9話 バイバイ
「やばい。息をしてない」
ルルゥの悲痛な声が響いた。なんせ彼の妹であるリリが瀕死の状態で埋まっていたから。魔女を倒したロトも駆け寄る。
「容体は?」
「目立った外傷はない。ただ魔力の消耗が激しい。おそらくさっきの魔法が強力過ぎたんだ。多分彼女が毎日飲んでた薬は魔力を抑える薬だったんだろう」
「そんな事はいい! リリは、助かるのか」
今にも消えそうな声で鳴いた。哀れんだがしかし、死者を蘇生など、できるはずもなかった。
クーもルルゥも悟っていた。リリがもう助からないことを。クーが静かに首を振りかけたその時。
「助かるかもしれない」
呟いたのはロトだった。ルルゥはとっさに服の裾に取り付いて「それは本当なのか?」と問うた。
「魔力がないなら増やせばいい。継承魔法というものがある。僕を媒介にして誰かの魔力を注げばなんとかなると思うんだけれど」
「俺のを使ってくれ!」
即答だった。
「下手したら死ぬかもだぞ」
「構わない!やれ!」
あまりの剣幕に気圧される。ロトはすぐさま魔法を使った。
※ ※ ※
結論から言うとリリは無事に生き返った。間一髪のところだったが、なんとか。代償としてルルゥの命の炎を燃やし尽くした。
「お兄ちゃんとヘクは?」
目が覚めて第一声にそれを言った彼女の気持ちが、ロトには想像できて、どうしても耐えられなかった。顔を背けてただひたすらに心の中で謝り続けた。
夕日が指す丘の上。墓標に見立てた石を地面に突き立てた所でクーがやってきた。彼女は冷ややかに俺を見ると「墓か」
「うん。供養だけはと思ってね。気休めかもしれないけど、どうしてもやらずにはいられなかった」
クーは「そうなのか」とだけ言って、夕日を眺めた。遠くを見つめる目には何が写っているのだろうか。
「友達がいたんだ。大事な友達だった。町で一番中の良い友達だったんだ。でも、彼が召喚してしまった魔女が、暴走して、彼と僕の手を飲み込んで街を壊し始めた」
ロトは誰に聞かせるわけでもなく、語り始める。いやきっと、自分自身に聞かせたいのだ。幼き日の後悔と懺悔を自分自身に刻むように語る。
「無力だったよ。何もできなかった。今頃になってようやく倒せたけど、正直やり切れない。本当に倒して、これでおしまいでいいのかなって」
ダメに決まっている。しかし、では何をして償おう。あの日の無力をいかにして補おう。
「私の街にはな、悪戯好きの女の子がいた。その子は毎日悪さばかりして、その日も街のみんなを驚かせようと覚えたての魔法をつかった。気がついたら街が火の海だった。魔女を誤って召喚してたんだ」
クーもまた自分の過ちを、誤りを謝った。言わずにはいられなかったとか、そんな青臭い理由ではなかったが。
その後二人はぼんやりと夕日を眺め続けた。沈むまで、ずっと、ずっと。
「バイバイだな」
クーが告げる。目的を達成したのだ。至極当然の流れだろう。ロトも賛成だった。
「これからどうするつもりだ?」
「僕は、とりあえず謝りに行くよ。誰、かはわからないけれど、謝るたびを続ける」
「そう。私は放浪の旅だね。自分探しの旅だ」
そう言って口を噤む。
星を眺めた。どうにもならないくらい綺麗で儚い星だった。全てを台無しにする輝きだ。
「一緒に旅をしない?」
ゼロからイチへと、そう言うつもりで誘う。
「構わない」
新たなものを探す旅だ。
こうしてロトとクーの旅はまだ続いて行くのだった。
了
これにてフィニッシュです。
後半だれてしまった。反省して次回作に取り掛かります。
日比野の次回作にご期待ください。
俺たちの戦いはこれからだ!(仮)




