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ダークウィッチファンタジー   作者: 新木一天
1章 グリモア
8/22

7話 鉄兜VS神官

「さ、ちゃちゃっと片付けるか。凡人は下がってな。怪我するぜ」


 グッと背を伸ばしながら忠告する鉄兜。今日の彼女はスパッツにシャツ、マントとかなり臨戦態勢だ。だから余計に顔の鉄兜が場違いな気がする。


「やっぱり身軽にしてきたか。小兵だからトリッキーに攻めるタイプだと思ったけど、当たりだったな」


 ロトは自分なりに分析しつつも、周りの人に危害が加えられないように注意を払う。


 錯乱している神官と向き合う鉄兜。神官の目は焦点が合わず、仕切りにフーッと息を吐くばかりだ。


「これがグリモアに飲まれるってやつか。全く、恐ろしいな……。ま、これはこれで狩りやすくもあるが」


 半身をとって構える鉄兜。その姿を理解したか否か、神官は奇声をあげながら鉄兜向かって一直線に突進してきた。


 それを鉄兜は真上に飛ぶことでいとも簡単に回避する。ヒラリと空中で回転したのち元の場所に降り立つ。


「野蛮だね。こりゃ存外簡単に決着がつくかもしれないな。そうしたらあの男の出る幕も無くなるか」


 目に怪しい光を灯した神官。「うがっ!!」と荒い雄叫びをあげながら、拳を突き出してまた突進した。


「芸がない。三流以下だ」


 突進してきた神官の腕を取り、後ろへ回しながら固定して膝の裏を蹴る。カクンと神官の体がくの字に曲がったかと思ったその時、素早い動きで神官の体の上に飛び乗った。もちろん腕はキメたままで。


「私に近接戦闘で敵うとでも思ったのか。魔法を使うんだろ? 魔法使えよ三下!」


 あっという間に暴走した神官を制圧してしまった彼女。ロトはそれを見て驚き呆れるばかりだ。


「なんて人なんだ。強すぎるでしょ……。なんか薬違法な薬でも使ってるのかな?」


「失礼な。私をそんな風に見ていたのか仮面マン。以後その見方を修正しろ。でないと殺す」


 ロトのほうを見もせずにそう言い放つ鉄兜。体の下で神官が拘束から逃れようと必死にもがいているが、彼女は汗ひとつかかずに澄ました顔だ。


 ロトはと言えば昨日露店街で買った目立ち仮面を目元につけてフードを目深にかぶった。顔を見られぬように。


「なあ、なに、その仮面マンて名前は。俺か? 俺のことなのか?」


「呼びやすいだろ? 私はそれが気に入った。お前が私を鉄兜と同じようなものだ」


「いや、それは君が俺に名前を教えないから便宜上……」


「私とて仮面マンの名前は聞いた覚えがない。便宜上そう呼んでいるということにしてくれ」


 嘘をつくな。昨日教えたはずだぞ。そう怒鳴ろうとしてグッと我慢するロト。今はそんなことよりも目の前の男を処理することが先だ。


 スタスタと歩み寄って目線を神官に合わせる。じろりと睨むと、神官もジロリと睨み返した。


「すいません、あんたに二、三聞きたいことがあるんです。まずこの本のことなんですが……」


 そう言って足元に乱暴に落ちていた本に目をやった。


「うがっ……。さわ、るな……。それに、気安く触るな……。殺すぞ」


 ロトがそれを拾おうとするのと、男のおどろおどろしい声が通るのがおそらく同時だったと思う。バッと振り返ると、鉄兜に関節をキメられているにもかかわらず、神官は力任せに立ち上がった。


「おおっと」


「ああっ、大丈夫?」


 バランスを崩し慌てて飛び離れる鉄兜。それでも着地を綺麗に決めるところは流石と言える。


 微小な殺気を隠そうともしない神官は、漆黒のごとき黒の瞳でジッとロトたちを見た。ヨタヨタと歩く足取りは不安定で、しかしロトたちを寄せ付けない何かを放っている。


 グリモアの下までやってくると乱雑に落ちていたそれを拾い上げた。あうあうと何かを言いながら手をまっすぐ伸ばして魔法を——。


「だから、遅いって」


 それは例えるならば疾風だった。目にも留まらぬ速さで神官の元まで駆け寄り、顎に掌底をヒットさせた。神官はその衝撃で後ろに体を開く。


「魔法でもなんでも使えばいいけどさ」


 鉄兜の手刀が神官の首の横を叩く。ガコンと何かが外れる嫌な音がした。


「私に攻撃されないくらいには、早くしてもらわないとね!!」


 正拳突きが神官の懐に刺さる。鉄兜の圧勝だった。流れるような技のつなぎで、神官に反撃の隙を与えなかった。


 フラフラっと数歩後退してその場に倒れこんだ神官。起き上がりそうに、ない。


「……思ったよりもあっけない幕切れだったね」


「そうだな。これが魔女の眷属の力なのか?」


 そう言って首をひねる。どうやら鉄兜はこの神官を魔女の眷属と思っているらしい。


 その時、ゆらりと背後の影が揺れた。それは神官だった。殺気も闘気も纏っていない。いわば抜け殻のような状態の男が立ったのを、ロトは見た。見ていなければ、きっとわかりもしなかっただろう。


 神官の手から一発の魔法が放たれた。


「危ない!!」


 発射音の後、ロトは咄嗟に鉄兜を地面に突き飛ばす。頭上のスレスレを通ったそれは、奥の神殿に直撃。だが神官は特にかにするそぶりも見せない。


「なんだ今のは? 無詠唱の魔法発動なんて、聞いたことない!」


「飲まれたんだ、完全に。グリモアに飲まれたから無詠唱の魔法発動もできたんだ」


 その間も、続けざまに魔法を放ってくる神官。照準が定まっていないせいか、避けるのはひどく簡単だった。


「このままじゃ近づけない! どうすればいい!?」


 近寄るにも近寄れず、得意の近接戦闘を封じられた鉄兜が悲鳴に似た怒声をあげた。ロトは立ち上がって、彼女に笑いかけて、その後に前の神官を睨んだ。


「俺が引き付ける。その隙に君はあいつに近づいてくれ」


 提案した策に賛成なのか、すぐに走り出す鉄兜。ロトは右腕の包帯を外しながら呟いた。


「グリモアに飲まれた愚かな神官よ。本物の眷属の力を見せてあげよう」


 辺りには不穏な空気が流れていた。

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