ワイルドビースト
出雲と布志名は同年代であるが、エレクトリカとしての入社は布志名の方が1年先輩になる。
第7班に出雲が来る前からお互いに顔を合わせた時に喋って意気投合、ご飯を一緒に食べにいったり、遅くまで飲むこともある仲になっていた。
お互いに相手のことを気に入っており、第7班で一緒に仕事するようになると、休日も一緒に遊んで過ごす関係になっていた。
性格は大きく違うが、誰にでも優しく面倒見の良いさわやかな布志名と職人気質で短気だが情には厚い出雲で第7班の名物コンビとして認識されていた。
「出雲君お願い!布志名君を助けて」
この言葉を由里香から聞いた時出雲の表情は凍りついた。いつもの出雲から想像もつかないが一瞬頭の中に嫌なこともよぎった。
エレクトリカという職業はハイブリッドなどとの戦闘が多い為、殉死することが他の仕事と比べると格段に多い。現に出雲が入社してから2桁以上の仲間がなくなっていた。
布志名は全体的に見ても優秀で強い。エレクトリカとしてのランクもA級で固有資格も強い部類に入る。実績や経験も豊富でなんども危険な現場を完遂し乗り越えてきている。そんな布志名だから出雲は安心し信頼しきっていたのかもしれない。
「変異体とハイブリッドが数え切れないくらい襲ってきて」
由里香もあせっているのだろう。状況を伝えようとしているが、いまいちいつものキレがない。出雲にまず伝えなきゃいけない内容がうまく言葉になっていなかった
「すぐに増援申請と撤退指示を出したんやけど、数が多すぎて」
「由里ちゃん!!まずはどこに向かえばいい!布志名は今日はG15地区だよな!そこに向かえばいいんだな?!」
「G15地区の旧スタジアム広場!お願いしゅとくん!布志名くんを助けてあげて」
なんども繰り返される助けて助けてという言葉に出雲は焦る気持ちをぐっと飲み込み、現状況を頭の中で理解する。そして自分の最適な行動を考え出しすぐ行動に移る
「サキ、ジープでG15地区に急ぐぞ!宍道とやえはユニックでG15地区観戦広場まで向かってくれ!宍道鍵ぃ!!」
宍道はすぐに出雲の言葉を理解するとジープの鍵を出雲に投げる。出雲もユニックの鍵を宍道に向けて投げ返した。
(落ち着け俺、心はいつでもニュートラルに!間違っても他の人に焦りを伝染させるな!!)
ジープに二人は乗り込むとエンジンをかけ、元来た山道をかけていく。運転中も由里香との通信は続く
「由里ちゃん、どう頑張っても俺が着くまで20分はかかる!いちばん近くにいるやつは誰だ?」
「白石くんが5分でつくって」
「ゴリ・・・白石は強いけど多数戦にはむいていない。布志名の保護を優先させてくれ。あいつらは強いから大丈夫だから!」
「うん、わかった。待機班にも連絡はしてる。救護班にも連絡した。」
由里香も次第に落ち着きを取り戻しつつある。自分ができる限りの事を懸命に探し対処していた。
「それでこそ由里ちゃんだ。あとは俺が到着するまでに布志名を保護しといてくれ!対多数なら俺の出番だ。『アレ』で一気にかたをつけてやる!」
「わかった。今回は出雲くんに任せる。アレの申請は必ず間に合わせるから」
出雲とサキを乗せたジープは山道を猛スピードで下っていく。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
G15地区
布志名班 時間は少し前に遡る
異常を告げたのは11時
発端は由里香からの連絡だった
「何?これ!」
「どうしたの由里香ちゃん」
「なんで?!さっきまでは何も反応してなかったのに?!何この多数の反応!まさか地下から!」
由里香の索敵に多数の反応が表示される。次々と現れては数を増やしていくそれはモニターを塗りつぶしてゆく。先ほどまでの静寂とはうって変わりあたりに緊張が走る。
「ちょっと待って200も!そんなもっと増えていく!布志名くん撤退して、いくらなんでも数が多すぎる。」
突如現れた200という数に対し、こちらの戦力は1班の計6人、エレクトリカ1名という戦うにしては明らかに戦力が不足していた。この地区を任された時にシュミレートした内容とは完全に想定外の結果だった。布志名はすぐにあたりを確認すると増援と撤退の合図をする
「わかったよ。増援申請と逃走ルートのオペをお願い」
「増援はかけてもらってるよ。南側のゲートに向けて後退して布志名くん」
由里香から言われた通り南側のルートに進む布志名達。しかし南側のルートもハイブリッドがいないということではない。ただレーダーに映る数が少ない、ゲートが一番近いなど由里香が判断して最適なルートを提示しただけであった。
すでに肉眼でも確認できるハイブリッドの群れ。周囲を埋め尽くすが如く墓場からゾンビが湧きでるよう地下からゾクゾクとでてくる。
「南側を強行突破します。俺が道を作るんで、離隔壁の向こうまで逃げてください。ライセンスカードの承認を。」
布志名がライセンスカードをリーダーに通しエレクトリカを使用する準備にかかる。両手につけている増幅装置バンド型アンプが緑の点灯に切り替わる。
「承認したよ布志名くん。」
承認された後、布志名の周りに瞬時に電気の渦が出来上がっていく。迫り来るハイブリッドに対してバチバチと繰り返される閃光と鳴動。威嚇にも似た雷撃は布志名の周りをグルグルと駆け巡る
バチチ ドンッ バチバチ
一際大きな閃光が走ったのち雷撃がハイブリッドの群れを貫いていく。縦横無尽に駆け巡る雷撃 敵を貫いては次の敵に伝導していく
あいかわらずの威力 小型の雷といっていいソレは瞬く間にハイブリッド何体かの動きを止め、その作り出される熱量により標的は崩れ去る。このまま進路の敵を片付ければゲート向こうに退避できそうだと誰もが思っていた。
群れに対し二発目を布志名が放つ瞬間、群れの中から低い姿勢で高速接近してくる物体がひとつ
4足獣のように4つ足で駆け抜き、顎には大きな牙、足と手には鋭い爪が光る。また体をおおう鉄が普通のハイブリッドと違いゴツゴツと岩肌のような見た目をしていた。普通のハイブリッドとは見た目が違うその物体は隙間をぬって飛び出してくる
「変異体?!群れに潜んでたって事、まさかこいつジャミングも?!」
由里香が叫ぶより早く布志名は変異体ハイブリッドに反応すると電撃をそれに向けて解き放つ。
不規則に軌道を描き変異体ハイブリッドに向かい解き放たれた電撃 光速の水平落雷
周囲のハイブリッドも巻き込みより複雑な動きで四方八方から変異体を狙う
しかし変異体もそれに素早く反応すると地面を4つの手足で蹴り逆方向へと回転し上空に跳ね上がる。
電撃と電撃がクロスしけたたましい爆音が鳴り、地面はえぐれ砂埃を巻き上げる。
一瞬だった。たった一瞬。
一瞬だが布志名の視界から消えたハイブリッド。
次に布志名が目で確認できたのは、その鋭利な爪で後にいた若い作業員に飛びかかっていく瞬間だった。
「させるか!」
布志名がソバットのように足を空中で回転させ回し蹴りをハイブリッドに向けて下から上に打ち上げるように放つ。
ハイブリッドは布志名の電撃をまとった蹴りをくらい若干上に跳ね上がるが振りかぶった爪を強引に振り抜く。
ザクッッ
鋭利な爪が布志名の胸部から腹部を切り裂く、赤く舞い上がる鮮血と身体を走る熱さにも似た痛み。
「つっっっ!」
「布志名さん!!」
「くらってろ!」
布志名は切り裂かれながらも変異体に対し雷撃を至近距離から放つ。雷撃はハイブリッドを直撃し岩肌のような皮膚が衝撃により剥がれ落ち両者後ろに吹き飛ばされた。
「ぐぅ・・・今のうちにゲートの中へ、後は俺が引き受けます。」
「布志名さん!布志名さんも一緒に」
「早くいってください」
ジリジリと迫り来るハイブリッドの群れに対し負傷し片膝をついた状態の布志名。すでに1班で対応できる量を完全に超えており、肉眼で確認できるだけでもアリの行列のように地面を黒く塗りつぶしているハイブリッドに対し有効な打開策が浮かばない。
「数が多すぎるな、通信機もさっきので・・・」
布志名の額から冷や汗が滴り落ちる。脇腹は防刃性のインナーに染み渡るほど出血し、ボタボタと血液が地面を濡らす。
「大丈夫・・・まだいける。」
いけるというものの布志名の顔色はお世辞にも大丈夫とは言えない状態だった。
雷撃の直撃した変異体は数メートル吹き飛ばされた先でゆっくり立ち上がる。雷撃で剥がれた皮膚を手で触り確認すると、布志名の方を向き怒りににも似た咆哮をあげた。
「休ませてはくれないよな、ははっ」
布志名はそういうと再び傷口を手で押さえながら立ち上がり身体中に電気をまとっていく。
次の瞬間
ドンっ!!
一つの衝撃がハイブリッド一体を貫き吹き飛ばす。なにか強烈な一撃を受けたハイブリッドは何体ものハイブリッドをなぎ倒し建物にぶつかると壁にヒビをいれようやく勢いを止める。その衝撃は遅れて砂塵が舞い上がるほどだった。
布志名がハイブリッドの群れの中に見たものは、右拳を前に突き出し静止する大男の姿だった。
「布志名!!俺が来たー!!大丈夫だー!俺が来たー!!」
響く ボリュームが壊れているのではないかと思うほどにあたりに大男の咆哮が響き渡る。まるで拡声器でも使っているかのようビリビリと揺らぐひときわでかい叫び声
「我が名は白石睦月!第7班所属ぅ!布志名栞を救援に来たぁ!ヒーローは決して遅れない!俺がヒーローだからだ!!わかったかぁあ!!」
「白石か・・・とんでもないのが助っ人できたな 笑」
布志名は力なく笑うとペタンと座り込む
「しこたまぶん殴ってやるから覚悟しろ!有象無象!!うあぁぁぉーー!!」
白石は野獣のように咆哮し身体を震わせたのち拳を振りかざした。




