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空の宇珠 海の渦 第四話 その九






挿絵(By みてみん)



前鬼は木の上で空を眺めていた。 

 

 

星空であった。

 

 

天空全てが星の海だ。

 

 

浄化の時が流れていた。

 

 

風が少し冷たい。

 

 

秋にはあれだけ聞こえていた虫の音も、聞こえてこない。

 


 

「媼さんやぼちぼちかのう」

 

 

前鬼が後鬼に話しかけた。

 


 

「そろそろかのう」

 

 

後鬼がそれに答える。

 

 

その時であった。

 

 

ちりりぃぃぃぃん

 

 

後鬼の笈に括りつけていた鈴が鳴った。

 


 

「架かった!」

 

 

後鬼が叫んだ。

 


 

「媼さんは真魚殿を呼んでこい、儂は先に行く!」

 

 

前鬼はそう言うと跳んだ。

 


 

「とうとう来たか…」

 

 

後鬼は興奮していた。




「真魚殿!」


 

祭祀小屋で休んでいる真魚に、後鬼が声をかけた。

 


 

「来たか!」

 

 

真魚は直ぐに起きて支度をした。

 


 

「久しぶりに暴れるか!」

 

 

嵐も興奮していた。



 

「嵐、気をつけるのよ」

 

 

壱与がまた起きてきた。

 

 

この娘の敏感さは尋常ではない。

 


 

「分かっているの」

 

 

壱与は嵐の頭を撫でた。

 

 

 

「子供か?」

 

 

嵐はおどけて見せた。

 



挿絵(By みてみん)




 

「行くぞ!」

 

 

真魚はそう言うと、祭祀小屋を出て行った。

 

 

外に出た。

 

 

その時である。

 


 

『何か忘れてないか…』

 

 

真魚の心に声が響く

 

 

その美しい声は真魚の心にだけ届く。

 


 

「何だ」

 

 

『私が渡したであろう?』

 

 

「あれか!」

 

 

真魚が瓢箪からそれを出した。

 

 

美しい宝玉であった。


 

 

首飾りになっていた。

 

 

 

宝玉は丁度枇杷の実ほどの大きさだ

 

 

見る者を虜にする、高貴な輝きを放っていた。

 

 

真魚はそれを持っていた棒に近付けた。

 

 

棒が揺らめいた。 

 

 

 

「ほう」

 


  

『必要なものだと言ったはずだ』

  


 

「すまない、感謝する」

 

 

 

真魚は素直に非を認めた。 

 

 

 

棒の太さより大きいそれを、真魚は棒に落とした。

 

 

すると、宝玉は鎖ごと棒に吸い込まれていった。

 

 

 

真魚は棒を両手で持った。

 

 

その瞬間棒が輝いた。

 

 

そして、重さが更に増した。

 

 


 

「やれやれ…」

 

 

真魚はにやりと笑った。

 

 


「最近独り言が多いな」

 

 

嵐が真魚をからかった。

 


「まあな…」

 

 真魚がうれしそうに言った。

 

 

 

「儂は爺さんが心配なのでな」

 

 

後鬼は、さっさと木の上を跳んで行ってしまった。

 

 


「行くか!」

 

 

真魚が嵐の背中をたたく。

 

 

嵐の目が金色に輝いた。

 

 

そして、嵐の身体が輝きだした。

 

 

霊力(エネルギー)が解放される。

 

 

身体がそれにつれて大きくなる。

 

 

真魚の背丈ほどでそれは収まった。

 


「乗れ!」

 

嵐が言った。

 

 

「それもそうだな」

 

 

真魚は棒を仕舞い、嵐の背中に乗った。

 

 


嵐が跳んだ。


 

速い。

 


挿絵(By みてみん)




 

「手加減しろよ」

 

 

真魚が嵐に言った。

 


 

「分かっている」

 

 

手加減しているとは言え、あっという間に後鬼を追い越した。

 

 

 

「うちも乗せてもらえばよかったな…」

 

 

嵐の後を追いかけながら、後鬼は後悔していた。



 


 



 

月明かりが山を照らしていた。


 

その頂上付近、木の上に人影が見えた。

 

 

斧を担いでいる。

 

 

前鬼であった。

 


 

「あそこだ!」

 

 

前鬼は光月を見つけたようだ。

 


 

「あいつら…」

 

 

真魚が笑っていた。

 


 

「わざと架かったのか」


 

嵐が言った。

 


 

石の上に座り待ち構えている。

 

 

隣に青嵐がいた。

 


 

「遅かったでないか!」

 

  

光月が立ち上った。

 


 

「これだけ離れているのに奴は見えるのか?」

 

 

前鬼が感心していた。

 


 

「波動を感じているのだ」

 

 

真魚が言った。

 


 

「見つかったのなら堂々と行くしかないな」


 

嵐が光月の前に降りた。

 

 

真魚も嵐の背から降りる。

 


  

「本当にそっくりだな」

 

 

嵐の姿を見た光月が言った。

 

 


挿絵(By みてみん)





 

「一つ聞いておきたい」

 

 

真魚が光月に向かって言った。

 


「この国、倭の国を、どうするつもりだ!」


  

真魚は光月の真意を知りたかった。

 



「国のことなどどうでもよいのだ…」

 


「俺が王になるだけのことだ…」


 

  光月はそう言った

 


 「百済国をこの国に創るのか」

 


 真魚が更に問う。

 

 

 

「百済再興か、それも面白い!」


 

 

「だが、どちらにしても俺が法となる」


 

「そのためにこの山をいただく…」


  

光月は笑った。

 


 

「やはり…そういうことか」

 

 

真魚は棒を出していた。

 

 

 

「逆らう者は死んでもらう」

 

 

光月が構える。

 


 

「俺が死ねば、嵐は手に入らぬぞ」

 

 

真魚が嵐の封印の秘密に触れる。

 


 

「どういうことだ」

 

 

光月は見落としていた。

 


 

「嵐の封印は俺しか解けぬ」

 

 

「俺が死ねば、嵐は子犬に戻りそのままだ」

 

 

真魚は答えを言った。

 


 

「そういうことか…」

 

 

「だが、気づいておろうが、俺が必要なのは霊力(エネルギー)だ」

 

 

「別に、お主でも良いのだぞ!」

 

 

「あの木の上にいる奴でも…」

 

 

光月はそう言うと、にやりと笑った。

 

 

真魚は棒を右手に持ち前に出した。

 


霊力を高める。

 


光の輪が回り始める。

 


真魚の身体が輝きだし出した。 

 



「ほう、これはこれは…」

 


「見事なものですね、初めて見ましたよ、それほどの霊力…」

 

光月はその手を懐に入れた。

 

その瞬間、光月の手が動いた。

 


「玄武!」

 

真魚が叫んだ。

 


巨大な亀の甲羅に似た光の盾が出現した。

 


かちぃぃぃぃん。

 

 

その光の盾に何かがはじかれた。

 

 

針であった。


 

数本の針が地面に落ちていた。

 


 

「ばれておったか…」

 

 

光月は歯を噛んだ。

 

 

 

「嵐、毒針に気をつけろ!青嵐はそれにやられたのだ!」

 

 

真魚が嵐に向かって叫んだ。

 


 

「卑劣な真似を!」

 

 

嵐が奔った。

 

 

 

「青嵐!」

 

 

光月が叫ぶ。

 

 

 

青嵐が奔った。

 

 

光と光がぶつかる。

 

 

甲高い金属音が響く。

 

 

 

「あれがあの青嵐か…」

 

 

前鬼は木の上でその様子を見ていた。


 

 

「爺さんや」

 

 

はあはあと息を切らし、鬼が到着した。

 

 

 

「おや、もう始めておるのか?」


 

後鬼は少し出遅れたようだ。

 

 

「媼さんやあれをどう見る」

 


前鬼が後鬼に聞く。

 


 

「あれがあの青嵐か…」


  

後鬼が前鬼と同じ感情を見せた。


 

 

「抜け殻みたいじゃな」

 

 

後鬼がそう付け加えた。 

 

 

 

「小角様の母君の事が…」


 

前鬼が言った。

 

 

 

「心に引っかかっておるのじゃろか?」

 

 

後鬼が言った。

 

 

 

「守りたかっただろうな…」

 

 

前鬼が目を伏せた。


 

 

「!」

 

 

前鬼が何かに気づいた。

 

 

 

「葉月と言う女、光月の双子だったな」

 


 

「それがなんじゃ」


  

後鬼は前鬼の考えについて行けない。

 


 

「あの光月、誰かに似てないか?」

 

 

前鬼は後鬼を答えに導く。

 


 

「あっ、葉月は女…」


  

後鬼が糸口を見つけた。

 

 

 

「青嵐は今でも母君の事を後悔しているのだ」

 

 

前鬼が青嵐の心を感じていた。

 


 

「それほど母君を…」

 

 

後鬼の目から涙があふれた。



 

「それで気を許してしまったのか!」


 

前鬼は悔しがった。




挿絵(By みてみん)




続く…






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