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映し鏡の物語  作者: 蜉蝣
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第1話:碧眼の死神


とある盗賊ギルドの地下の酒場。入り口そのものが隠されているせいで、薄暗い店内になかなか入って来る者はいない。


今日もギルドマスターのアルバートは、普段通りいつ来るか分からない客を待っていた。職業柄客が立ち寄る時間帯は、日没後すぐか明け方が圧倒的に多い。彼にとって、深夜は退屈を持て余す時間帯でしか無かった。


ただし、今日はいつもと違う事がある。珍しくカップを磨く彼の横で、挽きたてのコーヒーが香ばしい薫りを漂わせている。大切な客が来る時に出す、彼の自慢のブレンドだ。


酒場とはいいながら名ばかりなもので、彼がマスターになってからはむしろ喫茶店に近くなっている。常連客からは好評で、仕事前の一杯と言えば必ずここではコーヒーが注文される。



ちょうど深夜を過ぎた頃の事だった。チリン、と扉のベルがなる。客の来た合図だ。アルバートはカップを置き、扉の方を向いた。


扉が開き、客が入って来る。現れたのは妙齢の女性。アルバートの頬が思わずだらしなく緩んだ。この店唯一の女性客だ、無理も無い。


「ハロー、マスター。何かいい依頼来てない?最近小遣い稼ぎみたいな依頼ばっかで退屈なのよ。」


カウンター席はいつも空いている。彼女はためらう事なくアルバートの目の前に座った。微笑んで、いつものね、と彼に注文。

他の客がいる時には絶対に見せない、笑顔。それは、彼女の信頼の証だ。


猛禽類を想起させる切れ長の鋭い目。コバルトブルーの瞳は、絶えずどこかをにらんでいる。上下とも質素な革服で、腰のベルトには細身の投擲用ナイフ。両脇には、短剣。

入れたてのコーヒーを待つ物騒な装備の持ち主は、碧眼の死神と呼ばれていた。狙われたら最後、死神のように付きまとう恐ろしい女。アサシン、それが彼女の職業だった。


「使いをよこすなんて珍しいじゃない。大きな仕事でも入ったの?」


「ああ。でかいさ。前金二万、達成はターゲットから直接。」


「へぇー、なかなか。ターゲットは?」


「闇剣聖アンジェラ。Sクラスの超大物だよ。うわさでは、最近リール城塞を包囲していた魔族の大群をたった一日で全滅させたとか。」


「私、Aクラスよ?勝てっこないわ。」


アルバートが鼻で笑った。冗談だろ、という感じだ。



「ふん、嘘つけ。この間昇格試験受けていたくせに。それに、ユリナへ指名の依頼だ。」


ばれたかと冒険者カードをユリナはカウンターに出した。カードには彼女の偽名、リサと、大きなSの文字。

彼女はニヤッとすると、手のひらを出した。


「しょうがないわね、前金ちょうだい。この仕事請けるわ。たまにはスリルも味わいたい…し!」


ユリナが突然動いた。呆気にとられるアルバートの前で、

物陰から一人の男を引きずり出すユリナ。その喉元には、ナイフが鈍く光る。


「こそこそしてたって、気配で分かるわよ。あたしの名前、結構高く売れんのよねぇ?三下さん。いくらで売るつもりだったの?」


アルバートと話していたさっきの声からは想像もつかない、どすのきいた声。男は震え上がり、声も出ない。ユリナはおどすように続けた。


「鬼ごっこしない?私が鬼よ。あんたはあたしが数える間に逃げるの。ほら、逃げなさい。」


ユリナが放すと、男は一目散に逃げ出した。


「腰抜けが。まあ、ユリナに睨まれたら仕方ないだろうけどな。いいのか?逃がして。」


「三下はこれだから困るわ。ねえ、アル。悪いんだけど用事できちゃった。お金はいいから、次来る時まで取っといて。闇剣聖アンジェラの依頼、終わったら戻るわ。」


「鬼ごっこ、か。怖い鬼さんだ。」


「じゃ、行くわ。またね。」


あいさつもそこそこにユリナは出て行った。鬼ごっこをしに。残されたアルバートは食器の片付けを始める。


鬼が男を捕まえた事が分かったのは、それから数日後の事。男の喉は、鋭利な刃物で切り裂かれていた。男の胸には、メモがピンで留められていたという。



捕まえた、と………。

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