空の宇珠 海の渦 外伝 祈りの傷痕 その四
「いくぞ!」
嵐が声をかけた。
「あの娘が、気になるのか?」
真魚はわざと言う。
「お前も乗れ!」
嵐が男に言う。
「お主、名前は何という」
真魚が男に聞いた。
「俺は我夢だ」
「俺は佐伯真魚、こいつが嵐だ」
真魚はそう言いながら、嵐に飛び乗った。
「大丈夫なのか?」
我夢はまだ信用していない。
「俺は神だぞ!」
「喋る獣に、神だと言われてもな…」
文句を言いながら真魚の前に乗った。
「しっかり持っておけよ!」
嵐はそう言うと飛んだ。
「おおおっ!」
飛んだ事よりもその速さに驚いた。
一瞬で、楠の祠の前まで飛んだ。
我夢はまだ信じられない。
「わかったか!」
嵐が自慢げに、降りた我夢を見下ろす。
祠の前には彩音が待っていた。
「あ~!」
我夢がついてきたことに、彩音は驚いている。
「山で出会った…」
我夢は、彩音にそう言うしかなかった。
彩音は笑っていた。
我夢に、心を許している事がわかる。
「ひとつ聞きたい事がある…」
真魚は、我夢と彩音に向かって言った。
二人が怪訝な表情で見ている。
「刀鍛冶を探している、この辺りにいるはずなのだが…」
「あ!」
それを聞いて彩音が声を上げた。
それは知っていると言うことだ。
「知っている…」
我夢が答えた。
「そこに連れていってもらえぬか?」
真魚は二人に頼んだ。
「ああ!」
彩音が喜んでいる。
「それは俺たちの家だ…」
我夢が笑っている。
「鉄斎先生に逢いに来たのだな…」
我夢がそう言った。
彩音が笑っていた。
二人に連れられて、村に向かった。
嵐は子犬の姿に戻っている。
「まさか子犬になるとは…」
我夢は驚いている。
「人前では、この方が何かと便利なのじゃ!」
嵐が二人に説明している。
「あの男と、どのようにして会ったのだ…」
真魚はあの男が気になっている。
「偶然、としか言いようがない…」
我夢はそう言ってうつむいている。
「あの場所で…俺は剣術を磨いている…」
「今日、そこに行ったら奴がいた…」
「なるほど…」
真魚の口元に笑みが浮かんでいる。
「何故笑っている!」
我夢は真魚の笑みが気に入らない。
侮辱されたと思ったらしい。
「何処かに、刀傷を残しているか?」
「そうか…」
真魚の言葉で、我夢が気づいた。
切り株や木に切りつた刀傷。
見る者が見れば、それがどういうものかわかる。
「奴は待っていたのか…」
我夢は、その事実に気がついた。
同時に、自分より先に気づいた真魚に驚いていた。
「侮れぬな…」
真魚がそうつぶやいた。
彩音は二人の会話を、心配そうに聞いていた。
続く…