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空の宇珠 海の渦 第四話 その八


 



真魚達は百済の町に着いた。

 

 

職人の鉄貫の所に立ち寄った。

 

 

 

「いつ見てもその棒は惚れ惚れするなぁ」

 

 

鉄貫らしき職人が言う。

 

 

「俺もいつかそんなものを創ってみたいよ」

 

 

鉄貫は棒の美しさに惹かれていた。

 


 

「俺にはただの棒にしか見えんがな」

 

 

真魚が棒を見ながら言う。

 

 

 

「何をおっしゃる、これは神のなせる技ですぞ!」

 

 

鉄貫は形だけで、これがどんなものか見抜いていた。

 

 

それだけでこの男の腕がわかる。

 



挿絵(By みてみん)



 

 

「葉月という女がこの町にいるようだが…」

 

 

真魚は居場所が知りたいらしい。

 

 

それとなく尋ねた。

 


 

「たまにここに来ますが、住まいまでは…」


 

鉄貫が答える。

 


 

「ここで何を買っている」

 

 

真魚がそれとなく聞く。

 


 

「針です、着物を縫う」

 

 

鉄貫の答えに真魚が感心を示した。

 

 

 

「貴族の女が着物を縫っているのか?」

 

 

真魚は更に問う。

 

 

 

「詳しくは知りませんが、そうではないかと…」

 

 

「きれいな方ですよね」

 

 

鉄貫は顔を思い浮かべて笑っていた。

 


 

「美しさは罪だな」

 

 

真魚は鉄貫の笑顔を見て言った。

 


 

「えっ、何です?」

 

 

鉄貫は問い直す。

 


 

「いや、こっちの話だ」

 

 

真魚はそう言って鉄貫の前から離れていった。





「とりあえず行くしかないか」


  

そう言って真魚は寺に向かった。

 


 

「この先に何があるのじゃ?」

 

 

嵐が聞いてきた。

 

 

 

「寺だ」

 

 

「この前そこで女に逢った」

 

 

真魚はそう答えた。

 

 

しばらく歩くと寺の前についた。




挿絵(By みてみん)





 

「ここか、思ったより大きな寺じゃな」

 

 

嵐が寺を見通して言った。

 

 

寺の中には祠もあった。


  

神と仏が祀られている。

 

 

現在では神仏分離がされている。

 

 

この時代は神仏習合が当たり前だった。

 

 

仏は理であり、神は存在である。


 

そもそも分ける必要などない。

 

 

この宇宙にはあるべきものなのだ。

 




 

境内に入った。

 

  

「やはりな」

 

 

女がいた。

 

 

真魚の考えは当たっていた。

 


「あれか」

 


嵐が見た。

 



「似ている…波動までもがそっくりじゃ…」



嵐が真魚にそういった。

 

 

 

「これで、もう迷いはない…」


 

真魚が確信した。

 

 

女が真魚達に気がついた。

 

 

それとなく真魚達も近づいて行く。

 

 

嵐はただの子犬を演じている。

 


 

「あら、この子犬」

 

 

女は嵐に興味があるようだ。

 


 

「嵐といいます」

 

 

真魚が女に伝えた。

 

 

「元気そうね…」

 

 

女はそう言った。

 

 


その言葉の意味を真魚は探った。

 

 


「少し体調を崩してたんですが、久しぶりに…」


  

真魚は「体調」という言葉で嵐の具合を伝えた。

 


 

「あ、そうなんですか」

 

 

女は嵐を見つめた。

 

 

嵐に悪寒が走る。

 

 

あの男に似ていた。

 


 

「もう、大丈夫なんですね」

 

 

女はそう言った。

 


 「ええ」

 

 

真魚が言葉を返した。

 


 

「光月に逢いましたか?」

 

 

女が真魚に向き合う。

 

 

そして、真魚の目を見つめる。

 


 

「美しいな」

 

 

真魚は言った。

 


 

「えっ」

 

 

女は頬を赤らめた。

 


 

「一つ聞いても良いか?」

 

 

真魚が女に言う。

 

 

「何なりと…」

 

 

女は真魚に心を開いていた。

 


 

「葛城には何をしに行ったのだ」

 

 

真魚は葛城の地が気になっていた。

 


 

「母の出身が葛城なのです」

  

 

女はそう答えた。

 


 

「葛城氏の…」

 

 

真魚は考え込んだ。

 


 

「小さい頃は葛城で育ったのです」

 

 

女はどこか哀しげであった。

 

 

「淋しかったのだな」

 

 

真魚はそれだけ言った。

 



「ええ、淋しかった…の」

 

 

女の目から涙が溢れた。

 

 

真魚の言葉に包まれた。

 

 

真魚の言葉が嬉しかった。

 

 

感情の堰が切れた。

 

 

止めることが出来なかった。

 

 

真魚にしがみついて泣いた。

 

  

 

女の悲しみは深かった。

 

 

止めどなく流れる涙がそれを語っていた。

 

 

女の嗚咽はしばらく続いた。

 


  

嵐は周りを気にして、きょろきょろしていた。

 


  

しばらくすると女が顔を上げた。

 



挿絵(By みてみん)



 

「気が済んだか」

 

 

真魚が言った。

 


 

「楽になりました」

 

 

「あなたは思っていた通りの人でした」

 

 

女はそう言った。

 

 

真魚は微笑んでいた。

 

 


だが、嵐の疑問が解消されることはなかった。






 

帰り道嵐は考えていた。

 

 

何故あの女が泣いていたのか全く理解できなかったからだ。

 


 

「なぁ、真魚」

 


 

「何だ」

 

 

「俺には全く分からないのだが、あの女はどうして泣いていたのだ」

 

 

嵐は女心というものがどうも分からない。

 

 

壱与についても同じである。 

 


 

「淋しかったのであろう」

 

 

真魚はそう言った。 

 


 

「そうではない」

 

 

「何故淋しかったのかその理由が知りたいのじゃ」 

  

 

嵐は真魚に言う。 

 


 

「俺はそう感じただけだ」

 

 

「理由などない」

 


真魚はそう言って答えを濁した。

 


「確かにそうではあるが…」



嵐は納得していない。

 


「食い物は、うまいものはうまいであろう?」

 


真魚は嵐に問いかける。

 


「うまいものはうまい!」

 


嵐はわかる。

 


「それと同じだ、理由など無い」

 


真魚はそういう例えで返した。

 



挿絵(By みてみん)




「そういうことなのか!」

 


いつも、嵐の頭の中は食い物の事で一杯だ。


  

「うまいものはうまいか」



「それは疑いようがないな…」

 



それは変えようのない事実なのだ。

 


その事実は変わらない。

 


ただし、嵐がうまいと思っても、他の人がうまいと感じるとは限らない。

 


感じ方は人によって違う。

 


出来事、食べ物。

 


かなしい、おいしい。

 


全ては人が感じているだけで、それ自体に理由はない。

 


「さすが真魚だ」

 


嵐はすっきりした表情で前を見た。

 

 


ただ、女のことは気になっていた。



光月と双子の女。

 

 

光月と同じ波動を持つ女。

 

 

真魚に救いを求めた女。

 

 

嵐には全てが謎に包まれていた。 


 

 

続く…






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