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空の宇珠 海の渦 第四話 その七


 



あれから数日が経った。


 

壱与の看病のおかげで、嵐の傷はかなり良くなった。

 

 

だが、万全とは言えない状態だ。

 

 

嵐が傷を治している間、光月からの接触はなかった。

 

 

奴は傷の深さを知っている。

 

 

完治まではしばらくかかると考えているだろう。

 

 

おぼろげに奴らの正体は見えてきた。

 

 

だが、どこを拠点にして動いているかは、全く分からないでいた。

 

 

 

「奴らめ、足跡ひとつ残してない」

 

 

前鬼が偵察からもどってきた。

 

 

「後鬼はどうした」

 

 

真魚は後鬼がいないことを確認する。

 

 

 

「ちょっと仕掛けを仕込んでいる」

 

 

前鬼が説明する。

 

 

 

「なるほどな」

 

 

真魚には、おおよその見当が付いているようだ。

 

 

 

「じっと待っているのも退屈なんでな…」

 

 

前鬼は背負っていた笈を床に置いた。

 

 

 

「俺は明日もう一度あの女に会いに行く」

 

  

真魚が言った。


 

「嵐、お前もついてこい」


 

 

「お、俺もか?」

 

 

嵐は少し不安なようだ。

 

 

 

「だいぶ良くなっているけどね」

 

 

その不安を見透かして壱与が言う。

 


 

「少しは動かんと身体がなまるぞ!」

 

 

真魚はそれとなく、その日は近いという事を嵐に言った。

 


 

「そうだな、わかった、俺も行こう」

 

 

嵐は決心した。



 

そうしているうちに後鬼が帰って来た。

 

 

「あの山は、神の山だと言うのに何かおかしいぞ…」

 

 

後鬼がぶつぶつ言いながら帰ってきた。

 



挿絵(By みてみん)


 


「媼さん何がおかしいのじゃ!」

 

 

前鬼が後鬼に聞く。

 


 

「あんたは気づいておらんのか?」

 

 

後鬼が前鬼に問いただす。

 


 

「だから何のことじゃ!」

 

 

前鬼は短気だ。

 

 

 

「後鬼も気づいたのか」

 

 

真魚が助け船を出した。 

 


 

「さすが真魚殿じゃ、あんたとは違うなぁ」

 

 

短気な爺さんを諭す様に後鬼が言った。

 


 

「留守なのよ!」


  

壱与が言った。

 


 

「なんだそのことか」

 

 

前鬼もおそらくは感じていたであろう。

 


 

「そうか!!!」

 

 

真魚が突然叫んだ。

 

 

「その手があったか!」

 

 

真魚は思いもしなかった。

 


 

「どうしたのじゃ真魚?」

 

 

嵐に真魚の波動が伝わってきた。

 


 

「倭の国を我が物に…」

 

 

真魚は自分の考えに驚いた。

 


 

「それで、あの山をうろうろしていたのか」

 

 

前鬼は理解した。

 


 

「欲しいのは嵐と青嵐の霊力か!」

 

 

後鬼が納得した。

 


 

「そんなことが出来るの…」

 

 

壱与は驚いていた。

 


 

「出来る!」

 

 

「嵐と青嵐と光月の霊力があればな!」

 

 

真魚は珍しく興奮していた。




挿絵(By みてみん)





 

晩秋のすがすがしい風が吹いていた。

 

 

真魚と嵐は小さな川の側を歩いていた。

 

 

藤袴の花が咲いている。

 

 

真魚は棒を肩に担ぎ腰に瓢箪をぶら下げていた。

 

 

子犬の嵐がちょこちょこと足下を歩いている。

 

 

左手に耳成山が見えていた。

 

 

そろそろ日差しが強くなってくる頃だ。

 



挿絵(By みてみん)




 

「なあ、真魚…」


「俺を誘ったのは、何かあるからだろう?」

 

 

嵐が真魚に話しかけた。



「まあな」

 

 

真魚は笑っていた。

 


 

「今度は何を企んでいるのだ」

 

 

嵐はその考えを知りたかった。

 


「企んでいるのではない、企みに乗ってやっているのだ」

 

 

真魚はそう答えた。

 


 

「なるほど…」

 

 

「俺が元気であるという事を…」

 

 

嵐は真魚の考えを理解していた。

 

 

「お前を知っているのは奴らだけだ」

 

 

真魚は嵐を見せに来たのだ。

 

 

「俺は見世物ではないぞ!」

 

 

嵐はちょっとすねて見せた。

 

 

 

「奴等はきっと何処かで見ている」

 

 

「そのうちに必ず接触して来る」

 

 

真魚は作戦の全貌を嵐に話した。

 


 

「さすが真魚じゃ…」

 

 

相変わらずの真魚に嵐は感心していた。

 

 

 

「なぁ、真魚よ…」

 

 

嵐が革まって言う。

 

 

「何だ」

 



「俺の封印の事だが…」

 

 

「封印がどうした」

 

 

真魚は素っ気ない。

 

 

「壱与は苦労して考えていたのじゃが…」

 

 

「お主は何故解く方法が分かったのじゃ」

 

 

嵐が申し訳なさそうに聞くので、少しおかしくなった。

 


 

「なんだ、そのことか」


 真魚は笑った。

 


 

「それはお前が望んだからだ」

 

 

「覚えてないのか?」

 

 

真魚がそう言って嵐を見た。

 


 

「そうだ、如月を…」

 

 

嵐は思い出した。

 


 

「鍵は二つだ」

 

 

「俺の心とお前の心だ」

 

 

真魚はきっぱり言った。

 


 

「そのどちらが欠けても扉は開かぬ」

 

 

真魚は正しかった。

 

 

そうなのだ。

 

 

嵐は確信した。

 


 

「壱与は表側からだけ開けようとした」

 

 

「だから、分からなかっただけだ」

 

 

真魚はそう説明した。

 


 

「だが、あの娘なら、お前の封印だって解くかも知れぬぞ」



「それが、分かればな…」



真魚の言っていることは正しかった。 

 


嵐は壱与に心を許している。

 

 

いや、傷の手当の時に波動を合わせている。 


 

「あの娘ならやりかねんな…」

 

 

嵐は確信していた。


 

続く…





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