第2話 姿を偽り、試される日 前編
〜前回のあらすじ〜
「星姫」と呼ばれ魔神を倒すことを期待されている少女マナ・セレスティア。
ラニアケア皇宮がマナ達「星の民」を捜すことを決めたことに、恐れを隠せない。
対策を万全にしつつ、国内1の学校、皇立マーラプア学園の入学試験を受けることに。
ついに迎えた2月1日。
今日は皇立マーラプア学園入学試験の日。
マナは7時ちょうど、目覚まし時計に起こされた。
今日は絶対に、遅刻できない。
眠い目をこすりながら、もそもそとベッドから出て、服を着替える。
可愛い白のワンピースに、水色のケープを羽織る。
よくある服だけど、マナはこれが好きだ。
もろもろの準備をして、一階へ降りる。
お母さんはもう起きていて、朝ごはんができていた。
「マナ、おはよう。ご飯食べてね」
「おはよー、お母さん。いただきまーす」
今日は試験の日なので、しっかり腹ごしらえしないとだ。だから朝ごはんは、ご飯と味噌汁、そして旬のりんご。
「ごちそうさま」
2人はご飯を食べ終え、お皿を下げた。
マナは洗面所に向かう。
鏡に映る自分を見て、少し胸がざわつく。
この髪と瞳の色ーー「星姫」だと公言するようかものだ。
だから、星の形をした、とても綺麗な髪飾りを使う。
つけた人の髪と瞳を黒く染めることができる、不思議な髪飾りだ。
鏡を見ると、“ごく普通の女の子”になった自分がいた。
お母さんもそれをつけた。準備はOK。
「行ってきます」
玄関で靴を履き、鞄を手に取る。さぁ、出発だ。
マーラプアには徒歩20分くらいで着く。
久しぶりにゆっくりと眺める皇都の景色は、冬の寒さからか、どこか静かだった。
今日は吐息が白く濁るような、寒い日だ。
(寒いのは、苦手なのに・・・)
それでも歩み、マナ達は学園に到着した。
皇都に佇む名門校、皇立マーラプア学園。
マナにとっては、場違いに思えるほど広かった。
「広いね〜」
「そうね。マーラプアは昔戦争のための砦に使われていたらしいわ。なのに石垣もなく、こんなに綺麗なんてすごいわね」
最初に出迎えたのは、大きなアーチ型の門。
その前にかかった橋には、華やかな装飾とランプ。
堀を渡り、花と木が並ぶ道の先に、立派な校舎が見える。
さて、門をくぐったらお母さんとは別れる。
たくさんの先生達が見回っている。
受験生を護るためと、ある種の面接のため。
マナは極力、背筋を正して歩く。
家では姿勢を正しく座っているが、貴族がやるような歩き方は、習っていない。
(まぁ星姫だしオーラで・・・なんとかなるわけないか)
そう思ったのもそのはず、先生がマナの方へ歩いて来ていた。
左目にモノクルをかけた、いかにも偉そう・・・いや、威厳のある先生だ。
「初めまして、お名前を教えてください」
「!初めまして、私は、マナ・セレスティアと申します」
「セレスティアさんですね。私が誰か、分かりますか?」
「皇立マーラプア学園、学園長カノア・サージェス先生です」
「はい。その通りです」
緊張に喉がひりつくが、軽く息をつく。
学園長が笑顔で、言う。
「セレスティアさんは、何故この学園に?」
志望動機ってやつだね。
マナは静かに深呼吸をして、笑顔で、丁寧に答える。
「はい。初めは、近所の皆様に勧めていただきました。ぜひお勧めですと。そして、学校見学に来た時、先生方の優しく、丁寧な授業、そして生徒方の明るく、真面目な姿が心に残り、受験を決めさせていただきました。来ることができて嬉しいです」
もちろんこれは、ただの模範解答というやつだ。
実は一度見学に来ただけだし、受験を勧めたのも直接マナにではなく、お母さんを通してだ。
学園長が続けて答え、質問する。
「なるほど、ありがとうございます。もう1つお聞きしたいことがあります」
「はい」
「セレスティアさんは、何か人と話すことに対して嫌な思い出などがありますか?」
マナは少し、ドキッとした。
探るような目に、鼓動が早くなる。
「どこか一線を引いたような話し方でしたので、何か悩みがあるのかと。生徒の悩みを聞き、解決するのも先生たる者の役目です」
どうやら話し方が硬すぎたようだ。
「星姫」だとバレるんじゃないかと、少しの不安がよぎる。
「ありがとうございます。実は幼い頃、少し怖い目に遭いました。それ以来、1人で外に出ることに不安を感じるようになりまして・・・」
「・・・それは大変でしたね。お話ししてくださり、ありがとうございました。不安がありましたら、いつでも私にお話しください」
「ありがとうございます」
学園長は柔らかな笑顔で、頷いた。
マナは綺麗なカーテシーで礼をし、その場を離れた。
手が震えるのを感じたが、深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
(大丈夫、バレてない・・・ちゃんと話せてる)
マナは引きこもりだったのだが、ちゃんと話すことができる。
けれど代わりに、先ほどの解答も含めて、とても模範的すぎる答えになったりする。
マナは校舎の中に入り、下駄箱で内履きに履き替えた。
そして靴を持ってきた袋に入れ、受付のあるホールに行く。
黒髪のおっさん先生が受付に座っている。
「ようこそ、マーラプア学園へ。試験番号と名前を言い、受験票を見せてください。荷物検査もします」
「はい。試験番号20番、マナ・セレスティアです。受験票はこちらです」
「はい。確認しました。では鞄の中を見せてください」
マナは指示通り鞄を開き、中を見せる。
中には教科書とペンケース、水筒とお弁当だけ。
「問題ありません。奥へどうぞ。1年下級クラスの教室で受けてください」
「はい。ありがとうございました」
受付を過ぎて、奥へ進む。
途中、小さな金属探知機の前を通った。
例年はこんな検査はしないが、今年は特別だ。
(そういえば、皇太子様が受験に来てるんだったな。そりゃあ厳しくもなるよね》
教室の扉を開けると、一際目立つ皇太子がいる。
けれどもちろん会話などしないので、通り過ぎる。
少し視線を感じた気がしたが、気のせいだと思い込んだ。
すでに多くの人が、黙々と勉強をしている。
あまりの緊張で、顔色が悪い子もいる。
マナも黒板に書かれた席に座り、理科の資料集に目を通す。
1番不安を覚えている科目だ。
(今はもう残っていない科学なんて、資料も断片しか残っていないのに・・・)
ページをめくる音、何かを書く音が、教室に響く。
ここは試験の場なのだと、よくわかる。
その時、ドアが開いた。
試験官ーーさっきの学園長だ。
この教室には皇子がいるからか、学園長自ら監督するらしい。
みんなは手を止め、姿勢を正す。
学園長が受験生を見回し、言う。
「皆さん、おはようございます」
「「「おはようございます」」」
マナも含め、みんな声を揃えて返した。
「はい。ギリギリまででも勉強したら、何か変わるかもしれません。応援しています」
「「「ありがとうございます」」」
みんなはまた、教科書に視線を戻し、シャーペンを手に取った。
空気が張り詰め、緊張が伝染していく。
また少しして、学園長が告げた。
「今から5分後に、筆記試験を開始します。教科書等をしまい、筆記用具を出してください」
みんな、ギリッギリまで教科書を見て、暗記する。マナも教科書とかをしまう。
そしてペンケースから、星柄のシャーペンと、消しゴムを2個ずつ、替芯も出して机の上に並べた。
そして、国語の問題用紙と解答用紙を配られる。
チャイムの音と共に、学園長が言う。
「これより、国語の試験を開始します」
みんな一斉に問題用紙を開き、解き始める。
文字を書く音、ページをめくる音が、本人も周りも焦らせる。
長いようで、短い制限時間。
得意な国語はすらすらと解けた。
だが理科は苦手で、かなり悩まされた。
全5教科、一科目60分。計5時間の試験。
8時から休みを入れて、1時40分までだ。
チャイムが鳴り響いた。
「これにて筆記試験を終了します。筆記用具を置いてください。解答用紙を集めます」
そして、学園長が解答用紙を集めて回った。
枚数と、名前が書かれているかを確認する。
「確認が取れました。では、これから40分間休憩をします。皆さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
みんなが挨拶し、学園長が教室を出る。
扉がしまると、空気が一気に緩む。
学園長の前だからか、気を張っていたらしい。
脱力する子がたくさん。
それぞれ自分の机で、持参したお弁当を食べる。
マナもお弁当を取り出す。
「いただきます」
マナは手を合わせ、小声でそう言った。
二段弁当で、ご飯の上に海苔で器用に「ファイト!」と書かれていた。
マナはそれを見て、少しやる気が回復した。
この後は、剣術試験だ。
絶対王政のラニアケアでは、子供たちに剣術を教えることが当たり前になっていた。
王は己の身を守るためーーといつも言ってはいるが。
(本当は自分を守らせるためーーだよね)
だから、マーラプアでも剣術試験がある。
もちろん安全のため木剣で。
さて、40分経った。チャイムが鳴る。
キーンコーンカーンコーン♪
今回は、学園長の秘話を書きます。
マーラプア学園長、名前はカノア・サージェス。
7人の弟妹がいる大家族の長男として生まれ、日々弟妹の世話に追われていました。
両親は相思相愛のもはやバカップルです。
おかげで弟妹が増えました。
けれど、両親はバカップルにしては頭がよく、なんとかと天才は紙一重を体現したような人たちでした。
その2人は医者で、お金には困らないものの、人手にめっちゃ困っていました。
長女である2歳下の妹も手伝ってくれたものの、絶えない喧嘩、騒がしい声、近所からの苦情は、カノアを悩ませました。
カノアは、マーラプア学園に入り、1人の先生と出会いました。その先生は、カノアに言いました。
「貴方は責任感が強いのね。でも、無理してはいけない。これからは、親に甘えることを、学びましょう。貴方のご両親は、きっとわかってくださるから。わからなくなったら、教師である私が、教えるからね」
カノアはその言葉に胸を打たれました。
家に帰って、親に相談しました。すると親は、謝りながら受け入れてくれました。
それ以来お手伝いさんを雇い、カノアは楽になりました。しかし、あの恩人の先生は親の介護のため、どこかへ行ってしまいました。最後にお礼を伝えた時、笑顔で先生は言いました。
「もう大丈夫ね。貴方は優しいから、無理しないでね」
そして先生を見送りました。
その後、カノアはあの時の先生の背中を追いかけ、とうとう立派な先生になりました。
はたして、この2人は再会できたのか。
それはカノアのみが、知っています。
星への願いが、叶いますように。




