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第四章:三十歳の女王様が洋食の食べ方を教えてくれて、ついでに躾けられる件

1


洋服店を出ると、夕暮れの風がひんやりとした涼しさを運んできた。


私は荷物を幾重にも抱え、身にまとったこの服のせいで、歩く姿までぎこちなくなっていた。別に体に合わないわけではない。むしろぴったり過ぎて、着心地が良すぎるせいだ。あまりにしっくり馴染んでしまい、まるで大人の服を盗み着た詐欺師のような気分になる。


店の前には黒い高級車が静かに停まっていた。制服を着込み、髪をきっちり整えた老執事が既に傍らに控えて立っている。


「奥様、お荷物はこちらで全て揃っておりますでしょうか?」執事は恭しく腰を曲げた。


「うん、全部ここにあるわ」詩織は無頓着に私が持っているショップバッグを指し、私の方を向いて言った、「あげなさい。もう持たなくていいわ。」


私は一瞬呆然とし、袋を差し出した。


執事は袋を受け取る際、まるで至宝の宝物を捧げ持つかのように優しく扱い、職業的な微笑みを浮かべた。「神崎奥様、こちらの衣類一式は本宅の客室クローゼットに丁寧に収めさせていただきます。」


余計な呼称は一切使わず、ただ恭しく受け渡しを済ませた。


車がゆっくりと走り去るのを見て、私はほっと息をついた。だが直後、詩織の声が響いてきた。


「行きましょう」彼女は車を呼ぶこともなく、銀座の静かな路地を奥へと歩き出した。「この店のステーキは絶品よ。ちょうどお腹も空いた頃でしょ。」


2


私は操り人形のように彼女の後ろをついていく。


路地の奥、分厚い木製の扉が開かれ、風鈴の澄んだ音が響いた。


店内の内装は落ち着いた暗金色調で、騒がしいBGMはなく、ナイフとフォークが皿に触れる微かな音だけが漂っている。


支配人らしき中年の男性が恭しく私たちを窓際の席へ案内した。


「神崎奥様、いつものお席にご案内いたします。」


「うん」詩織は優雅に腰を下ろした。その瞬間、彼女はまるでこの店と一体化したかのように、気高く冷ややかで、それでいて抗いがたい魅力を放っていた。


一方の私は、陶器店に迷い込んだ野良猫のように、堅苦しく向かいのベルベットの椅子に座った。


椅子は柔らかすぎ、照明は暗すぎ、この雰囲気に私はどう振る舞えばいいか分からなくなる。


3


「メニュー、読める?」詩織は分厚い革張りのメニューを私の目の前に押し出し、からかうような眼差しを向けた。「それとも私に頼んでもらう?」


「わ、私自分で……」私は意を決してメニューを受け取った。


紙面にはフランス語と英語が入り混じり、後ろの金額の桁が多くて目がくらむ。せいぜい「Steak」と「Salad」くらいしか読めないのに、記載された値段を見た途端、メニューを閉じて見なかったことにしたくなった。


「じゃあ前菜はフォアグラ、主菜はフィレステーキにしましょう」詩織は私に迷う隙も与えず、流暢に料理名を告げ、焼き加減まで尋ねもせずに続けた。「レアよりウェルダン寄りの七分熟。彼にはそのくらいが消化にいいわ。」


「かしこまりました、奥様。」


給仕が立ち去った後、再び気まずい空気が流れ込んだ。


詩織は片手で頬を支え、探照灯のような視線で私の顔をじっと眺め回している。


「知ってる?」彼女はふいに柔らかな羽根のような声で話し出した。「さっきの店で、私が君の男だと見破った時の、ほっとしつつ慌てふためく表情……とても美味しかったわ。」


私はグラスを強く握りしめ、指の関節が白く浮いた。


「娘を拾ったつもりが、まさか息子だったなんてね」彼女はくすりと笑い、ワイングラスを口元に寄せて一口啜った。「でもいいわ。男の子なら、躾けるのも楽だもの。」


4


前菜が運ばれてきた。


見た目の盛り付けが極めて繊細なフォアグラに、見知らぬソースとパンが添えられている。


私は彼女の真似をしてナイフとフォークを手に取ったが、手が震えてしまう。


最初にナイフを入れた拍子にフォアグラが崩れ、ソースが真っ白な袖口に飛び散った。


「す、すみません……」私は慌てて拭おうとし、顔は耳の付け根まで真っ赤になった。


「動かないで。」


詩織の声は大きくはないが、断固とした命令の響きを帯びていた。


彼女はナプキンを取り、テーブルを越えて自ら私の袖口を拭ってくれた。


動作はとても緩やかで繊細で、指先が時折私の手首に触れ、冷たい感触が走る。


「フランスでは」彼女は拭きながら低く語り、まるで童話を話すような口調だった。「パンを素手で直接取って食べるのは、躾がなっていないと見なされるわ。でもここなら、好きなようにお菓子感覚で食べてもいい。」


ナプキンを置くと、美しい瞳で私を真っ直ぐ見つめた。


「だけど私の前では、躾のない振る舞いは許さない。この服がいくらするかなんてどうでもいい。大事なのは、着る人間が、その値段に見合う存在になることよ。」


5


主菜が運ばれてきた。


肉厚なフィレステーキが白い骨董皿に盛られ、食欲をそそる香りを漂わせている。


「ナイフはこう持つのよ」詩織はふいに手を伸ばし、私の右手に重ねてきた。


彼女の掌は柔らかく、それでいて力強い。指の形を整えてくれるその仕草は、食事のマナーを教えているというより、言うことを聞かないペットを躾けているようだ。


「左手で肉を押さえ、右手で一気に切るの。ノコギリのようにギコギコ切るんじゃなく、スパッと切り分けるの。」


彼女はすぐそばまで寄ってきて、シャンプーの香りと彼女特有の冷ややかな気配が、私を完全に包み込む。


「覚えた?」手を離し、自分の席に戻ると、「上手く切れなかったら、今夜は帰してあげないわ。」


私は皿の生々しい肉を見つめ、向かいで優雅に食事を進める女の人を眺めた。


その瞬間、彼女が私に生きるルールを教えようとしているのか、それともこのルールを使って、私をずっと彼女の側に閉じ込めようとしているのか、分からなくなった。


それでも私はうつむき、彼女に教わった姿勢のまま、不器用に一切れ目の肉を切り取った。


口に運ぶと、柔らかくジューシーでとろけるような美味しさだった。


これまで食べた中で一番美味しいステーキであり、同時に一番居心地の悪い食事でもあった。

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