されている。一ヶ月の遠方出張を無事終え出雲のサポートとして同行していた。
「出張先でねー、ボスにお土産買ってきたんだよー気にいるかなー。事務所に帰ったらあげるね。でもね出張大変だったんだよ物資もなかなか揃わなくて」
「ゴリラとずっと一緒だしな。」
出雲がどこか遠くを見る目でサキを見つめる
「でもゴリさん大活躍だったよ 笑 ハイブリッドを素手で殴るわ、投げ飛ばすわ」
「ハイブリッドを素手で殴る意味がわからん。まあゴリラだから仕方ないわアイツは」
出雲はフンっと鼻を鳴らす
ザザッ、ザザザッ
サキと会話をしていると車に置いてある一台の無線が反応する
「こちらの・・・聞こえますか出雲さん?月日山の基地局まで後500メートル位です。周囲にハイブリッドはいません」
出雲は無線を左手で持つとスイッチを入れる
ピピ
「おっけーやえ!念のため索敵範囲を広げてくれ。宍道にはくれぐれも穴ポコに車落として壊すなっていっとけ」
「わかりました。索敵範囲広げます。宍道さん車壊すなって出雲さんが言ってます」
無線から小さな声でラジャーと宍道の声が聞こえた。
ユニックの後ろのジープに乗るのは宍道と出雲からやえと言われている男、本名を八重垣雫。もちろんエレクトリカである。
低めの身長に黒縁の眼鏡をかけており、両サイドの髪を借り上げて前髪を左右非対称にしている。
八重垣は両足をダッシュボードの上に乗せ腿の上にはパソコン、足元には大きめの機械が置かれており揺れる車内の中でも懸命に踏ん張りながら操作している。
「宍道さん、車体揺らしすぎです。レーダー索敵とビット展開してるから影響出ます。」
「あー無理いわないでよ、やえちゃん。前の人の方が運転荒いから・・・ほら前見てよ、ずりずりいってるよ。こわっ」
八重垣は宍道に言われパソコンに向けられていた視線を前を走るユニックに一瞬合わせる。宍道の言う通り後ろの車輪は悪路に足をとられ、たまにずってはいるが器用に乗り越えていく
「あんなでかい車でこんな悪路を良く運転できますよね、出雲さんは」
それを聞いた宍道ははぁーとため息を吐く
「重機とかでかい車とか大好きだからなあの人。今回の現場もクローラー自分で山まであげるとか言ってたからみんなで止めたしな。クローラーなんていらないし・・・巻上げ機で十分だよ」
タバコを燻らせながら宍道があの人あの人とハンドルを手放し前を指差す。ヤエはふふっと一度笑うとパソコン画面に再度視線を向けた。
「でも、出雲さん資格すごい数持ってますよね。操作も一流だし尊敬しますよ」
「ほんとにな。普通の資格はエレクトリカで一番持ってるんじゃないか。まあ、あの人現場上がりの木田さんスカウトだしな・・・頭おかしいし、バカだけど 笑」
ザザザッ
「ははははは」
「片方無線入ったままだぞ、クソ宍道」
サキの笑い声と共に出雲のドスの効いた声がもう片方の無線から聞こえてきた。驚いた宍道は八重垣の無線を見るとボタンが押しっぱなしになっていた。
「ちょっとーやめてよ、やえちゃーん・・・俺はバカって言ってないです。やえちゃんが出雲くんは狂ってるって言ってました。」
ザザザッ
「死ねよ宍道」
「ごめんって出雲くん」
何気ない会話を続けながら二台の車はしばらく進むと、若干だが道がひらけてきた。視界の先には金網で囲まれた一本の鉄塔と頑丈そうな大きめの局舎が見えてくる。
基地局付近は車が止められるよう大きくひらけており、ユニックを金網近くにとめると出雲とサキが車から降りてくる。
「腰いたっ!」
出雲は大きく背伸びし両腕を空に向けてぐんっと伸ばす。サキもグイッと腰をひねると出雲の方に顔を向ける
「ボス後でマッサージしてあげるよ」
「おう、よろしく頼む。まずは荷物下ろすかー。宍道反対側のホロ外せ」
「あい」
宍道は言われた通り出雲とは反対側のトラックにかけられていた布をはぐっていき、資材を覆っていた布をユニックの運転席側にまるめた。
八重垣は相変わらずパソコンとにらめっこしており、片手でパソコンを持ちながら車の足元にあった機材の取っ手を足に引っ掛けると器用に降ろしていた。
出雲はユニック操作用のリモコンを首から下げると、車載してあった敷板を地面に起き、アウトリガーのロックを外すとガシャーンと張り出した。
「宍道ー、反対側も全開張り出ししてー」
「あいよー」
ガシャガシャっと音がして反対側のアウトリガーも張り出しされた。
「みんなユニックから離れろ」
出雲はそう言うとユニックの脇にある操作用のレバーを引き車の両脇に付いているアウトリガーを地面に伸ばし荷重をかけ車体を安定させる。車体から少し離れると首から下げていたリモコンを片手に持ちユニックのブームを上にあげた。
「宍道、門扉開けてシート置け!」
「あいあい」
「早く!」
「もうせっかちだなー、少しは休憩しようよ。まずはゆりちゃんに作業開始の連絡しなきゃでしょ」
「あとあと、さっきエリア内に入った時オペ三郷さんだったし」
「うわっ!最悪。帰ろうかな俺・・・あの人俺たちを露骨に下に見てるから嫌いなんすよ」
宍道は嫌そうな顔をしながらシートを地面に引くと、さっきの会話でやる気がなくなったのかひいたシートの上にゆっくりと座り込んだ。
出雲はユニックのブームを伸ばすと、トラックの荷台にある荷物にスリングで玉掛けするとゆっくりと地切りし、ブームを旋回する。そして寝っ転がってる宍道の頭の上にフックを降ろしていく
「うわっ!急に荷物降ろさないでよ」
「ちゃっちゃっとやって早く帰るぞ。今日は資材搬入と機材セットしたら上がりだからハイブリ出る前に撤退するぞ」
宍道は渋々ゆっくり立ち上がると、右手を出雲の方に向けスラースラーと声を出して降ろしてと合図をする。
サキは携帯で入局管理のシステムに入ると業務内容を入力し局舎の鍵を開けてもアラームが鳴らないようにし、局舎の鍵を開けると運べそうな荷物を中に入れて行っている。
「やえ、どう?セットできそう?それともいったんハイリンカー使う?」
ユニックを扱いながら出雲が八重垣に声をかける。
「ハイリンカー使った方が早いですけど、もうちょっとでプログラム終了するんでこのまま行きます」
八重垣はパソコンに高速でタイピングしながら、足元に置いている機材のボリュームやスイッチを調整している。
「了解、今回ハゲから聞いてるハイブリの報告数がおかしいから、索敵重要になると思うから頼むぞ。」
「了解です」
炎天下の中各々が準備を進めて予定より早く本日の作業を終了できた。時計を見ると午前の11時、かんかん照りの太陽が真上に登る前に作業を終了出来た。
「みんなお疲れさん、撤収するぞ!!」
「はーい」 「はい」 「あい」
その時だったエレクトリカ3人の携帯に緊急アラームがなる。ブーブーブーと繰り返されアラームは事の一大事を知らせていた。すぐさまオペモードに切り替わった携帯から発せられた言葉は出雲から笑顔を消し去った。
「お願い出雲君、布志名くんを助けて!!このままじゃ布志名くんが!布志名くんが!」
由里香からの悲痛な叫びと懇願が携帯から響き渡った。




